第6話
恋と連れ立って、愛美ちゃん達が拾った場所に向かう。隣を歩く恋を盗み見てみると、フンフ~ン♪と鼻歌を歌って私今とても機嫌良いですと言ってるかのような雰囲気をこれでもかと周囲にばらまいていた。
まだ一つも貝殻を拾ってないってのに、この有様だ。実際に拾った時、恋のテンションが振り切れるんじゃないかと心配になってきた。
そんな俺の心境など知った事かといった感じで、竹刀片手にルンルン砂浜を歩く恋。………竹刀ッ!?
「れ、恋。お前いつの間にそんなの持ってきたんだ?泳いでる時持ってなかったと思うんだけど…」
「ん?あぁ、これか。ふふん♪これは更衣室に戻った時、序でに持ってきた。何、うるさい男子どもなど私の『虎徹』の錆びにしてくれる。凜、お前は何も心配しなくて良いぞ!」
……虎徹って…それ只の竹刀じゃん。拾った時のテンションを心配してたけど、既に今の恋はおかしかったか。
これは、琢磨みたいな発言したらどうなるか分からないな。前世じゃ、あまり恋とは関わらなかったから、どこまで踏み込んでいいのか探り探りなんだよなぁ。
それにも関わらず、恋の為に一肌脱ごうとした俺って結構なお人好しなのかねぇ。ふぅ…と一つ息を吐いて、恋の顔を見れば何溜め息出してんの?って感じで俺を見ているのに気付いた。
「凜、溜め息など出してどうした?お前はクラスの男子の中では、比較的好む性格をしているのだ。そんな男らしくない溜め息など出すな。『胸を張って、前を見据えて歩く』それが日本男子という物だと父様から私は聞いたぞ?」
「……恋のお父さんって、昔気質の人なんだな。というか、俺が男子の中じゃ恋の好む性格してるなんて初めて聞いたんだけど」
「自慢の父様だ。あの人以上に『漢』という男を私は知らん。まぁ、お前はその点体は鍛えているようだし、頭も良い。それに何と言っても女に手を上げるようなカスではないからな」
自分のお父さんを自慢する恋の顔は、今まで見てきたどんな表情でもなかった。本当に、心から尊敬しているのだとその顔から読み取れる。
そんなに自慢する程の人なら一度会ってみたいと思うけど……恋のお父さんって恋を見てれば分かるけど、恋の事を溺愛してると思う。
それはもう、変な虫が寄り付かないように。……うん、会うのは止めておこう。何でか、俺の勘が悲鳴をあげたしね。
俺の事を話す恋の顔が、お父さん程じゃないにしろ認められていると分かる表情だったのも、俺のその勘に輪をかけてるし……。
「は、ははは…恋に嫌われないように、これからも頑張るよ」
「あぁ、そうしてくれ」
その会話を最後に、俺と恋は一言も話さずに貝殻を見つける事に集中した。何となくあれ以上話すのは危険な匂いがしたってのもあるけど、貝殻を探す恋の顔が真剣だったから話しかけられなかった。
そして、探す事約30分。漸く愛美ちゃん達が拾った貝殻とまではいかないけど、日の光を浴びてキラリと光る一つの巻貝を見つける事が出来た。
それを見つけた時の恋は、いつもは見せない笑顔を顔いっぱいに浮かべて、それを持ったまま俺の方に駆けてきた。
「凜ッ見つけたぞ!どうだ!愛美達程とは言わないが、可愛い貝殻だ。これを見つけた私に感謝するんだぞ!」
恋はそう言って俺の手にその貝殻を落とし、両手を腰に当ててドヤ顔を向けてくる。そのドヤ顔を見ていると褒めてやらないといけないような気がしてくるから、本当に不思議だと思う。
「可愛いの見つけたな。でも、これは恋が見つけたんだから恋が持ってなよ。女子がアクセサリーにするらしいから、恋も愛美ちゃん達に教えてもらったら?あぁ、それから同じ班の好未ちゃんや知枝美ちゃんに聞くのもいいと思うぞ。知枝美ちゃんってそういうの詳しそうだしな」
「り、凜がそう言うなら……ありがとな」
「ん?最後に何か言ったか?」
「な、何でもない!もう直ぐ12時になる。先生がお昼には一旦集まるように言っていたし、私達も戻るぞ!」
竹刀で埋まっていない空いている方の手に巻貝を持って、恋は俺に背を向けて集合場所の東屋に向かって走り出す。照れる恋……激レアだな。
▼ ▼ ▼ ▼
「さて、それじゃ皆いただきます!」
「「いただきます!!」」
まさのり先生の挨拶を皮切りに、手を合わせて挨拶すると俺達は自分の弁当箱を開けていく。俺の弁当箱には母さんが頑張って作ってくれた、色取り取りのオカズがたくさん入っている。
普段は料理が余り好きじゃないといって、手の凝った料理をしてくれない母さんもお弁当の時は頑張るらしい。
何でも、友達の弁当箱のオカズと自分の子どもの弁当箱のオカズに差があると、俺も恥ずかしいし母さんも恥ずかしいって事らしい。
確かに前世だったらオカズに対してあぁでもない、こうでもないと母さんを困らせた覚えがある。
でも、今の俺は前世の記憶を持ってるわけで……生姜焼きとかハンバーグってオカズがあるなら、それで十分なんだよね。
隣を見れば、力が弁当用のナポリタンを口いっぱいに頬張っている。子どもらしくて結構結構。雅司達他の男子も、友達同士でオカズの交換という子どもらしい事をしている。
それを見ると微笑ましいなぁと思う俺は、頭脳は大人、体は子ども。美浦凜です。……と、現実逃避はいい加減に辞めないといけない…かな。
「ねぇ凜、コレ私が作ったんだよ」
「り、凜君。頑張って作ったんだけど、どうかな?」
「うわぁ~凜君のお母さん頑張って作ったんだねぇ。茉衣のママが作った玉子焼きと凜君の玉子焼き交換しよぉよ~」
「茉衣。あたしが取ってあげるからちょっと待ってて。凜、茉衣があんたの玉子焼き食べたいみたいだから、ちょうだいね」
3年1組で固まって弁当を広げているそんな場所で、一箇所だけ浮いている場所がある。その場所というのが、自分でいうのも何だけど、俺のいるこの場所だ。
理由としては、さっきの声で分かると思う。俺は今愛美ちゃん他、女子数人に囲まれてしまっている。愛美ちゃんとは、学校に来る前の登校中に一緒に弁当を食べる約束をしていたので、仕方ないと言えば仕方ない。
でも、その他の女子達については…不可抗力だと声を大にして言いたい。だから、そんな裏切り者を見る目で俺を見ないでくれ……特に力。茉衣ちゃんまで、近くに来ているモンだから雅司達に混ざって俺に睨みを利かせてくる。
……俺は何もしてないのに…。愛美ちゃんと一緒に食べるというのを、甘く考えた俺が悪かった。愛美ちゃんは男子に人気があると言ったけど、勿論女子にも人気がある。それも、引っ張りだこになるくらいに…。
「…唯。あげるのは構わないから、勝手に持ってくのだけは止めてくれない?」
「無理。茉衣が欲しいって言ったら、それは決定事項だから。それに、あんたも茉衣のママが作った玉子焼き食べれるんだから、別にいいでしょ?」
こんな事を言ってくる女の子の名前は佐藤唯。簡単に言うと茉衣ちゃんだけの騎士様。茉衣ちゃんを絶対としているそんなちょっと変わっている子だ。
茉衣ちゃんの本名は手越茉衣。いつもほんわかとした雰囲気を周りに放っている不思議ちゃんだ。力が惚れている女の子。この子が関わると、仲の良い力までが雅司側に回ってしまうので、俺には厄介な女の子でもある。
「分かったよ…。茉衣ちゃん、玉子焼きありがとね。それと、力のお弁当のオカズに美味しそうなのあった気がするから、交換してきたら?」
「そうなんだぁ。力く~ん、茉衣のオカズと力君のオカズ交換しよぉ」
「い、いいよ!」
茉衣ちゃんのその声に、瞬時に返事を返す力。俺は力に向けて小さくサムズアップしてやると、力からもサムズアップが返ってくる。
よし、これで力の機嫌は大丈夫だな。後は……。
「り~ん~茉衣ちゃんとだけじゃなくて、私のも食べてよー!」
「あ、あたしのも食べて?」
この二人をどうにかしないとな。
えっと、あとがきではお久しぶりです。うたわれな燕です。
こうして、オリジナルで皆様と会えるとは私自身思ってもいませんでしたので、少しだけ戸惑っていますw
さて、6話にしてあとがきを書くにいたった経緯ですが…。
まず、この小説は転生・憑依モノの自分に転生というあまり見かけないものです。そして、逆行モノでもあります。
ssの逆行モノは、数多く見ますが自分自身への逆行という作品はあまり見ないと思いますので、??と思われた方も中にはいるんじゃないかと思います。
内容に関しても、本当に深いモノはないです。ただただ、自分の人生を前世よりも良いものにしようと頑張る主人公の話ですからね。
それを踏まえた上でこれからも読んで下さるのであるなら、作者冥利に付きるというものです。
あ、それから一応『雅史』を『雅司』に差し替えました。確認の程よろしくお願いします。
感想などなどいただければ嬉しいですw