第4話
クラスでの多数決でアクアアリーナに決まった遠足の行き先だが…。その後の学年、全学年での多数決で正式にアクアアリーナに決まった。
クラスの男子の大奮戦虚しく、いるか山は来年以降に持ち越しとなった。前世の記憶では3年生の時はいるか山だったんだけどなぁと感じたわけだけど、実際に全部が全部、前世と同じになったら逆に不思議だもんなぁと思う事にした。
そんな感じで決定を受け入れた俺を含む少数の男子以外の男子達は最後の抵抗として、「アクアアリーナに行くなら海に入りたい!」とクラスの担任、まさのり先生に意見を言い出した。
当然、まさのり先生は「駄目」の一言でそいつらを撃沈させた。でも、それで簡単に諦める程3年1組の男子は甘くない。何が甘くないのか意味が分からないけど、甘くないんだ。
まさのり先生に通じないと分かるや否や、男子の半分以上の数が直ぐに教室を飛び出しどこかへ走っていった。
それが授業中なら、まさのり先生も追い掛けて叱る事もしたんだろうけど、実際は帰りの会が終わってからだったからなぁ。女子達が白い目で見ていたのが印象深かった。
まさのり先生は追い掛けもせずに、教室に残った女子達や付いていかなかった俺を含む残った男子に、遠足に行くときはランドセルじゃなくて遠足用のリュックを持ってくるように、といった注意事項を簡単に話してから教室を出ていってしまった。
先生も分かってきたんだなぁ。俺達にガミガミ言っても仕方ないって。学年が3年生になって早くも6月。運動会が5月にあったと思ったら、直ぐに遠足。そんでもって7月になったら夏休みだしなぁ…。先生も忙しいんだろうなきっと。
残った俺を含むクラスの奴らは、思い思いに仲の良い友達同士で話している。そんな感じに騒がしくなった教室を何ともなしに見ていると、トントンと後ろから肩を叩かれた。
誰が叩いたのかは分かっているので、体を横にして後ろの席にいるそいつに顔を向けた。
「なぁ、雅司達何しに行ったと思う?」
「ん~多分先生じゃ話にならないから、もっと上の先生に言いにいったんじゃねぇの?ほら、こういう時のあいつらって行動力半端ねぇし」
「確かになぁ…でも、俺も泳げるんなら泳ぎてぇ」
雅司達の行動力については、前世の記憶にも残っている。その行動力のせいで中学生の時に、最悪の事件を起こすことになるわけだけど……巻き込まれないなら、傍観してよっと。
俺のこの性格って前世から凄く引きずってるからなぁ。めんどくさい事には極力関わりたくねぇし。
問題起こすのなんて、言い過ぎかもしれねぇけど戦後くらいから決まってんじゃねぇの?中学生デビューしてチャラチャラする奴かイジメられ過ぎておかしくなる奴のどっちかでしょ。
無難に生活してれば、問題なんて起きないんだからさぁ、本当なんでめんどくさい事したいんだろうね。
「ねぇねぇ!アクアアリーナに行ったら二人は何するの?」
「南美達は女子皆で貝殻拾いしようって話してるんだけど、二人もしない?」
同じ班の花江ちゃん、南美ちゃんが俺と力の会話に入ってきた。班のメンバーの5人の内、女子が3人と男子より一人多い関係で、南美ちゃんは3班の子と隣同士になっている。
その結果、梓の前にいる南美ちゃんと後ろにいる花江ちゃんが俺と力の方に体を乗り出してくる事になるわけなんだけど……。
正直ちょっとだけ離れて欲しい。例によって、力は椅子を限界いっぱいまで後ろに引いてるし。
「貝殻拾って何がおもしれぇんだよ。カニとか魚捕まえて遊ぶに決まってんじゃん」
「俺も貝殻拾いはなぁ……釣りとかしたいし、男子で話してからじゃ駄目?俺達だけ、女子と遊んでたら絶対何か言われるし」
学校の休み時間や昼休みの時に女子と一緒に遊ぶのと、遠足に行ってまで遊ぶのじゃ、意味合い的に違ってくるからなぁ。
男子達も学校にいる時に俺が女子と遊ぶのは、何だかんだ言って仕方ねぇなぁと思ってくれているっぽいから、遠足に行ってまでだと……うるさそうで頭が痛い。
「雅司達の事なんか無視すればいいじゃん!」
「そうだよぉ!どうせ男子は暴れたいだけなんだしさ」
あははは…梓の言う通りだと思うけど、流石に男子達を無視して遊んだら男子に村八分にされるっての。それだけは流石に嫌だからなぁ。子どものイジメってマジ半端ねぇし。
と、4班で話しているところに教室を走って出ていった男子達が戻ってきた。顔を伏せて落ち込みながら入ってきたんだろうな、と思ってドアの方を見てみると……。
「はっはー!お前ら俺達に感謝しろよ!」
「そうだぞ!俺達が行かなかったら、駄目だったんだからな!」
大と悠が偉そうに胸を張って教室に入ってくる。……まさかな。そんな事許すわけ……。
「6月だけど、特別に海に入っていいことになったぞ!今年が『れいねん』よりアツいからって校長は言ってたけどな」
例年って言葉が分からない雅司が、舌足らずになりながら話す。いや、確かに暑いけどよー流石に海開きしてない内に海に入るのは駄目なんじゃねぇの?
そういうのって校長が許したからってどうにもなんねぇと思うんだけど…。と俺がそう思っていると雅司他、教室を出ていった男子達が黒板前に集合して椅子に座ったままの俺達に指を指してくる。
「アクアアリーナに行ったら、皆水着持ってこいよ!そんでもって、誰が一番泳ぐのが上手いか勝負だ!」
「「えぇー!!」」
女子から悲鳴のような抗議の声が上がる。理由としては、学校の授業でもないのに男子になんで水着姿を見せなきゃならないんだって事だと思う。
女子の気持ちも分かるけど、そもそもさ……。
「よりによって…校長先生に言いに言ったのかよお前ら…」
▼ ▼ ▼ ▼
まさのり先生が涙目となったその日より五日後…。俺は今、アクアアリーナへと向かうべく歩く双葉小学校全学年の列の中にいる。
先頭を6年生が勤め、後ろを5年生が勤める男女二列の計四列で道を進んでいる。
並び的には6→1→2→3→4→5といった感じだ。俺達は3年なのでちょうど列の真ん中だ。前も後ろも子ども達が進むのを見ていると、アリの行列を思い起こす。
地域の人達が道を行く俺達に声を掛けてくる……これがあるから、アクアアリーナにしたくないのも分かる。
左隣を見れば背の順で並ぶ時にいつも隣になる、海堂琢磨がムスっとした顔をしているのに気付く。こいつがこうなったのは数分前だ。
学校の校庭で全学年と先生達が集合して出発式みたいな事をしている時、こいつはテンションが高まったようで、隣の列の女子…神城恋にちょっかいを掛けた。いつもなら絶対にしない馬鹿な真似をこいつはあろうことかしてしまった。
軟弱な男嫌いで通っている恋に、クラスで一番性格が軟弱な琢磨が話しかける。……もう分かったと思うけど、皆の想像通りだ。目を鋭くさせた恋に「黙れカス野郎」と言われ、呆気なく撃墜。
男子は好きな子をイジメるとよく言われるが、琢磨の場合本気で人をからかう事が好きだから、恋は琢磨にとってみれば天敵といっても過言じゃない。
遠足というイベントは、琢磨のテンションをおかしくするほどだったか……。ま、こいつが静かになった方が俺やそれ以外の奴にとっても大助かりだから、恋には感謝だな。
琢磨の隣という事は、琢磨を挟んだ俺とも隣って言えば隣だ。アクアアリーナに向かう時になって、琢磨が俺に「凜、俺と列変われよ」と言ってきたので、どうぞどうぞと譲って上げた。
逆らったらめんどくせぇ事になるのは目に見えて分かるからなぁ。
先生に怒られると思うかもしれないけど、まさのり先生は割と放任主義だからちょっとの事では言ってこない。
ま、この前の男子が校長に言いに言ってOKもらってきた事に比べたら、列を変わる事くらい何にも言わないだろうけど。
「さっきはありがとな恋。あいつのテンション下げてくれて助かったよ」
「ふん…私はああいう奴が嫌いだからな。…別に、お前の為にやったわけじゃない」
「それでも、ありがとな」
「……ふんッ」
意外と照れ屋な恋は、お礼を言われるのが苦手だ。俺がたまにありがとなってお礼を言うと耳まで真っ赤になるからな。将来は、剣道で日本一になる女子とは思えないよなぁ本当。
「り、凜君は何して遊ぶの?」
そこに、割って入るように声を若干強めにして入ってくるのは、恋の隣の島聡美ちゃんだ。
クラスで行事のいろいろを決める時や、授業で当てられた時はハキハキと喋るのに、俺と話す時だけどもるんだよなぁ。これは前世の時もそうだったから、俺には理由が分からない。
「俺はっていうか、男子は最初みんなで泳ごうって話してるよ。それからは、カニ捕まえに行くか魚を取るか分からないけど、たぶんどっちかになると思う。女子は貝殻拾いするって言ってたけど、泳いだりはしないの?」
「へ、へぇーそうなんだ。あたし達は貝殻を拾ったらみんなで砂遊びするつもり。お、泳ぐのはまだ早いと思うし」
「聡美、この暑さで泳がないとはお前は精神が強いな。私も聡美を見習うとしよう。凜、お前も聡美を見習って私と一緒に竹刀を振らないか?」
………聡美ちゃんを見習ってなんで俺が竹刀を振らないといけないんだ。それに…恋。お前竹刀持ってきてんのかよ!前世でもそこまでしなかったのに…。こいつってば、前世の時より剣が好きなんだな。
「いや、恋には悪いけど俺は泳ぐ事にするよ。それに、泳ぐのも結構鍛錬にはなると思うし」
「そ、そうだね。な、ならあたしも少し泳ごっかなぁー」
「ふむ。確かに一理あるな。よし、私も泳ぐ事にしよう。男子の勝負に混ざるのも面白そうだ」
はははは…恋が混ざったら、一位は取れないだろうなぁ。ま、楽しければそれでいいかね。