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第3話

 掃除が終わり、今日の最後の授業……特別活動の時間がやってきた。


 この授業は、国語、算数、理科、社会といった通常の授業ではなく、学校行事に関する事に使われる事が多い。


 たまに転校してしまうお友達の為のお別れ会や、ハロウィンやクリスマスといったイベントの時にパーティをする為の時間となっている。


 本来の授業内容とは違うんだろうけど、俺は前世を含めても教育関係に詳しくないので、授業内容が上記の物以外にあるとは思ってない。


 と、特別活動に対する説明は置いておいて…俺達は今何をしているのかと言うと……。


「はいはいはぁい!俺は『いるか山』に行きたい!」


「えぇ!?絶対『アクアアリーナ』だよ!いるか山なんかに登ったら、疲れて遊べなくなっちゃうじゃん!」


「あぁーはいはい。(ひかる)はいるか山で結海(ゆうみ)はアクアアリーナが良いって事は分かったから」


「先生!いるか山に行くとしたら、バスに乗れんでしょ?」


「ん?そうだぞ(あきら)。いるか山はちょっとお前達の足じゃ全部登るのは大変だからな。アクアアリーナは学校からも直ぐ行けるから、こっちは歩きになるぞ」


「でもでも、アクアアリーナなら海にちょっと入れるし、絶対アクアアリーナが良い!」


 何を騒いでいるのかと言うと、俺達3年1組は双葉小学校全学年で行く『遠足』の行先について決めているからだったりする。年に一回、双葉小学校には遠足という他の学校にはない大きな行事がある。


 本来ならば、小、中、高学年と別れて行われる遠足を、全部の学年で行ってしまおうという校長のちょっとだけある奇抜な考えから生まれたものだ。


 まずはクラスで一つ行先を決め、次に学年でそれをまた一つにまとめる。最後に、全学年の考えをまとめて決まる、という3段階に分かれた多数決方法。


 これを確立した現校長は、前世の頃と全く変わらないとてもユニークな先生でもある。こんな先生ばかりなら、学校という環境はもっとよくなると思うのは、俺に前世の記憶があるからかもしれない。


 行き先としては、近場にあるアクアアリーナかバスで行くいるか山の二つに一つ。


 輝が言っている『いるか山』っていうのは、俺達の住んでいるところから車で一時間程行った場所にある、自然をそのまま活かした運動公園がある場所だ。


 まぁ、先生や結海ちゃんが言うように、バスで行くとしても運動公園のある場所まで子どもの足で歩いていくとなると、30分程歩かなくてはいけなくなる。


 そう考えると、小学校から歩いても15分程歩けば着く場所の『アクアアリーナ』の方がいいのかもしれない。


 輝や朗、それから男子の多くがなぜ行くのに大変ないるか山に行きたいのか…。その理由は簡単だ。町の公園にはない『遊具』があるからだ。


 自然を活かしたと言ったが、文字通り『木材』で作られた簡単なアスレチックコース等の遊具が数多く設置されている。いるか山にある公園とは遊び盛りの男子にとってみれば憧れを持つ程の公園となっている。


 俺も前世では、女子の意見を無視しているか山を推したっけなぁ。いやぁ、我ながら恥ずかしい。遊び疲れて帰りのバスの中で寝て帰る事が毎年の楽しみだったからな。


 運が良ければ、2年連続でいるか山に行ける年もあれば、3年連続でアクアアリーナになってしまう年もある。前世では、1、3、4、6といるか山に行くことが出来たがこの世界じゃどうなるか分からない。


 勿論、アクアアリーナに決まったとしても楽しい事は楽しい。東屋(あずまや)と呼ばれる休憩が出来る場所があったり、海が近いのでカニを捕まえたり、小魚を網で捕まえたり、岩に張り付いている貝を採ったり……。


 まぁ、毎回海水浴に行ったのに泳がずにそんな事ばっかりしていた時のような感じになってしまうのだけど。


 なのに、なぜ女子には人気があるのかと言うと、貝殻を拾ってそれをアクセサリーに出来るからだったりする。


 高学年になれば、そんな事をするのが恥ずかしくなるけど、中学年の3年生にしてみれば自分でアクセサリーを作りたいと思うものらしい。


 女の子は何歳でもオシャレ好きという事だね。前世の記憶を持つ俺としては、山でも海でも正直どっちでもいい。


 山だったら適度に遊具で遊んだ後、上級生とかとミニサッカーでもしようかな。海だったら内緒で釣り針と釣り糸を持っていけば簡単な釣りくらいなら出来るし……うん。俺はどっちになっても楽しめるな。


「じゃあそろそろ多数決取るぞ。机に伏せたら、先生が二つ言っていくから伏せたまま手を上げろよー」


「「はぁい!」」


「それじゃ……アクアアリーナが良い人!」


▼ ▼ ▼ ▼


 学校からの帰り道、俺と愛美ちゃんは二人で通学路を歩いていた。なんで一緒に帰ってるのかは俺に聞くな。


 帰りの会が終わって、今日は家でポ〇モンのゲームでもしようかなぁと考えていたところに、横から「一緒に帰ろ、凜」と愛美ちゃんに声を掛けられた。


 ポ〇モンとは、近い未来世界中の子ども達の間で大ブームを巻き起こす事になる大人気ゲームの事だ。これについては、語るまでもなく知っていると思う。


 第一作目となる赤と緑が発売され、アニメと合わせてグッズなども浸透してきた時代。ついに待ちに待ったあのバージョンが発売されたのだ。そのバージョンとは黄色。


 初代のポ〇モンのパートナーとなる御三家三匹を全部仲間に出来る他、自分のパートナーとなる電気ネズミを後ろに連れて歩けるという画期的システムが搭載されたバージョンだ。


 前世でも未だにたまに起動させていたくらい好きだったゲームだ。それを小学生に戻って一からやるとなると、なぜか知らないけど感動してしまった。………と、ゲームに関する事は今は関係なかったか。


 まぁ、家が同じ方にあるし、今日はポ〇モンをするつもりだったから、俺は直ぐに「いいよ」と愛美ちゃんに返す。すると、周りからひやかしの言葉が投げられるけど、そんなのに一々反論しててもしょうがない。


 俺と愛美ちゃんはひやかしてくる奴、こない奴全員に「また明日」と言ってから教室を出ていった。俺と愛美ちゃん以外にも、朗とか円佳(まどか)ちゃんなどが同じ方に家があるが、二人は俺達に遠慮してか一緒に帰ろうとはしない。


 1年とか2年の時は一緒に帰ってたのになぁ…と思わないでもないけど、愛美ちゃんとこうして帰るのは楽しいからありがたいかな。


「楽しみだねぇ遠足。あ、お菓子は300円以内って先生言ってたから、守らないとダメだよ?」


「大丈夫だよ愛美ちゃん。バレなきゃ怒られないからさ」


「あぁーホントにダメなんだよ!私も守るんだから凜も守るんだよ!」


「……愛美ちゃんが内緒にしてくれるなら、愛美ちゃんの好きなお菓子遠足に行ったらあげる。だから…ね?」


「う……で、でも………」


「じゃんけんグミのコーラ味。愛美ちゃん好きだよね?」


「………ホントにくれるなら、内緒にする」


「勿論!じゃ約束だね」


「うん!ゆびきりげんま~ん♪」


 うん。やっぱり3年生くらいだとお菓子で釣るのが一番いいな。と、頭脳は大人、体は子どもの俺としては何ともゲスな事を考える自分が嫌いに……はならない。これも、知識の有効活用と思ってくれ。


 あぁ、一応クラスでの行先は決まった。行先は、『アクアアリーナ』。男子の奮戦空しく、女子の団結力によってアクアアリーナと相成りました。


 ま、これから学年、全学年と2回の多数決を取るわけだから、男子にもまだ望みはある。帰りの会が終わると数名の男子達が他のクラスだったり、下級生、上級生の教室へと説得に向かったからその必死さがうかがえる。


 そんなにアスレチックで遊びたいのか……前世でこれでもかと楽しんでいた自分がいるので、口に出しては言えないけどね。


 アクアアリーナになったとして、釣り糸と釣り針は用意しないとなぁ…。父さんの釣りセットの中にあると思うし、さっそく取り出しておこっかな。


「ねぇねぇ、私も昨日黄色バージョン買ったんだけど、どうしてもタネの子だけ貰えないんだけど、凜はどうやって貰ったの?」


「ん?あぁ、トカゲとカメは人に話せば直ぐに貰えるもんね。えっと、タネは後ろにいる電気ネズミが懐いてくれないと貰えないんだよ。愛美ちゃんの電気ネズミってどんな感じ?」


「そうなんだぁ。私のピカちゃんはニコニコしてるよ。それじゃダメ?」 


「うーん…ハートを出すくらい懐かせないとダメだった気がするよ?俺が貰えたのは、電気のジムを倒した後くらいだから、結構時間掛かったかも。愛美ちゃんは今どこ?」


 と、遠足の話は程々にポ〇モンの話に移る。結局この後俺は愛美ちゃんの家にゲーム片手に遊びに行くことになるんだけど……。女の子の家に遊びに行くのって、子どもに戻っても緊張するなぁ。



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