第1話
「り~ん~早く学校行こうよ!」
「あとちょっとだけ待って!はぁ…先に行ってくれればいいのになぁ……」
「ほら、凜!愛美ちゃんが待ってるんだから、早く食べちゃいなさい」
一緒に行く約束とか別にしてないのに待ってる方がおかしいと思わねぇの?てか、まだ7時36分だし……いくら何でも早すぎるって。
…ん?あぁ…皆さん初めまして。美浦凜です。突然なんだけど『転生』って言葉は知ってるか?
二次小説とか読んでる人は分かるかな?説法とかを説くお坊さんとか和尚さん達だったらもっと詳しく知ってるんだろうけど…。
知らない人の為に言っておくと、前世の記憶を持ったまま赤ん坊として生まれて異世界やら過去やら漫画等の空想物の世界やらで、二度目の人生を送るって感じと思ってくれていいかな。
二次小説とかだと多いのは、空想上の世界に転生して神様から貰ったチート能力を駆使して世界を救ったり、ハーレムを作ったりする話が多いね。
察しのいい人はもう分かってくれたと思う。実は俺もその転生者って存在なんだよね。魔法とか剣とかがある異世界?それとも皆大好き戦国時代?はたまた二番煎じ感が否めない漫画とかアニメの世界?
……そんな世界だったらどんなに良かった事か。ん?そんな事いっておいて、神様にチート能力を貰ってるんだろって?
……いやさ、自分がいつ死んだのか覚えてないんだよね俺ってば。気付いたら分娩室にいて、母さんから生まれてたんだわ。
???って?を3個浮かべる漫画のキャラの気持ちが初めて分かった。人間って自分に予想もしてない事が起こると、思考を放棄しちゃうって知ったのもその時だったなぁ。
で、俺が『誰』に転生憑依してどの『世界』に生まれたのかだけど……。
「りんってば~早く行かないと遊ぶ時間減っちゃうよ~!」
「はぁーい!今行くから!」
『記憶』の中でも比較的古い物と同じ声。それに、前世とは違って恥ずかしがらずに普通に返事をしてから、昨日の夜に準備したランドセルを背負って玄関に向かう。
「おはよう、りん」
「おはよ、愛美ちゃん。じゃ、行こっか」
「うん!」
前世と一つも変わらない笑顔で、太陽の日差しで光る赤いランドセルを揺らす前河愛美ちゃん。俺ん家の近くに住んでる同級生。
前世では恥ずかしくて話が出来なかったけど、今の俺は前世の24年もの記憶を持った小学3年生。手を握る事は流石に出来ないけど、一緒に登校する事は出来る。
もう分かったよね。……俺は、『自分自身』に転生憑依して、『前世と一つとして全く違いのない』世界へと転生した。……これって誰が得するんだろ………。
▼ ▼ ▼ ▼
キンコーンカーンコーン……学校のチャイムが鳴って、校庭で遊んでいた子ども達が校舎の中に入って行く。
その子どもの中には、俺こと美浦凜もいる。下駄箱で上履きに履き替え、愛美ちゃん達女子と話しながら教室へと向かう。
愛美ちゃんと一緒に登校した俺は、俺達のクラスである3年1組の教室に入り、教室の中にいた友達数人に声を掛けてから、背負っていたランドセルを自分の机の上に置き、一度通り過ぎた校庭に向かった。
これから校庭で俺達がする遊び、それは…登校中に何度も愛美ちゃんの口から出てきた『こおりおに』だ。
『こおりおに』とは、俺達が小学3年生の時に男子女子関係なくブームになっていたおにごっこの一つだ。ルールとか知りたい人がもしいたら、自分でググッて下さいな。簡単に出てくると思うから。
あ、男子女子関係なくって言ったけど、『小学3年生』という年齢が問題なんだよねぇ。
男子と女子で第一次成長の時間に多少のズレが生じるっていうのは、中学の保健の時間で習ったと思う。そのズレが生じ始めるのがズバリこの時期からだったりするんだなぁこれが。
小学2年生までなら、男子女子関係なく一緒に遊ぶ事に違和感なく過ごしていたが、3年生になると急に異性を意識してしまって、微妙なズレが出来てくる。
女子は少々お姉さんぶりたくなり、男子を弟扱いとまではいかないが、自分達よりも子どもだと思うようになるし、男子はそんな女子を鬱陶しく思うようになり、要らない事を言ったり、馬鹿な事をしたり、度々女子と言い合いになる。
それによって起こるのが、男子と女子の意味のない喧嘩だったり悪ければイジメとなったりする。
説明ばっかりになって申し訳ないんだけど、俺が何を言いたいのかというと……こおりおにをしていたのが、男子で俺一人だったって事なんだ。
学校に登校している時に愛美ちゃんに、一緒にこおりおにしようと言われたので、学校に早く行っても何の予定もない俺としてはOKを出すのは当然の事。
けど、それを良く思わないのが男子の連中。その中でも一際文句を言ってくるのが男子のリーダー的存在の……菊池雅司だ。
ほら、よくクラスの中でスポーツが他の奴より出来る奴がリーダーになったりしない?その典型がこいつ。
「あぁ~女子と遊んでた凜が来たぞ~」
「そんなに女と遊びたかったら、お前も女になっちゃえばいいのによ~」
そんな雅司の取り巻きとなってるのが、俺に今そんな事を言ってきた二人…関谷大と蔵元悠だ。
こいつらも前世と全く変わらない。よくこいつらにイジられたなぁと感慨深く感じていると、雅司が声を掛けてくる。
「なぁ、凜も男子なんだからよ。俺達と一緒にサッカーしようぜ?あぁ、勿論『キーパー』だけどな」
一見仲良さげに話し掛けてくる雅司だが、こいつの言う『キーパー』とはテイの的だ。
この時期だと、校庭に二つあるサッカーゴールはそれぞれ5年と6年の男子に取られているのがこの学校の昔からのしきたりとも言うべきモノだ。
よって、3年の俺達がサッカーをするとなると場所は限られてくる。そこで必要になるのが……キーパーという名の的。
恥も外聞も捨てて話すと、前世の俺は小学生の頃太っており、運動も苦手だった。それに、リーダー的存在である雅司を敵に回すのも怖かったのでこいつの言う通りにキーパーをやっていた。
まぁ、『今』の俺は太ってもいないし、運動も苦手じゃなくて寧ろ得意になっている。足もクラスの中じゃ3番目に早いし、スポーツも上級生に混ざって出来るくらい上手くなっている。
正直な話、俺は女子に人気がある。それも上級生下級生関係なく。序でに言っておくと教師受けもいい。
これだけ聞くと、リア充死ね!と思うかもしれないけど、実際それは女子だけじゃない。上級生下級生の男子とも仲良くしてるからね。
雅司はクラスの男子のリーダーな訳だから、そんな感じに人気のある俺に嫉妬して、前世とは違った意味で文句を言ってきている。
こいつも、中学に上がる頃になれば女子に人気出るんだけどなぁ…と思わないでもない。
「朝は愛美ちゃんと約束してたからさ。休み時間だったら良いよ?」
「えぇ~!?凜君休み時間もこおりおにしようよ!」
俺の隣で大貴と悠、そして雅司と睨み合うようにしていた女子、咲山理沙が俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
こいつも他の女子の例に洩れず、お姉さんぶるというか大人ぶるというか、たぶん理沙のお母さんの真似をしてるんだろう。
「うるせぇなぁ!女子が俺達の話に入ってくんなよ!」
「あんた達の方がうるさいでしょ!凜と遊びたいなら、素直に遊ぼうって言えばいいじゃない!」
「ッ!うるさいうるさい!出っ歯!出っ歯ッ!」
「出っ歯じゃないもん!」
………あぁ、大丈夫大丈夫。引かないでやって。これっていつもの事だから。前世じゃ考えられないけど、俺がスポーツ出来るようになったらあら不思議、こんな光景がいつも見れるようになったんだよね。
やっぱり子ども時代って、スポーツ出来た方がカッコいいんだなぁ。体鍛えて良かった良かった。
前世の記憶があるわけだから、昔の自分より運動出来るようにって目指してたら、事の他上手くいったもんなぁ……前世の記憶持ってるって何気にチートなのかな?
「理沙ちゃん、まさのり先生来るからもうやめた方が良いよ?雅司君も席に座ろ?休み時間はサッカーやるからさ」
「……はぁい」
「…絶対だからな」
二人を自分達の席に向かわせると、俺達三人を見ていた他の男子達女子達も自分達の席に向かっていく。それを見て俺と理沙とは逆の隣にいた愛美ちゃんは笑顔で見合ってから揃って隣同士の席に向かった。
今日の一時間目は国語かぁ……音読って前世でも恥ずかしかったけど、記憶を持ってても恥ずかしいのは恥ずかしいんだよねぇ。