第12話
校長のながぁーいお話を聞き流し、教室に戻ったら戻ったでまさのり先生のながぁーい諸注意を受け流し、俺達三年一組はやっと下校となった。
学校に来てから早くもソワソワとしていた子ども達が、帰りの挨拶をし終えた時のパワーたるや…。二度目の生を生きている俺にはついて行けないモノがある。
あの空気をあと何度繰り返すのか…。中学に上がっても長期の休みに入る時には、騒いでいた記憶が朧ろげながらもあるので中学までは我慢するしかないかな。
そんな有体もない事を考えながら、学校に置きっぱなしにしていた1学期で工作の授業で作った作品やら生活の授業で作ったオモチャなど、色々な物を抱えて家に帰っている。
長期休みに入る度に、こうも色々持ち帰らなきゃならないのが凄く億劫だ。俺なら効率よくする為に、出来上がった作品をその都度持ち帰らせるのに。
教室の後ろの方に展示して、俺達の作品を授業参観に来た親達に見せるのが目的なら家に持って帰ればそれこそ早く見せれるというもの。
友達同士で切磋琢磨させる為に展示しているなら、それは先生達の思い違いだと俺は思う。
子どもってのは何かイジれる要素が一つでもあれば、それをこれでもかとイジって遊ぶ存在であり、イジメの基になるのは自明の理だ。
それでも先生達はやれ習字だの、やれ絵だの、と教室だけでなく教室の外の壁に張って全校児童に向けてさえも見せようとする。その考えが俺にはよく理解出来ない。
教育のあれやこれやで色々あるのかもしれないが、昨今のイジメ問題にはこの『展示品』にもあることを理解してもらいたいと俺は思うけどね。
と、長期休暇という子どもならば浮かれるイベントにも関わらず、どうしてこうも俺がネガティブなのか……。それは、目の前の奴らのせいだったりする。
「ねぇねぇ。聡美ちゃんって帰る道こっちで大丈夫なの?いつもはもみじ幼稚園の方から帰るのに」
「大丈夫だよ愛美ちゃん。こっちからでもあたしの家には帰れるから。それに、最近はこっちから帰ったりしてるんだよ。ね、梓」
「そうそう。それに今日はこのまま遊ぶ予定だし、ウチの家が通り道にあるから、そこに聡美の荷物置けば良いしね。だから何も心配しなくて大丈夫」
「ふ~ん……なら良いけど」
前の方と言っても、1mも離れていない距離でそんな会話が俺抜きでされている。今日は終業式だったので午前授業。それが何を意味するのかというと、神城道場に行くのに時間がお昼を食べても3時間程あるということだ。
恋は帰る際に今からでも鍛錬をしに来ていいんだぞとか言っていたが、俺としてはしばらくぶりの休息を楽しみたい。と、そんな風に俺が考えていた時に隣の席の愛美ちゃんにポ○モンの黄色バージョンでまた分からないところがあるから教えて欲しいと言われたので、教えるついでに久しぶりに一緒に遊ぶ事にした。
俺がそう返した時の愛美ちゃんの表情は、溢れんばかりの笑みでいっぱいだった。愛美ちゃんを好きな男子から、妬みと嫉妬の視線を送られる事になったが、それらは一切合切無視してやった。そんなに悔しいんだったら、俺が遠足でしたアドバイスを少しでも実行してみろってんだ。
やろうともしないアホ達にどんな視線を送られようが、俺にはこれっぽっちも効きはしない。ま、愛美ちゃんの無表情とか、恋のおっかない文句とか、梓のグサっと来る言葉とか色々堪えるモノは諸々あるけど…。
と、恋に再度断りを入れて、ちゃんといつも通り鍛錬には行く事を告げてから愛美ちゃんと教室を出た時だった。「凜君待って!」という声が聞こえたのは。
声を放ったのは聡美ちゃん。そして振り向いて見てみれば、聡美ちゃんの隣には梓の姿もあり、何ぞ用でもあるのか話を聞いてみれば、自分達も一緒に遊びたいとのことだった。
それに触発されたのか、あちらこちらから俺も、あたしも、私も、という声が上がり、結局一度家に帰ったら皆で遊ぶ事になってしまった。クラス全員が来るわけではないが、それでも結構な人数だ。
その人数で遊ぶとなると学校の校庭か、俺の家からは少し距離のある公園しかない。そこでせっかく学校が早く終わったことだし、公園で遊ぶ事になった。
そうと決まればという事で、我先にと教室を飛び出して行く子ども達を尻目に、俺と愛美ちゃんは目を合わせ、聡美ちゃんと梓に至っては「なんでこうなるの…」「…馬鹿」と片やうな垂れ、片や腕を組んで嘆息していた。
そして、今に至るというわけだ。いつもなら俺と愛美ちゃんの二人で帰る帰り道は、二人程多い四人で歩いている。なぜこうなったかというと、梓の「今日はウチらもこっちから帰るから」という一言から始まった。
二人がそれで良いなら俺は別に嫌なはないわけで「じゃ、一緒に帰ろうか」となるのは当然の事だ。ただ、それに待ったをかけたのが愛美ちゃんで、歩きながら上記の会話を続ける事になってもいる。
俺のせいでもないのに、胃がキリキリするような錯覚を覚えつつ、俺達は一路俺の家?を目指して歩み続ける。道中、梓の言っていた通り梓の家で聡美ちゃんも大量の荷物を降ろし、俺と愛美ちゃんの後に付いて来た。
「り、凜君の家ってあたしまだ一回も見たことないんだ」
「そうだっけ?俺の家なんて普通だよ。それこそ、恋の家みたいな立派な家じゃないしね」
「恋ちゃんの家は本当に立派だよねぇ。何回か、凜の事見に行くのに行ったけど、すっごく大きいもん」
「…凜の事を見に恋の家まで?」
「うん。凜のお母さんに、凜の忘れたタオル持って行ってちょうだいとか頼まれるから」
「忘れたわけじゃないんだけど、俺の母さんって直ぐ愛美ちゃんに頼むからなぁ。ごめんね愛美ちゃん」
「別に良いってば。私が好きで行ってるんだし」
前に俺と愛美ちゃん、後ろに聡美ちゃんと梓、そんな並びで歩いている俺達だが、俺と愛美ちゃんの距離が物凄く近い。いや、登下校の時はいつも手を繋いでいるからあまり感じないけど、他の人に見られながらだと妙に恥ずかしいな。
手は繋いじゃいないけど繋ごうと思えば直ぐに繋げる、そんな距離だ。後ろの二人も俺と愛美ちゃんと同じくらい近い距離だが、女子同士と男女では意味が違うもんなぁ。
「二人って、いつもそんな感じで帰ってるの?」
「そうだよ。学校に行く時もいつもこんな感じ。でも、今日は二人がいるから凜ってば恥ずかしいんだね。手繋いでくれないもん」
「ッ!り、凜君。愛美ちゃんと手を繋いで登下校してるの?」
それまで後ろで梓と歩いていた聡美ちゃんが、急に愛美ちゃんとは逆隣に来るなり比較的大きな声で話してくる。梓が後ろで一人になったら、ちょっと前までも俺になるな。…結構寂しかったりするんだよな。
「そ、そうだね…。俺は恥ずかしいから辞めたいんだけどね」
「駄目だよ凜。私と約束したじゃん」
「約束って?」
「登下校中は手を繋ぐっていう約束」
後ろの梓と話すために、体を後ろ向きにして後ろ歩きを始める愛美ちゃん。ランドセルもあるし、今日は荷物もあるから、後ろ歩きは子どもには危ないよな。って、思ったそばから!
「…ちゃんと前見て歩こうね」
「あはは…ごめんね凜」
両手に持っていた自分で作った作品やらを歩道に投げ捨て、ランドセルと手を掴んで愛美ちゃんが後ろに倒れるのを阻止する。
恋のところでの鍛錬が変なところで役に立ったな。体感とか反射神経とかその他諸々、宗次郎さんってば子どもの俺にやらせるからなぁ。恋の運動能力って絶対あれをやってるからだな。うん。
手を引っ張り上げて、愛美ちゃんを立たせる。その後、手放した荷物を再び両手に持って歩みを再開させる。聡美ちゃんと梓は、少し遅れて付いてきた。
「最近体育でもそうだけど……凜、何か凄くなってない?」
「うんうん!愛美ちゃん絶対転んだって思ったのに、凄いよ凜君!」
「恋の家の道場で結構シゴかれてるからなぁ。多分、その御陰だよ」
「恋ちゃんの家に初め通うって聞いた時は、駄目って思ったけど、凜が格好良くなるなら良いかも」
おいおい、小さな声で言っても聞こえてるって愛美ちゃん。そう思ったとしても、そういうのは心の中で思うモンだよ?
そんなこんなありつつ、俺の家と愛美ちゃんの家を経由して、俺達四人は公園に向かった。
蛇足として、俺の家になぜか三人とも付いてきて、玄関に俺を出迎えに来た母さんにそれぞれ挨拶すると母さんの奴…。
「あらあら、愛美ちゃんの他にも聡美ちゃんと梓ちゃんまで連れてきて……凜、あんた将来はどうするの?」
という余計な事を言ってくれましたともさ。それを聞いて、満足気に笑う娘、恥ずかしげに俯く娘、我関せずな娘と綺麗に反応が別れる反応をそれぞれ返してくれました。
誰が誰かは……言わなくても分かるよな?
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
新年早々、更新が止まってしまい申し訳ありません!!
仕事が忙しかったというのが、大まかな理由ですがそんな事読者の皆様には関係ないですね汗)
本当に申し訳ありません。何とか、一話書き上げましたので更新します。
新キャラを楽しみにされていた方申し訳ありません!今回はというか、今回も凛と愛美、聡美と梓の四人がメインでした。
次回こそ、残った何人かを出せるように頑張ります。物語にあまり関係しないキャラを出すのもあれですが、一応40人名前と台詞は出したいと思っているので、先に謝っておこうと思います。
こんな勝手な作者ですみません!!
それではまた次回。。