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第11話

 早い物でもう7月。海の日を過ぎれば、俺達の住む双葉町の海も海開きとなって、好きな時に泳げる絶好の場所になり、夏休みになれば観光客もやって来て結構な賑わいを見せる町へと姿を変える。


 そんな双葉町に住む俺こと美浦凜は、今修羅場というものを体験しています。


「恋ちゃん。凜が恋ちゃんの家でこの頃毎日ご飯食べてるって本当?」


「うむ、本当だ。凜はハンバーグが好きみたいでな、母様の作ったハンバーグをそれはもう美味しそうに食べていた。流石私の母様だ」


「り、凜君。ハンバーグが好きなんだ。料理頑張らないと…」


「聡美ぃ…あんたは現実逃避してないで、ちゃんと話を聞かないと駄目でしょうが」


 ……俺と梓の机を囲んで、四人の女子が俺の頭上で話している。その四人の隙間から見える他のクラスの奴らは触らぬ神になんとやらで、傍観に徹している。


 その四人とは、前河愛美、神城恋、島聡美、沖田梓。愛美ちゃんはあの無表情、恋は憮然として、聡美ちゃんはあわあわと、梓は冷めた目でそれぞれ互いを見ていた。いや、梓に関しては俺に向けているな。


 なぜこんな事になったのか。それは俺が恋の家……違うな。神城剣術道場へと通うようになったのが大元の原因だ。半ば強制的に通うようになった俺だが、蘭さんにはあれから口で絶対に勝てない事を悟ったので、道場には諦めの境地で通っている。


 俺が保留にしましたよねって言ったら、「『道場』はでしょう?ここにはいつでも来ていいのよ。それに、ここに来た『序で』に道場に入るんだから、何も問題はないわよね?」だってさ。


 そんな屁理屈!と言い返そうと思ったら、矢継ぎ早に口を開いて俺の反論を封じ込めちゃうんだもんなぁ。いやぁ…女性って怖い生き物です。


 そして、もうめんどくさくなって結局入門しちゃった俺は、入門した事を後悔しながら稽古に励んでいるという状況だ。まぁ蘭さんの作る夕御飯が美味しいのが唯一の救いかな?あのご飯を食べれるだけで、まいっかと思えるんだから。


 で、神城剣術道場に通うようになってしばらくして、今日の休み時間に恋が俺の席に近付いてきていつもは言わない事を言ってきて冒頭のような状況になった。


 夏休みにもう少しで入るので、俺としては稽古は程々に海で泳いだり、家でダラダラしたいなぁと思っていたんだ。


 しかしそんな俺の考えを読んでいたのか、帰りの会が終わったのを見計らったように俺の机に近寄って来た恋曰く。


『母様がな。夏休みの間、家で泊まり込んで稽古しなさいと言っていてな。夏休みに入ったら着替えを持って私の家に来るんだぞ、凜』


 だ、そうだ。


 それに対する俺の答えが「へ?」という言葉にもなっていない、疑問が声になったようなそんな音が口から出ていた。


 また、俺のそんな声に続く形で、「駄目だよ凜!」「り、りりり凜君が恋ちゃんの家にお、おととと、お泊まり!?」という声が教室の二方向から聞こえた。


 前者は俺の右隣から、後者は窓側の方から俺の下へと声を届けた。ついでに言っておくと、左隣からは冷ややかな視線が送られて来た。


 そして、冒頭に戻るといった感じだ。俺の机を取り囲んで、四人の女子が話し合って?いる。後ろにいるだろう力に助けを求めようとちらっと振り返ってみると、そこには既に空になった机があるだけ。


 教室の隅の方に目を向けて見れば、雅司達男子に紛れて力が手を合わせて俺に謝っている姿が見えた。


 ……力、それでもお前俺の友達かよ。雅司や大、悠までも哀れんだような顔を浮かべて俺を見ている。琢磨に至っては、笑いをこらえているらしく口を抑えてやがった。


 後でアイツは恋に心を折って貰おう。そんな事を考えていたのが悪かったようだ。上から「凜」という俺の名前を呼ぶ四人の声が降ってきたのにビクついてしまったのだから。


「凜、ちゃんと聞いてる?凜の事でこんなになってるんだよ!私の家族と凛の家族とで夏休みになったら一緒にキャンプに行こうって言ってたじゃん!」


「凜。お前は神城剣術道場の一門下生になったんだ。遊んでいる暇など私達にはないという事は分かっているだろう?」


「ウチ思うんだけど、そもそも男子が女子の家に泊まる事が間違ってると思うんだ。そこのところ凜はどう思う?」


「り、凜君。あ、あたしは凜君を信じてるからね」


 …小学生相手に俺は何やってんだ?何かそう考えるとムカムカしてきた。好き?嫌い?それが何だッ!相手は小学生の女の子だぞ!?ドギマギなんてこれっぽっちもしてないのに、何ビクついてんだよッ。


 どっちかって言うと、蘭さんみたいな大人の女性が…!!いやいや、あんなある意味怖い人は無理無理。はぁ…どっかにいないかなぁ。大人な女の人…。


 と、今の状況にイライラしつつ現実逃避をしていた俺の耳に、四人の声とは違った声が俺達に話し掛けてきた。


「はいはい、そこまでにしようね。愛美ちゃんも恋ちゃんも『さっと』も『あっちゃん』も。それじゃあ凛君が話せないでしょ?」


「千尋ちゃん…」


「千尋ッだが!」


「ちっこ…」


「そ、そうだよね。ちっこの言うとおりだよね。ごめんね凜君」


 我がクラスのお姉さん。谷千尋さんが助けてくれた。声の聞こえた方に顔を向けると、恋の後ろの方から近付いて来たようで仕方ないなぁみたいな顔でこっちを見ていた。


 本当、谷さんにはいつもお世話になってます。感謝の念を込めて、頭を下げておく。谷さんと目が合うと、どういたしましてと目が言っていた。


 いやぁ、谷さんがいてくれるからこのクラスは問題が後を引かないんだよなぁ。恋が身を横にして谷さんを通した所で、谷さんの隣に二人の女子がいる事にそこで気付いた。


「千尋の言う通り。四人がそんな事じゃ美浦が話せない」


「そうそう。皆仲良くしないと駄目だよ。そ・れ・にィ~凜ちゃんは皆のモノなんだから、守らないと駄目だよ?」


 谷さんの左隣のクラスで一番背が高い頭脳明晰な女子。田中亜由が事実を淡々と告げるように口を開くと、谷さんの右隣のパーマ掛かった髪に貝殻の付いたクリップを付けた女子。照井乃亜がニパァという子どもっぽい笑顔で口を開く。


 この三人は、女子の中でも運動が苦手な方だが、常日頃からクラスのまとめ役となっている。委員長の知枝美ちゃんもこの三人のお蔭もあり、このクラスを何とか動かす事が出来ているというわけだ。


 知枝美ちゃん、涙目です。


「四人とも凜君の話を聞かないで四人で話してたようだから、勝手だと思ったけど割り込ませて貰ったの。ごめんね?」


「ううん。千尋ちゃんの言う通りだよ。私、凜の話聞いてなかった」


「うむ…。確かに私も熱くなってしまったみたいだ。謝罪する」


「ちっこだけじゃなくて亜由も乃亜も来るって事は、結構ヤバげだった?」


「ヤバげもヤバげ。梓まで熱くなるなんて、ちょっと以外だったけどね。ねぇ凜君」


「う、うん。でも、俺がはっきり喋らなかったのが悪いんだ。四人は悪くないよ」


「ち、違うよ!凜君は悪くないよ。あたし達がうるさくしたのが悪いんだよ。ごめんね、凜君」


「四人も美浦も全員悪い。クラスの皆に謝るべき」


 人口密度が高まり過ぎた俺の机周りだが、亜由のその一言で教室のあちこちでこっちを窺っていた皆に頭を下げて俺と四人は謝った。


 これで、何とか収まったけど、本当に谷さんがいてくれて助かった。亜由も乃亜ちゃんもあの空気の中を進んで来てくれたんだから、後でありがとうとごめんって言っておかないとな。


▼ ▼ ▼ ▼


 あの後、恋には泊まり込んでの稽古はやっぱり無理だと言って、蘭さんにはごめんと言っておいてくれと頼んだ。


 納得した顔じゃないけど分かったと言ってくれたので、何とかしてくれると思う。……蘭さんが強引な手で来ない限りはだけど。


 乃亜ちゃんがあの後俺の腕に絡んで来てちょっと大変だった事以外は、いつもと同じように一日が過ぎた。


 愛美ちゃんと一緒に帰って、恋の家に稽古に行って、家に帰ってベッドに横になった。頭に過ぎるのは、夏休みもこれまで以上にいろいろ大変な事が起きるのかもしれないなということ。


 少し考えただけでも、愛美ちゃんの家族と俺の家族とで二泊三日のキャンプに行く事。恋の家に稽古に行く事。男子の皆で海に遊びに行く事。他にも、女子の皆と夏祭りに一緒に行く事など…ちょっと考えただけで、イベントが目白押しだ。


「大変な事だけは起こって欲しくないなぁ」


 そう口に出すのも仕方ないだろ?でも、この時俺の口を付いたこの言葉が、まさか現実のものとなろうとは、前世の記憶を持つ俺でも予想出来なかった。



活動報告の方に載せてみた話は、この最新話を書く前にふと思いついた話でして…。

いろいろな作品を読んでいると、こう沸々と何かをめちゃくちゃにしたいような文章を書きたくなる時がありまして…w

それが現れたのがあの文章ですねww

とにもかくにも、最新話です。出していなかったキャラを三人投入してみましたが、どうでしたでしょうか?

まだまだ出していないキャラがいるので、不安ではありますが、小学生時代に全員出し切りたいです!




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