アカツキの英雄
「なぁ、アカツキの英雄」
面白くも何ともない二つ名は、気に止めないことにしている。
呼び止められて、良いことのあった試しがないから。
それなのにその忌ま忌ましい綽名は、日を追うごとに広がっている気がする。
「あんた、アカツキの英雄だろ?」
見覚えのない顔を不機嫌に睨むと、治療士の杖を持った少年が慌てたように肩を竦めた。
「なんだよ、睨むなよ。間違ってないだろ?」
「誰だ、お前」
「治療士専攻、シノノメの修理屋って知らないのか?」
「知るか。あいにくと、他専攻に面識はないんだよ。普通そうだろうが」
「だってあんた、有名だもん。アカツキの英雄」
ひらひらと手を振って、彼はまたその名を呼んだ。
「武術に秀でた黒髪に、闇を貫く紫紺の瞳。そんなの、学園にあんたしかいないよ」
「馬鹿云うな。黒髪も紫紺の瞳も、そう珍しくないだろうが」
吐き捨てるように告げると、彼は気障っぽく指を振る。
「それぞれはね。だけど、両方みたす騎士専攻はあんただけだ」
腰に下がる大振りの剣を示されて、思わず眉を顰めていた。
都にある国立王都学園は、中心地であるセントラルにそびえ立つ王国一の学園だ。
後の世に名を残す偉人を何人も輩出している伝統校でもある。
騎士、魔法士はもとより、近年は格闘家や医学士など多くの分野で名を轟かせている。
国王が直々に理事長を務めていることもあり、入学に際しその身分を問わないことも、この学園を志望する生徒が多い理由の一つになっていた。
現在は全20の学科を有し、約20,000の生徒が在学していると言われている。
その20の学科は、ほぼ持ち物や武具によって、お互い大まかな所属は把握できると言われる。
杖や刀がその良い例だった。
「あんた、さっきから嫌そうだけど、この二つ名嫌いなワケ?」
「当たり前だ」
「そう? 英雄なんて、良いと思うけど」
しみじみ呟く治療士見習いを張り倒しそうになり、慌てて左手を握りしめる。
「馬鹿云うな。付けた奴が解るなら、その口塞いでやりたいくらいだ」
それを謙遜と取ったのか、彼は目を細めて唇を尖らせた。
「それこそ無理でしょ。だって正式な二つ名付けるのって、理事長じゃん」
「は?」
「あれ、知らないの? 学園登録の二つ名は、理事長が認めないと名乗れないよ」
俺のもそう-彼が入学時に与えられるオリハルコンの腕輪に触れると、学生証が現れる。
登録名の下に表示されるのは、『シノノメの修理屋』という青文字。
「あんたのにもあると思うけど?」
軽く腕を振って映像を消すと、彼は小さく肩を竦めた。
「あんたはさ、なんで嫌いなの? あんたの働きを評価して与えられた二つ名だろ?」
「騎士としての二つ名じゃないからだ」
うんざりしたように呟いて、踵を返せばそれきり声はもう追ってこなかった。
担当
今回 カラクリカラクリ
次回 蛍灯 もゆる




