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イツクの託宣者から受けた提案に、自分が硬い表情をしているのを理解しながら、男は王の私室の扉を叩いた。
在室の返事に、男は固まった口を無理やり開く。
「少し、相談したいことがあるのですが」
「いいぞ」
「失礼します」
溜まった書類に目を通していた部屋の主は、男を見遣って微かに笑った。
「どうした、やけに浮かない顔だな。口説き落とし損ねたか? プレイボーイ」
「三人については、大丈夫だと思います」
軽口にも乗らず固い口調で紡ぐと、彼は真面目な表情で瞬いて、それから首を傾げる。
「どうした?」
「イツクの託宣者には、私の提示した条件ではご納得いただけなくて」
「へぇ。お前が見誤るのも珍しいな」
くすくすと笑って、徐に彼が右手を出した。
「はい?」
「提示条件みせてみろ」
バツが悪い思いで端末を差し出すと、あっという間に四人に提示した条件を斜め読んで、王は楽しそうに顔を上げる。
「あの、」
「確かにイツクは、これじゃあ満足しないだろ。的を射すぎて、模範解答過ぎるな」
「すみません」
「別に責めてるわけじゃない。俺の動向を把握してるお前なら、斜めに攻めるかと思っただけだ」
「斜め、ですか?」
きょとんと王を見返すと、端末を差し返して彼はにやにやと両手の其々の人差し指を立てて見せた。
「例えば、最近俺が唐突に企画した騒ぎ、とかな」
「騒ぎ、」
真っ先にはたと思い至ったのは、イツクの託宣者に告げられたあの言葉があったからだ。
そうでなくては、思い至らなかったはずだ。
でなければこうして此処で彼に伺いを立てることもなかったのだから。
「貴方は、本当に随分先まで見通していらっしゃるんですね」
「あん?」
此れだから、この人の傍に仕えることは止められない。
何処か不真面目そうに見えて、やる気もなさそうなのに、この人は誰よりもこの国の王なのだ。
「イツクの託宣者より、報酬について交渉がありました」
「なんだ。先に言えよ」
「いえ。貴方の推測通りです」
端末のキーを叩いて、男は現れたそれを王に見せる。
「学園新聞部の景品の所作、私に決めさせていただけますか?」
「ま、全部片付いたらあいつに歌わせれば良いからな」
こつこつと王が机の隅を叩くと、唐突にせり上がってきた床の中から凝った細工の木箱が顔を出した。
それを手に取ると、彼は弾く様に錠前を開ける。
「ほらよ」
中には、特別な12個の琥珀色の立方体。
琥珀色の立方体を候補者の四人の前に並べて見せて、男は小さく息を吸う。
「こちらは、討伐に向かう皆様に我が王から贈り物です」
「まさか、これは」
「本当に良いんですか?」
驚いたようなアカツキと、意外そうなシャーロットとは別に、アンノルムは成程と頷いて、イツクは少しだけ楽しそうだ。
『ゲオルグの遺品をくれるなら、考えても良い』
イツクが告げた条件は、それだった。
お久しぶりです。
蛍灯 もゆるでした。
次は、カラクリカラクリです。