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机に並んだ食べ物を着実に消費しながら、イツクは集まった三人の顔をちらりと見る。
別段料理を取られると思ったわけでもないが、幸いなことに誰も手を付けようとはしなかった。
その代わりに、向かいの席に座った男が微かに笑って皿から拾い上げた果実を口の中に放り込む。
「王!」
非難の声を上げたのは、昨日面倒な説明を滔々としていった細面で、男の横に立ったまま呆れたように肩を竦めた。
「行儀が悪いですよ」
「別に良いだろ。煩い爺共の前でもない」
「御老体は大切に扱ってください。ただでさえ、貴方の遣ること為すことがあの方々の心臓に負担をかけていますのに」
はぁとため息をついた細面は、気持ちを切り替えるようにこちらを振り向く。
「ご挨拶もせずに失礼しました」
「堅苦しいのは抜きだ。アカツキの英雄、シャーロットの黒魔女、アンノルムの唱詠い、それにイツクの託宣者」
それぞれの顔を見て男が告げた二つ名に、少しだけ空気が揺れた。
昨日は、地下の射撃場を出るなり、細面に軽食の入ったバスケットを渡された。
ベンチに腰かけてそれを摘まみながら聞いた話には、正直興味は湧かなかった。
示された報酬も、興味がないではなかったが、そんなに心が躍ったわけではない。
「味気ない。詰らない。引受けない」
「この報酬では、駄目ですか?」
困ったような細面は、その他のメンバーについてと、報酬についての話をもう一度口にする。
それでも頷かないでいると、彼は小さく息を吐いた。
「我が王が、貴女を含めて四人を選ばれたのです。どうしても、お引受けいただきたい」
少しだけ考えて一つの提案を口にすると、細面は酷く驚いた様子だったが、明日までに確認するので、取り敢えずはいらしてください、と彼は固い顔で去って行った。
結局あれは、どうなったのだろう。
最後の一口を飲み込んで細面を見上げると、彼はその視線に気づいた様に僅かに頷いて見せた。
「俺はこの国の王として、お前達に魔王討伐を命じる。国民を守るのも俺の仕事なんでな」
「報酬の方は、事前にご説明させていただいた通りです。お問い合わせの件についても確認が取れました」
そう言って彼が机の上に並べた手のひらサイズの琥珀色の立方体は、王様の勅命を受けるに値する、価値のある報酬だった。
今回。あき
次回。蛍灯 もゆる