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アンノルムが指定された部屋に赴くと、すでに二人が部屋の中にいた。
振り返ったのは青年の方で、にこりと笑ってひらひらと手を振って見せると驚いた様に瞬く。
腰に下げられた大振りの剣からするに、騎士専攻だろう。
トゥルバドール科ではあまり見ない黒い髪に、鮮やかな紫紺の瞳をしている。
もう一人は、背中を向けたまま机に並べられた料理に手を付けていた。
襟足の伸びた焦げ茶の髪が、まとまりを知らぬように飛び跳ねている。
身長が随分小さかった。
特別入学生という制度があるのは知っているが、生憎とトゥルバドール科にはいない。
見た所、所属科を示すような持ち物は持っていないようで、手を止めることなく食べ続ける背中に近寄ろうとすると、背後で扉の開く音がした。
入ってきた人物に一瞥をくれて、僅かに瞬く。
他の科の人間は、あまりよく知らない。
けれど、彼女の事は見覚えがあった。
トゥルバドール科の中にも、騒がしい一団というものがいる。
その中心人物である青年が、学園内でも割と異性に人気があるらしい。
その彼が一目惚れをして、昼夜となくアタックをしたが、あっさり振られたというのが彼女だった気がする。
確か、なんとかの黒魔女、と言っていたと思う。
「(騎士に、魔女、ときたら、後は何かなー)」
ふむ、と視線を戻して昨日の説明を思い返した。
「御引受けいただけたら、学園新聞部の件もこちらで片をつけますよ」
理事長の使いという彼がそう言ったのは、報酬やら何やらの全ての説明が終わった後だった。
「科長は喜びそーだねぇ」
「だと思います」
「別に詠えるなら、どっちでもいーんだけどー」
「では、お引受けいただけますか?」
「その報酬で、引き受けないっていうのも難しーよねぇ」
では、明日。お待ちしています―踵を返した彼の背中に、僅かに目を細める。
学園新聞部の件は、理事長が裏で手を廻しているんだろうとは思っていたけれど、どうやらこのための布石だったらしい。
「なーに考えてるんだろーねぇ」
正面から現れた理事長と昨日の使いの彼の姿に、口の中でそう呟いた。
「尻切レ蜻蛉」ターンエンド。
次は「あき」のターンになります。