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人気のない廊下を歩いて行く。
反響する靴音に、リズムをつけようとしてから止める。
「思ったより早かったですね」
ぽつりと零した独り言も今は聞く人がいない。
魔王の討伐隊に抜擢されました、と名誉なのかよくわからないことを言われたのはつい昨日のことだ。
端的かつ簡潔なその一言に、了解しました、と笑えば伝令を持ってきた彼自身がわずかに眉を顰めた。
どうしたんです、と尋ねれば、彼は凡用端末を操作しながら答えた。
「報酬を聞く前に引き受けたのはあなたが初めてです」
「学園生徒なら学園長のお願いごとはきくものじゃないですか」
その一言に彼は少しだけ目を細めた。
それから、こちらに端末の画面を向ける。
「成功報酬は用意してあります。討伐隊はあなたを含め4人。明日、顔合わせをしていただきます」
了解しましたと再度頷いて、そして今に至る。
顔合わせの間まではあと少し。
提示された成功報酬は考えていたよりも、ずっといいものだった。
と言うよりも自分にとって最も魅力的な報酬だった。
無償とまではいなかくとも、自分には報酬は用意されていないと思っていたのだからその感動も大きい。
他の面々もきっと同じように報酬を提示されたのだろう。
そして、その報酬に頷かなかった者はいないのではないかと思う。
何せ、あの学園長のことだ。
背景事情や性格を完全に把握した上で、提示した報酬なのは明らかだろう。
「他の人はどんな報酬でつられたんでしょうねー」
一瞬で浮かんだ好奇心は、やはり一瞬で霧散して、まぁそんなことどうでもいいかという気持ちになる。
気づけばもう扉の前で、無意識に握り込んでいた拳を解く。
黒魔女を冠する身としての自分が必要とされたのだから、これは必要ないやと笑う。
開けた扉の向こうに三つの影が見えた。
シュレディンガーの羊でした。
次回は尻切レ蜻蛉です。