序 幕 救国の反逆者
始めて投降させていただきます。
『ハリー・ポッターシリーズ』や『リンの谷のローワン』、『ダレン・シャンシリーズ』などの王道ファンタジーを目指して書きました。
小説を書くのは初めてなもので、文法のおかしな箇所や細かい見落としなどもあるかもしれませんがご容赦ください。
感想など頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
序幕 救国の反逆者
たった一人の女の周りを、六十人もの魔法使いたちが取り囲んでいた。
精悍な顔つきの若者から、人生の酸いも甘いも噛み分けたような雰囲気を醸し出す老人まで、ありとあらゆる年代の男女で構成されたその集団の目的はただ一つ――つまり、今、目の前に立つ女を生け捕りにすることだ。
何も事情を知らぬ者からすれば、たった一人だけを捕まえるのに六十人もの人手を割くなど、到底理解できない愚かな行為だろう。確かに女はとりわけ強力な《魔法使い》だが、しかしそれは女を取り囲む六十人の男女もまた同じ。彼らは国中から寄せ集められた魔法使いの、さらにその中から厳選された《聖なる守護団》と呼ばれるエリートたちで、このような事態は既に何度も経験しているはずなのだから。
しかしそれなのにも拘らず、守護団の構成メンバー六十人の表情からは、どれも緊張と……、そして微量の《恐怖》が、はっきりと見てとれた。
そう、彼らは人数的に圧倒的優位な立場にいてもなお、一人の女に恐怖していたのである。
「自らの罪を認め今すぐ投降せよ、ソーラ・シュヴァルツ。さもなくば、我々――聖なる守護団は、《聖会》からの命令に則り、即座に攻撃を開始する」
守護団の中から、深紅のローブを身に纏った男の魔法使いが進み出て、女にそう告げた。
これ以上の抵抗を試みれば、すぐさま四方八方から攻撃魔法が襲い掛かり、女を消し炭にすることだろう。その証拠に守護団は、両手に、あるいは杖に魔力を集中させ、いつでも魔法を発動させられるように準備している。
「返事をしろ、ソーラ・シュヴァルツ!」
ソーラ・シュヴァルツと呼ばれた女魔法使いは、その最後通告に対し、胡散臭そうに鼻を鳴らした。顔の造りから身体の描く曲線まで、何もかもが氷の華を思わせる冷徹かつ美麗な容貌は、傍から見れば絶望的とも思えるこの状況においてさえ、余裕の雰囲気を纏っていた。
その余裕を崩さぬまま、ソーラは冷めた声で返す。
「……誰がなんと言おうと私の意志に変わりはない。殺したければ殺してみせろ。捕まえたければそうしてみせろ――お前たちにそれができるなら」
「…………ッテメエ……!」
憎々しげに顔を歪めた深紅のローブの魔法使いは、隠しきれぬ殺意を声に乗せて叫んだ。
「全員攻撃ッ! この女を捕えろぉおおおッ!!」
その瞬間、ソーラ・シュヴァルツに六十人分の攻撃魔法が降り注ぐ。
それと同時に、ソーラは腰に下げた二振りの剣を抜き放った。
――――数時間後。
ソーラ・シュヴァルツと聖なる守護団が対峙した国境付近の森が、半径約五十メートルもの広範囲に渡り、完全に丸裸の焼け野原と化していた。その原因は紛れもなく、彼らが魔力の限りに死闘を繰り広げた、その痕跡であった。草木のたった一本すら残っていない地面と、そこに横たわる六十の影が、その死闘の凄まじさを物語っている。
死亡者0名、負傷者六十名。
それが、国内トップレベルの実力を誇る聖なる守護団の選抜隊『六十名』が、たった一人の女魔法使いに挑んだ、その結果であった。
「……あ、あの女……ソーラ・シュヴァルツは、どうなった……?」
もはや立ち上がる気力と体力さえ失われていたのだろう、地面に這いつくばったままの、深紅のローブの魔法使いが、苦痛に呻きながら尋ねた。『エリートたる自分たちが死を賭してまで闘ったのだ、いくら奴とてただで済むはずがない』――そんな確信とともに。
「……も、申し訳ありません、ローゲル様……。逃げられました……」
深紅のローブの男――サルマ・ローゲルの確信は脆くも砕け散った。
「くそっ……! 馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な! クラウゼン王国が誇る聖なる守護団が、女一人に惨敗するだと……! あの守護団崩れの化物女め……!」
しかしそんな怨嗟の言葉も、今となってはただの負け惜しみに過ぎない。
クラウゼン王国が誇る魔法使いのエリート集団《聖なる守護隊》は、たった一人の女魔法使い、ソーラ・シュヴァルツを殺すどころか、傷一つつけることさえできずに、《全滅》させられたのだから。