表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された俺、辺境で畑を耕していただけなのに、いつの間にか都市ができていた件 ~売らない・奪わない・支配しない、静かな開拓村づくり~  作者: レオン・クラフト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/22

第4話 食える、という強さ

 夜明け前、レオンは小屋の中で目を覚ました。


 外はまだ薄暗く、鳥の声もない。だが、身体は自然と起きる準備ができていた。昨日よりも寒さが和らいでいる。屋根と壁が、きちんと仕事をしている証拠だ。


 彼は火を起こし、湯を沸かした。

 豆を放り込み、干し肉をほんの少しだけ削る。香りが立つほどではないが、湯気に混じる匂いは、確実に「食事」だった。


 鍋を火から下ろす前、ふと畑の方を見た。


 芽は、確かに増えている。

 昨日は点だったものが、今日は線になり始めている。風に揺れるその様子は、頼りないが、折れる気配はない。


「……順調だな」


 それだけで、朝の仕事に入る理由としては十分だった。


 朝食を終えると、レオンは畑の端に簡単な杭を立て、紐を張った。畝の境界をはっきりさせるためだ。踏み荒らしを防ぐ意味もあるが、それ以上に、作業の効率が上がる。


 次に手を付けたのは、保存だ。


 収穫はまだ先だが、備えは早い方がいい。彼は小屋の壁際に棚を増設し、風通しの良い位置を選んで木枠を組んだ。干し肉や豆だけでなく、いずれは野菜も吊るせるように。


 作業の途中、足音が聞こえた。


 ゆっくりとした、重い足取り。

 森の方からだ。


 レオンは振り返らず、手を止めなかった。

「……おはよう」


「朝から働き者だな」


 昨日の男――バルドだった。

 今日は剣を背負っていない。代わりに、木の枝を抱えている。


「薪だ。勝手に拾ってきた」

「助かる」


 短いやり取りだったが、空気は悪くなかった。

 バルドは畑を一瞥し、目を細める。


「増えたな」

「少しずつな」


「食えるのか?」

「もう少し待てば」


 その言葉に、バルドは小さく笑った。

「……それだけで、十分だ」


 昼前、二人で簡単な作業をした。

 バルドは力仕事を任せると早い。倒木を運び、杭を打ち、土を均す。片腕でも、身体の使い方が無駄なく、経験が滲み出ていた。


 昼食は、豆の煮込みを分け合った。

 木の器に注ぎ、二人並んで腰を下ろす。


「うまいとは言えねえな」

 バルドは正直に言った。

「だが、腹には溜まる」


「それが重要だ」

 レオンは頷く。

「腹が満たされれば、考えられる」


 バルドはしばらく黙り込み、やがて言った。

「……戦場じゃ、考える余裕がなかった。食えるかどうか、それだけだった」


 レオンは、それ以上踏み込まなかった。

 代わりに、鍋を指差す。


「次は、もう少し味を工夫する」

「期待していいか?」

「豆が増えればな」


 午後、レオンは畑の一角を試しに掘り返した。

 芽の出ていない区画だ。土の湿り具合を確かめ、指で崩す。悪くない。むしろ、思ったよりも良い。


 彼は種袋を取り出し、少量だけ追加で蒔いた。

 無理はしない。だが、止まりもしない。


 その様子を、バルドが黙って見ていた。

「……あんた、欲がないな」

「そうか?」

「普通は、もっと急ぐ」


「急いで、枯らしたくない」

 レオンは土をならしながら言った。

「食い物は、裏切らない分、正直だ」


 夕方、風が強くなった。

 レオンは畑の周囲に簡易な風除けを作り、苗を守る。手間はかかるが、やる価値はある。


 日が沈む頃、作業は一段落した。


 今日の収穫は、目に見えるものではない。

 だが、小屋は少し丈夫になり、棚が増え、畑は広がった。なにより――二人で食事をした。


 それは、大きな変化だった。


 夜、火を囲みながら、バルドが言った。

「……ここで、しばらく世話になってもいいか」


 レオンは即答しなかった。

 一瞬だけ、考える。


 人が増えれば、責任も増える。

 だが、人がいなければ、続かない。


「働いてくれるなら」

 彼はそう言った。

「食事は出す」


 バルドは、少し驚いたように目を見開き、そして深く頷いた。

「それで十分だ」


 その夜、レオンは帳面に新しい一行を書き加えた。


 ――定住者、一名。


 文字にした瞬間、その重みが現実になる。

 だが、不安よりも、奇妙な安心感があった。


 食える。

 寝られる。

 人がいる。


 それだけ揃えば、ここはもう「生きられる場所」だ。


 レオンは火を落とし、闇の中で畑の方を見た。

 風に揺れる芽は、暗闇でも確かにそこにある。


 ――強さとは、きっとこういうものだ。


 彼はそう思いながら、静かに目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ