第34話 使わなかった責任
翌朝、広場の空気は重かった。
被害はない。
怪我人もいない。
だが、満足もなかった。
若者の一人が、木剣を握ったまま立っている。
「追えば、捕まえられました」
声は震えていない。
怒りでもない。
ただ、納得がない。
ガルドは、黙ってその横に立つ。
「逃げた敵は、戻る」
短い言葉。
全員の視線が、レオンに集まる。
「戻るかもしれない」
レオンは認めた。
「だが、追えば、確実に“増える”」
「増えたら、叩けばいい」
若者が言う。
「叩けば」
ミラが静かに口を挟む。
「次は、こちらが“脅威”になります」
沈黙。
ガルドが、低く言う。
「それでも、守れる」
「何を」
レオンは問い返す。
言葉が詰まる。
「畑か」
レオンは続ける。
「人か」
「それとも、安心か」
誰も、すぐには答えられない。
「守るとは」
レオンはゆっくり言う。
「勝つことじゃない」
「壊さないことだ」
昨日と同じ言葉。
だが、今日は違う重みがある。
「壊すとは」
彼は続ける。
「相手だけじゃない」
「自分たちの形も、だ」
ガルドは、視線を落とした。
理解している。
だが、飲み込めない。
「……後悔するぞ」
彼は静かに言う。
「守れるのに、守らなかった後悔は、長い」
「使えば」
レオンは返す。
「戻せない後悔が残る」
沈黙が、広場を包む。
やがて、若者の一人が木剣を下ろした。
「……畑、行きます」
次々に、持ち場へ戻る。
ガルドは、最後まで動かなかった。
「俺は」
彼は低く言う。
「力を否定しない」
「俺もだ」
レオンは答える。
「だが、中心には置かない」
風が、畑を揺らす。
守るための力。
力を持たない覚悟。
どちらも、正しい。
だからこそ、重い。
ガルドは、ゆっくりと槍を地面に突き立てた。
「……俺は、もう少し考える」
「ここにいろ」
レオンは言った。
「考える場所だ」
その日の訓練は、なかった。
夜、焚き火のそばで、イオルが呟く。
「……怖いですね」
「何がだ」
「選ばなかったことが」
レオンは、火を見つめる。
「選ばなかった責任は、消えない」
「だが」
「選んだ責任も、消えない」
火が、小さく弾ける。
村は、戦わなかった。
だから平和だった、とは言えない。
戦わなかった。
その責任を、抱えたまま。
それでも、壊れなかった。
夜は、静かだった。
だが、その静けさは、
昨日よりも重かった。
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