第32話 揺れる村
変化は、静かに始まった。
最初は、朝の時間だった。
畑に出る前、広場の端で、木剣を握る若者が二人。
その前に立つのは、ガルド。
「足を止めるな」
低い声が響く。
「踏み込むなら、戻りも考えろ」
イオルは、その光景を少し離れた場所から見ていた。
訓練と呼ぶには、まだ軽い。
だが、動きは真剣だ。
汗も、息も、本物だった。
「……悪いことじゃ、ないですよね」
エルナが、ぽつりと呟く。
「悪くはない」
バルドが答える。
「だが、軽くもない」
レオンは、その様子を見ながらも、何も言わなかった。
禁止はしていない。
許可もしていない。
ただ、止めていない。
昼前、ミラが帳面を閉じて言う。
「参加者、四名になりました」
「増えたな」
レオンは短く答える。
「不安は、数字に出ます」
ミラは言う。
「猪の件も、盗賊の噂も」
ガルドは、村を歩く。
武器を振り回すことはない。
だが、視線は常に外へ向いている。
「守れるなら、守るべきだ」
彼は若者たちに言う。
「力は、使わなければ錆びる」
その言葉に、イオルの胸がわずかに揺れた。
守る。
その響きは、強い。
夕方、広場で簡単な模擬戦が行われた。
観る者も、増えている。
歓声はない。
だが、視線は集まる。
終わった後、ガルドがレオンに近づいた。
「見ていたな」
「ああ」
「どう思う」
「悪くない」
レオンは正直に答えた。
ガルドの口元が、わずかに上がる。
「なら――」
「だが」
レオンは続ける。
「それが中心にならないようにする」
ガルドの表情が、わずかに硬くなる。
「中心?」
「この村の中心は、畑だ」
レオンは言う。
「武器じゃない」
沈黙。
「守れなければ、畑も残らない」
ガルドは言う。
「守りすぎても、残らない」
レオンは答える。
言葉は、平行線だった。
夜、焚き火のそばで、イオルが訊いた。
「……もし、本当に来たら」
「来る」
バルドは即答した。
「いつかは」
「その時」
イオルは、レオンを見る。
「使わないんですか」
レオンは、少しだけ考えた。
火を見つめる。
畑の匂いを思い出す。
「使う」
静かに言った。
「だが、先に使わない」
その違いは、微妙で、だが決定的だった。
訓練は、翌日も続いた。
参加者は、六名になった。
村は揺れている。
武器の重みは、安心を生む。
だが、その安心は、方向を変える。
レオンは知っている。
力を持つことは、間違いではない。
だが――
**力を中心にすることは、間違いになる。**
その線を、どこに引くか。
答えは、まだ出ていなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




