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追放された俺、辺境で畑を耕していただけなのに、いつの間にか都市ができていた件 ~売らない・奪わない・支配しない、静かな開拓村づくり~  作者: 影山クロウ


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第23話 信用という名の拘束

 その申し出は、静かだった。


 昼下がり、境界の外に現れたのは、二人組だった。

 片方は見覚えがある。以前、革と釘を持ってきた商人ロアン。

 もう一人は、無口そうな護衛だ。


 イオルが声をかける。

「今日は、何の用件だ」


「話を変えに来た」

 ロアンは、落ち着いた調子で言った。

「売る、売らないの話じゃない」


 焚き火のそばで、向かい合う。


「ギルドが動いている」

 ロアンは単刀直入だった。

「値段が広まった。あんたたちが拒んでも、周囲は勝手に使う」


 ミラが、視線を伏せる。

 想定していたが、早い。


「だから、別の形を提案する」

 ロアンは続ける。

「信用取引だ」


「信用?」

 エルナが眉をひそめる。


「先に物を渡す」

 ロアンは言った。

「道具、革、塩。必要な分だけ」

「代金は?」

「後でいい」

「……後で?」


 レオンは、そこで初めて口を開いた。

「理由を聞こう」


「安定だ」

 ロアンは即答する。

「今は金がなくても、いずれ払える」

「それが信用だ」


 バルドが、低く言う。

「縛る気だな」

「違う」

 ロアンは首を振る。

「助ける気だ」


 ミラが、静かに言った。

「信用は、返済期限を曖昧にします」

「その方が、続く」

 ロアンは言う。


 レオンは、少し考えた。

 帳面を見る。

 保存量を見る。

 人を見る。


「……断る」

 短い言葉だった。


 ロアンは、驚かなかった。

「理由は?」


「信用は、自由を削る」

 レオンは言う。

「返さなければならない、という意識が、判断を歪める」


「だが」

 ロアンは食い下がる。

「困るだろう。今、革も道具も足りていない」


「足りていないのは事実だ」

 レオンは認めた。

「だが、縛られるほどではない」


 沈黙。

 焚き火の音が、間を埋める。


「……本当に、変わっている」

 ロアンは、苦笑した。

「普通は、喜ぶ」


「普通に、縛られたくない」

 レオンは答えた。


 その日は、それで終わった。

 取引はない。

 荷も下ろされない。


 ロアンが去ったあと、エルナが小さく言う。

「……助かったかもしれないのに」

「そうだ」

 レオンは頷いた。

「だからこそ、断った」


 ミラが、帳面を閉じる。

「信用は、鎖になります」

「目に見えない分、切れない」

 バルドが補足する。


 夜、村に戻る途中のロアンは、振り返らなかった。

 だが、その背中には、奇妙な敬意が漂っていた。


 焚き火を囲みながら、イオルが呟く。

「……助ける顔をした罠、ですね」

「罠じゃない」

 レオンは答える。

「相手にとっては、正しい」


 それが、厄介だった。


 信用という名の拘束。

 それは、価格よりも柔らかく、深く食い込む。


 レオンは、火を見つめながら思う。

 ここは、借りを作らない場所だ。

 借りなければ、返す必要もない。


 選ぶ自由は、軽いようで重い。

 だからこそ、守る価値があった。


 村はまた一つ、見えない鎖を避けた。

 だが、圧力が消えたわけではない。


 むしろ――

 **本気になった者が、増えただけだった。**


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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