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クリスマスなんて私にはないと思ってた

登場人物紹介

主人公

・舞浜 くるみ(まいはま くるみ)

社畜生活を強いられている会社員。同期はこの忙しさに耐え切れず一人を残して皆辞めてしまったが仕事に誇りを持っている。社内からの評価も高く部長から新部署の部長の席をお願いされていたが保留していた。そんな中夫が共同貯金をすべて持ち逃げして消息を絶った。もちろん両親から謝罪をいただいたが心の傷は埋まるわけがない。娘だけが唯一の希望で生きる意味だ。


舞浜まいはま 香莉奈かりな

サンタクロースの正体は親だという話は小学校で割とみんなで笑い話で知っていた。母からほしいものを聞かれた時、とっさに欲しいものを言ったが学校で書いた手紙はサンタクロース。つまり母に向けた手紙であった。


同期

青山あおやま 弥生やよい

忙しく仕事ができない自分のことを手厚くフォローしてくれた主人公に対し敬意を持っている。おかげで教育係になることができた。部長の提案には全面的に賛成で、でも無理もしてほしくないので保留している話を無理に進めようとは思っていない。でも、少しでも好条件で働いてほしいのでよく食事に誘っている。休みが合えば奢りで香莉奈ちゃんも一緒にランチすることも。


部長

大石おおいし 一郎いちろう

主人公のハードワークに心配をしている。高く評価しており、クライアントからの依頼で専門の課を新設することを決めている。部長は主人公しかいないと社内会議で発言し、クライアントもそのことは賛成をしており、むしろ主人公以外なら取引をやめるといわれている。そのため保留されている以上強く言おうと思っていなかった。深夜に課の新設の了解返事が来て飛び跳ねるようにうれしく、社長に深夜にもかかわらず電話して普通に怒られた。

 クリスマスなんて子供の幻想だ。


 そう言い聞かせて何年たっただろうか…あいつが夜逃げして、生まれたばかりの娘と私だけ残し貯金も全て持ち逃げ。会社にすぐ復帰して働いたおかげで首の皮一枚つながったが、生活は苦しいままだ。でも帰ると必ず、

「ママおかえり!」

 そう、待っている娘がいる。夜逃げされた時から娘もかなり大きくなった。小学校に入り成長期の娘に栄養を取らせないわけにもいかないし、そのバランスだってあなどれない。今日は塩鮭とみそ汁、ほうれんそうのお浸しと冷や奴。バランスは意識してるが、昨今の物価高、米の異常なまでの価格高騰により家の財政はかなり悪化していた。光熱費も冬になると夏以上にかかってしまう。都市ガスでいくらか安いが…それでも光熱費と水道代を合わせると給料からかなり吸い取られてしまう。


 会社では自分の昼ご飯を我慢し、朝ごはんも夕飯を残してそれを食べている。同僚からは、

「今日くらい奢るからさ、忙しいかもしれないけどご飯いこ?」

 と、たまに誘われる。好意に甘えてご飯に行くが、私が昼食を抜いているのは何もご飯代を節約しているだけではない。部署の仕事は基本外部からの依頼をこなしていく仕事で、一件終わると次の依頼をタスク欄から選択してこなす形になっている。さらにこなした数が基本給より多いと+で給料が加算される仕組みになっているのだ。現状この課で3割以上の実績は私が持っているため、昼にこうしてご飯に誘ってくるのは唯一残っている同期の弥生ちゃんしかいない。彼女は同じ課の教育係を務める係長で、給料は私と同じくらいで独身貴族を満喫しているらしい。

「くるみはいつもタスク頑張ってるしさ、査定会議で何回も名前出してるからそろそろ昇進するよ! 基本給も上がって役職手当もつくしさ、娘ちゃんにいいもの買って上げれるしね!」

 弥生はいつも励ましの言葉をくれる。彼女の言うとおり、過去2回の査定で基本給のクラスは飛び級を繰り返している。課長や部長も家庭の事情ではなく、純粋なタスクのこなす速さ、正確性とクライアントからの評価を反映して決めていると言っていた。

「そういえばクリスマス近いよね! 娘ちゃんに何か買ってあげれる?」

「ん…そうだね。帰ったら聞いてみる」

 今日は残業せずに帰ることを決意する。いつもは終電まで仕事をして帰るため、娘は寝てしまう。3日に一回は娘のために早めに帰るが今日は特別早く帰ることにした。部長へは弥生が上手く説明してくれたらしい。家に帰ると娘の香莉奈が出迎えてくれた。

「ママおかえり! 今日は早いね!」

「今日は早く仕事がおわったのよ。さ、寒いから部屋に戻りましょ」

 リビングで娘は寝っ転がってゲームをしている。夕飯を料理しながら娘に話しかける。

「そういえばサンタさんにお願いした?」

「ほんとは新しいゲームが欲しいの! でもサンタさんが忙しいかもしれないから、お菓子って学校で書いてきた」

「そ、そっか…」

 豚肉の生姜焼きを作りながら考える。香莉奈はいい子だし、頭もいいから薄々誰がプレゼントを買っているのか気づいているのかもしれないとこの発言で思った。ゲームは今流行りのアクションゲームで人気過ぎて一時ソフトの在庫がなくなるほどで転売は常に10~12倍の値段で販売されている。店頭にソフトが戻り始めているのでこれでも転売価格は落ちてきたほうである。

 クリスマスなんて子供の幻想だ。小学校の時私は親に突然そう言われ、夢を壊されたし、社会人になってからはクリスマスなんて気にする暇もないくらい忙しくなった。娘が生まれて初めてクリスマスという概念を思い出したほど、忙しかったし余裕がなかった。あいつが突然いなくなって娘は、

「パパいつ帰ってくるの?」

 としばらくの間聞いてきていた。それが心苦しく、毎日枕は水浸しになった。


 12月25日。クリスマス当日、今日は早く帰る予定だったが最後に選んだ依頼が注文が多すぎてなかなか終わらなかった…終わって時計を見ると24時を過ぎている。終電ももうすぐ出てしまう。私物の保管庫にあるゲームソフトを取り出して足早に会社を出る。ギリギリ電車に滑り込み、家までの帰路につく。

 家の鍵を開けると部屋は真っ暗で、おそらく娘は寝ている。夕飯は作り置きをしているため、しんぱいないが、本来なら娘とクリスマス会をする予定だった。肩を落としながらリビングに入り電気をつけると、ソファーで寝ている娘が目に入った。床にはゲーム機がソフトの起動されたまま落ちていた。きっと待ってくれていたのだろう。彼女を部屋のベットに連れていき、冷え切っている体に布団をかけてあげる。

「ごはん食べるか…」

 寝室からリビングに戻ると、A4用紙が一枚置かれている。それを見ると娘の書いた手紙であった。読んでいるうちに涙があふれてくる。寝室に戻って娘の頬にキスをし、いったんお風呂に入ることにした。香莉奈にはたくさん迷惑をかけたと思う。部長から来て、保留していた話に返答を送り風呂に入った。寒さで冷え切った心が手紙で温かくなり、お風呂で体も温まった。お風呂から出ると眠気が襲ってきて、欠伸が出る。夕飯は断念し寝室へ行き、娘の横から布団に入る。うとうとし始めたその時、娘が寝返りを打ち、私のほうに来てそのまま抱き着いてきた。抱き返した私はそのまま深い眠りの世界へといざなわれた。


 クリスマスは子供だけのものじゃない幸せなものだった。

ママへ

 いつもおそくまでおつかれさま!

今日のクリスマスかえってこれないくらいいそがしいのに

ごはんをつくっておいてくれてありがとう。おいしかったよ

サンタさんにはおかしをお願いしたの。ほんとうは

ゲームがほしかったけどママとおかしが食べたい!

ママにゆっくりしてほしいよ。こんどのお休みに

ママのお友達もよんで、おうちでクリスマス会がしたいです


ママ大好き!!


                          かりなより

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