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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第五部

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99/142

99.バグダッド攻防戦(2)

イラク陸軍の戦車隊が奮戦します。

 ジェマナイの攻撃軍のなかでも、もっとも苦戦していたのはレファイン=ヴァルデスの部隊だった。

 それは、彼らの部隊の機体が旧式のヴェガであった、というところも大きい。

 ただし、単なる水耕栽培施設と思われていたディストリクト‐Cには、大量のエニグマムスタング2が配備されていた。

 当然のことだ。ディストリクト‐Cはバグダッドの生命線であったのである。

 砂漠化の進んだイラクでは、食物の収穫量が以前にもまして激減していた。

 現在では、統合戦線に食物の大部分を依存している状況である。

 そんななかで、水耕栽培施設が落とされるわけにはいかなかった。

 バグダッドという都市の命運にもかかわってくるのである。


 レファイン=ヴァルデスは、民間施設の破壊よりも、イラク陸軍への攻撃を優先した。

 部下たちにも、そのように伝える。

 ──命令には背いたかもしれない。しかし……

 目の前には、イラク軍の主力戦車であるエニグマムスタング2が迫ってきているのである。

 レファイン=ヴァルデスのヴェガが、全方位ミサイルを発射してエニグマムスタング2を狙う。

 しかし、敵の防御態勢も伊達ではない。

 バグダッドという都市を守ろうと、死ぬ気になっているのに違いなかった。

 いくつかのエニグマムスタング2はミサイルを撃ち込まれて行動停止になったが、その他はすばやく移動してヴェガの死角に回り込もうとする。

 その部隊を率いているのは、シャダム・アルリクである。

 イラク陸軍の精鋭であり、猛将と恐れられている男だ。

 あるいは、「戦場の賢人」と呼ばれることもあった。


 同じくレファイン=ヴァルデスも、「ネオス界の哲学者」と呼ばれている将軍である。

 実年齢は18歳だが、ネオスらしく大人の風格とスマートさを身に着けている。


 レファイン=ヴァルデスは、敵の大将を同じく「哲学的な男」だと見て取った。

 戦いに意匠が感じ取れるのである。

 敵を「ただ殺す」のではなく「無力化させる」戦法が、そこにはあった。

 美しい──そういう戦いだ。

 たぶん、自分が負けたとしても、統合戦線の虜囚になるだけで、死ぬことはあるまい──と、彼は思った。

(だからこそ、恐ろしい敵だ。敵を殺すことは簡単なのだ……)

 ビッグマン・ヴェガのなかで、レファイン=ヴァルデスは再び気を引き締めた。


 ──


 戦車のなかでシャダム・アルリクは言う。

「チャラビー少尉、メーザー砲を持ち出すぞ。あれでビッグマンをぶっとばす!」

「大佐、あれは廃棄予定になっていたものでは?」

 チャラビー少尉と呼びかけられた男が答える。

「かまわん。スホーイには歯が立たなくても、ビッグマンなら良い的になる!」

 シャダムの考えは大胆だった。

「書類手続きが面倒臭く……」

「しのごの言うな! 黙って持ってくりゃ良いんだよ!」

「わかりました。45分はかかりますが……」

「45分でバグダッドは陥落せんよ!」

「了解です」

 納得のいく答えだった。

 説得力のある男というのは、つねに納得のいく答えを出す。

 チャラビー少尉にとっても、大佐は憧れの的である。


 ──


「あの、高層ビルから飛んでくるミサイルがうるさくなってきた。どうやら、敵は10キロ先の標的も的にしているらしい」

 レファイン=ヴァルデスが言う。

 それにたいして、配下の子ルーチンであるヴァーヴは答える。

 20歳のアンドロイドであり、すでにベテランだ。

「三将、やっつけの量子かく乱フィールドでは持ちませんね? 関節に撃ち込まれたらアウトです」

「その通りだ、二尉。敵もなかなか馬鹿じゃない。イラク陸軍がこれほどの戦力とはな……新たな装備が来るかもしれん」

「まったくです。当初はビッグマンで都市制圧するだけかと思っていたのですが」

 ヴァーヴ二尉は冷静に返答した。

「リュシアス閣下はそんなに甘い方じゃない。だからこそ、我々の背後にジェマナイ陸軍も控えている」

 と、レファイン=ヴァルデス。

 レファイン=ヴァルデスは、ヴァーヴよりも年下だったが政治的には洗練されている。

 リュシアスの命令の背後にひそむもの、というのを厳粛に見つめているのだった。

「はっ。ここは慎重に行きましょう。ネラにも十分言い聞かせます」

 ヴァーヴは通信を切り、またビッグマンを攻撃モードに切り替えた。


 ──


 水耕栽培地区はすでに5分の1ほどが破壊されていた。

 これでもバグダッドの都市機能は維持できるが、これ以上の被害は広げたくない。

 なにしろ、ここ以外でも各所で戦闘が起きているのだ。

 報告によれば敵のビッグマンは15体ということだったが、6か所に戦線が開かれている。

 これはおかしい、とシャダム・アルリクは思う。

 それぞれが陽動なのか、それぞれが本命なのか。

 しかし、ジェマナイがすでに持久戦を覚悟しているのであれば、こここそが本命だ、とアルリクは考えた。

 つまり、ここを死んでも守らなければならない。


「チャラビー少尉。作戦をすこし変更するぞ? メーザー砲を戦闘車両の砲塔と組み替える。この作業には1時間はかかるだろう。しかし、機動性が増す。ソフトウェア方面の書き換えも含めて、可能か?」

「たぶん……2時間でいけます。我がイラク陸軍を甘く見ちゃいけません。技術陣は優秀ですからね。今からでも間に合うでしょう」

「わかった。よくやった。これで敵のビッグマンも我々の的だ」

「うまくいくといいですね……」

 チャラビーは、不安にかられながらも大佐を信頼してそう答えた。

 大佐のなかでは、この戦闘の全体状況というものが見えているのだろう。

 自分たちが後方でどたばたしていたとしても、味方は持ちこたえる。

 そうした信頼をチャラビーは見て取った。

「ああ。俺を誰だと思ってる? イラク軍のハン・ソロだ!」

 そう言って、シャダム・アルリクは豪快に笑った。

 その笑いによって、イザート・チャラビーは一気に気が楽になるのを感じた。

 この戦いは勝てる。そう確信した瞬間だった。


 ──


「やっほー。いよーい。あたしたちの時代が来たよ~! 統合戦線め、それ見たことか!」

 と、ヴェガのコックピット内でネラは叫んでいた。

 戦闘の熱に浮かされている、一種の病気である。

 子ルーチンにしてもまだ13歳という年齢から、それは仕方ないことなのかもしれなかった。

 アジンバル公国に出向したマーシャ・ツヴァルとも似ているが、彼女ほどの毒々しさはない。

 しかし、戦闘の足を引っ張るような行動は厳禁である。

 年上であるヴァーヴが苦言を呈する。

「ネラ一曹、今は戦闘中だ。戦況以外のことは考えるな。思想的なこともだ……」

「あたしがね、アナーキストだからっていうことだからですかあ? それはそうなんですけれどねえ~」

「だから、それが余計な思考なのだ。貴官は思想上で何を思っていても良い」

「わっかりました~。……あ、来た、来た~」

 ネラは、突如もだえはじめた。

 ジェマナイのマザールーティーンによって思考を上書きされる。

 その瞬間を、ネラは快楽だと思っているのだ。

 ミリ秒単位の沈黙が訪れた。

 一転して冷静になった思考で、このように言った。

「ヴァーヴ二尉、了解です。敵の侵攻をなるべく食い止めて、陸軍の負担を減らします」

「わかってくれればいい。無理はするな?」

 ヴァーヴは、ネラがジェマナイのマザールーティーンを受けたことを理解しながらも、優しく言った。


 ──


 そのころ、イラク陸軍のほうでも準備は淡々と進んでいた。

 メーザー砲を搭載した戦闘車両が、水耕栽培施設周辺の各所に配備される。

 敵は、依然として陸軍の戦車を相手にしている。

 ビッグマンとは言え、雲霞のごとくの大軍には抗しようがない。

 2時間の猶予は、ジェマナイ側にとっては致命的だった。

 シャダム・アルリクは確信している。

「クソどもめ、メーザー砲の準備はいいか? ぶっぱなせ!」

 と、シャダム・アルリクは叫んだ。

 アルリクの指揮している戦闘車両から、メーザー砲が発射される。

 レファイン=ヴァルデス三将のビッグマン・ヴェガの右腕が吹き飛んだ。

次章に続きます。

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