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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第五部

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98/98

98.バグダッド攻防戦(1)

ついにバグダッドでの戦いが始まりました。

 その日、バグダッド市民たちは恐慌の雨に包まれた。

 突如として、ジェマナイの巡航ミサイルが市街地に降り注いできたのである。

 2153年12月7日のことだった。

 その日のことを、後にバグダッド市民たちは「悪夢の金曜日」と呼んだ。


 その8時間後……

 ロシア連邦大統領セルゲイ・アンドローノフは、テレビに向かってこう告げた。

「我々ジェマナイ──統合政体ロシア・アジア共栄圏は、統合戦線の暴挙にたいして敢然と反抗すべく、ここに同国の前哨基地があるバグダッドを攻撃するものです。ジェマナイの代表として申し上げますが、これは統合戦線の衛星国家であるイラクを同国の圧政から解放するためです。繰り返します、これは解放戦争なのです!」


 同時に、アジンバル公国からも統合戦線への宣戦布告があった。

 声明を表明したのは、ドニエスタル侯爵である。

 侯爵は、こんなふうに言う。

「世界は今、統合戦線という超大国の圧政に屈しようとしている。我が国のような弱小国家は、その意志と思想を貫くすべを奪われようとしているのである。今回、我が国はジェマナイに協力し、この暴力的な支配からの人類の解放を試みようとするものである。国民よ、立て。新時代のファシズムを許してはならない!」


 まさに政治宣伝そのものだった。

 しかし、それらの演説は、統合戦線以外の国にとっては、効果的だったのである。

 まず、イランとパキスタンとが、ジェマナイに賛同する声明を出した。

 ついで、アフガニスタンがジェマナイを擁護した。

 南アジア、および西アジア各国は、しだいにジェマナイに傾倒しつつあった……


 ビッグマンの大軍が押し寄せてきたのは、その直後だった。

 ジェマナイのビッグマンは6軍に分かれて展開していた。


 市街地であるディストリクト‐Aを襲ってきたのは、アマレス、シズマ=ローク、マーシャ・ツヴァルのタルタロス部隊。言わずと知れた、アジンバルのお子様部隊だ。

 主に工場施設があるディストリクト‐Bを襲ってきたのは、ヴァレリテ、カリュクス、オルガのヴェガⅡ部隊。彼らの部隊はカクタステーマと呼ばれている。

 水耕農場などがあるディストリクト‐Cを襲ってきたのは、レファイン=ヴァルデス、ネラ、ヴァーヴのヴェガ部隊。レファイン=ヴァルデスはやや戦力的に劣るヴェガ部隊を戦術特務三将として率いていた。

 陸軍施設があるディストリクト‐Dを襲ってきたのは、アーシャ・ロウランのノルニール、コバルトレオのリントヴルム、ニクス=EAのサロメ。セヴァストポリ戦でも活躍した部隊である。

 タージ基地のあるディストリクト‐Eを襲ってきたのは、ヴォルガの駆るヴォルグラス。戦術特務二将であるヴォルガは、当然ながら単騎での作戦を任された。背後に陸軍部隊は控えているが、無双である。

 民間の空港施設があるディストリクト‐Fを襲ってきたのは、セラフィアのプライムローズとピエタのヴエガⅡ。戦術特務三将であるセラフィアは、リュシアス直属の部下であるピエタと行動を共にする。


 イラク軍と統合軍にとっては、ジェマナイの陸軍が投入されていないことだけが救いだった。

 ジェマナイの陸軍は仮にも充実しているとは言えない。

 後方支援に徹しているのか、ビッグマンの後方10キロ圏内には近づいてこない。

 完全にビッグマンとスホーイによる市街地戦を画策しているようだった。


「よほどビッグマンに自信があるのか……」

 と、イラク陸軍の大佐であるシャダム・アルリクはつぶやいた。

 アルリクはエニグマムスタング2の部隊を率いながら、まっすぐに敵ビッグマンの目の前へと切り込んでいく。

 エニグマムスタング2に搭載されている120ミリ砲が、ビッグマンに向けて火を噴いた。


 一方で、高層ビル固定型・多点誘導対装甲ミサイル「アル=ナスル」が、ビッグマンに向けて砲弾を撃ち込んでいる。

 ジェマナイ陸軍が前に出てきていない分、ビッグマンは大きな的だ。

 イラク軍とて、指をくわえて戦況を見つめているわけではない。

 上空では、イラク軍と統合軍のイングレス部隊が、ジェマナイのスホーイと交戦していた。


 アル=ナスル網は、今のところ大きな成果を引き出しているように見える。

 敵ビッグマンは進んでは退く──を繰り返していた。

 とくに弱い膝関節や腰部などにミサイルを撃ち込まれれば、ビッグマンとて行動不能に陥ってしまう。

 それぞれのパイロットは、時折量子かく乱フィールドなどを展開しながら、攻めては引く、という攻撃をしてくる。

 また、ミナレットに配置された対ビッグマン複合砲も、地味だが有効な武器だ。

 バグダッドは、ジェマナイとの戦争にあたって、すでに要塞都市と化していたのである。


 ──


 そのころ、タージ基地に攻勢をかけていたヴォルガは、ヴォルグラスのコックピット内でつぶやいていた。

「ちっ、敵さんの防御が案外固いねえ。これでは、2日以内に落とすことは難しいか?」

 指を唇にあてて、「しーっ」という表情を作った。

 弱気は禁物。戦いではなによりもこれが肝要である。

 コンソールで戦況を見つめながら、

「陸軍をもっと前に出そうかな? 陸軍ちゃん、前に出てくれるかな?」

 ふふふ、と不敵に微笑んだ。


 イラク陸軍施設に襲撃をかけていた、アーシャ・ロウラン、コバルトレオ、ニクス=EAの3人は、それぞれ乗機の特性もあって、高い戦果を挙げていた。

 まず、ノルニールが先制攻撃をしかける。リントヴルムはそれを支援する。サロメは遠距離から地対地ミサイルを撃ち込む。

 そうして、陸軍施設の高射砲などを撃破していった。

 彼女たちはのちに、「無敗の英雄」と呼ばれることになる。

 いずれにしても、それは戦後のことだ。

 今は、目の前の戦況に自分たちの命がかかっていた。


 アマレス以下アジンバル公国のお子様部隊は、相変わらずの遊び半分だった。

 市街地で逃げ惑う住民らを見下ろしながら、「はっはっは、スモールマンめえ!」などと叫んでいる。

 彼らは施設や住宅を破壊するよりは、人間たちを踏み潰すことに快楽を感じていた。

 だから……戦力に比して戦果は上がっていなかったと言っていい。

 こうした暴挙は、後々アジンバル公国宰相のドニエスタル侯爵や、リュシアスを悩ませることになった。

 しかし、今はジェマナイの全軍が、軍への攻撃と民間への攻撃を区別していなかったのである。

 彼らだけが責められるいわれは、もしかしたらないのかもしれなかった。


 ヴェガⅡを駆るカクタステーマの部隊は、順調に戦果を挙げていた。

 ヴァレリテ、カリュクス、オルガの3人は、ジェマナイの日本制圧にも貢献した、生粋の武人である。

 最年長のヴァレリテは24歳。最古参の子ルーチンだった。

 彼は……ジェマナイ本部へやってきた日のことをよく覚えている。

 そこにはまだリュシアスはおらず、すべては希望に満ちているように思えた。

 このバグダッド攻防戦のなかでも、もっとも武人としての威厳を保ったのが彼らである。


 ──


 ……いずれにしても、イラク軍と統合軍はジェマナイ相手に果敢に戦っていたと言って良いだろう。

 敵ビッグマンは、市街地の奥深くまで踏み込んでくることはなかったし、防空設備も健在だった。

 ポーランドからの援軍が来るまでに4時間。

 アルスレーテからの航空部隊が来るまでに半日。

 味方のロボであるライジングアースが来るまでに1日半である。

 最低3日を持ちこたえれば、バグダッドは救われると見えた。

次章以降、イラク陸軍が活躍します。お楽しみに。

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