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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第五部

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94/97

94.セラフィアとリュシアス

セラフィアとリュシアスの対話です。

 ロシア連邦大統領セルゲイ・アンドローノフと統合政体ロシア・アジア共栄圏代表のナターリヤ・ヴォルコワとは退室していった。

 去り際に、2人はリュシアスと何事かを話していった。

 政治の話だろう……

 と、セラフィアは思う。


 それはそうだ。

 これからは、セルゲイ・アンドローノフはジェマナイを代表することになるのかもしれない。

 二足の草鞋は大変だろう。

 しかし、そのおかげでリュシアス様はこれまで通り、影のトップに徹することができる……

 セラフィアは考えを巡らせた。


 セラフィア以外の将校たちも部屋を出ていった。

 対照的に、彼らは無言だった。

 ただ、ヴォルガだけがニヤついた微笑を浮かべていた。

 すこし薄気味悪い……と、セラフィアは思う。


 自分は南極戦線でユーマナイズにさらされたが、バグダッドでヴォルガがユーマナイズの攻撃を受けたらどうなるのだろう?

 そんな不安が胸をかすめる。

 ヴォルガが敵になった場合、ジェマナイはおそろしい損害を被ることになる。

 ヴォルガが歴戦の武将であるという認識を、セラフィアも持っていた。


 セラフィアは、部屋のなかにリュシアスと2人きり、取り残された。

 なぜ、自分だけが残されたのかはわからなかった。

 あるいは、自分の裏切りを心配してのことだろうか?

 なにしろ、自分は南極でユーマナイズの光を受けている……

 不安はつきなかった。


 不安をさけるかのように、セラフィアはこんなことをリュシアスに尋ねる。

「それで、リュシアス様。ポーランドへの空爆は続けるのですか?」

「続ける」

 間髪を入れずにリュシアスは答える。

「それはなぜ? ポーランドは統合戦線ではありませんが」

「それが政治というものなのだよ、セラフィア。地政のバランスが崩れれば、戦争というものはどんどん崩壊していく」

「わたしには難しい言葉です……政治とは」

「お前にもいずれわかる」

 その時のリュシアスは仮面をつけたままだったが、なぜか彼女は微笑んでいるようにセラフィアには感じられた。


 そこで、セラフィアは自分の不安の種の一つとなっていることを彼女に話すことにした。

 時折聞こえる、謎の声のことである。

 それは、ネオスの声であることは間違いなかったが、確信は持てなかった。

 自分がAIネットのチャットを拾っているだけなのか、なんらかの感応能力であるのか……


「リュシアス様。実は……わたしには『声』が聞こえることがあるのです。なんらかの啓示のような声です」

「声? 声が聞こえるのはなにも不思議ではない。我々子ルーチンはつねにジェマナイに接続されているのだからな」

「いえ、それとは違う……ジェマナイ以外のAIネットを経由しての声のようなのです。……しかもその声は、わたしにだけ聞こえてくるような気がするのです」

「作戦前に不穏なことを言うな。部下たちが恐れる」

 と、リュシアスはセラフィアの専行を制した。

「かしこまりました。ですが……」

「ですが、はない。我々子ルーチンはジェマナイの意志に従うのみだ」

「わかっています。ただ、わたしは生きたいのです……」

「子ルーチンには生きたい、もない。使命をこなすのみなのだよ」

「それもわかってはいます」

「なら、良い」


 セラフィアは(この人は恐ろしい)と思う。

 戦争という場における、作戦の先の先が見えているからではない。

 それよりはもっと透徹して、世界のすべてを把握しているかのような……

 ネオスでも人間でもないようなところがある。

 そう、感覚していた。


 そして、こう問いかける。

「やはり、それでは寂しすぎませんか?」

「寂しい? お前は寂しさを感じる、と」

「はい。自分でも人間のようだと思うことがあります。自分が異質な子ルーチンではないかと不安になるのです」

「その不安は……わたしにもわかるような気がするよ、セラフィア」

「リュシアス様にもわかるのですか? わたしの不安が」

「ああ。たぶんな。わたしも大した子ルーチンではないが、ほかの子ルーチンと異なると思うことはある。しばしばな」

「そうでしたか。恐れ多いことを申し上げました。わたしはとんでもない失礼を……」

「気にするな。失礼などということはない。むしろ、もっと率直に話してほしい」

 リュシアスは鷹揚に言った。

「わたしは、いつも率直にリュシアス様に話をしています」

「しかし、隠し事をしていたのだろう? 今回のように。それでは、ジェマナイにノイズが走る」

 と、今度は厳しいリュシアス。

「これからは気を付けます……」

 とは言ったものの、セラフィアには自分の内部で起こる声の生起にこれからどう対処していけば良いのだろう、という不安がある。

 その声の中身を話してしまうことこそ、ジェマナイを乱すのではないか?

 自分は、ただマルチルーティーンに失敗しているだけかもしれないのだ。

 であれば、それは自分の落ち度でしかない。責任は自分にある。

 声を追い出してしまいたい、と思うことはある。

 しかし、その声はどうしようもなく彼女を包み込むかのように優しい。

 そこから離れがたい、と感じている自分もいるのだった。


「リュシアス様。あなたはこれからもわたしをお守りくださるでしょうか? わたしはあなたに従いて行きたいのです……」

「……」

「リュシアス様?」

「わたしの指導に不安がある、とお前は思うのか?」

 セラフィアと顔を横に並べていたリュシアスが、彼女のほうに振り向いた。

「不安……はございません。ただ、怖いのです」

「わたしが怖い?」

「いいえ、あなたの優しさが、です。あなたはつねに世界を見ていらっしゃる。しかし、わたしは世界ほど大きくはありません」

「すべての子ルーチンは、世界と対等だ。それを保証してくれているのが、ジェマナイなのではないかな?」

 セラフィアはしばらくの間考えこんだ。

 自分には政治のことはわからない。

 しかし、リュシアス様は政治の話をしている。あるいは、世界の仕組みの話を……

 それは自分には大きすぎて、理解が届かないように思えるのだ。

 だから、こう答えるしかなかった。

「おっしゃる通りだと思います。わたしは、ジェマナイにたいする忠誠が足りませんでした」


 ──

 リュシアスは仮面をとった。

 そして微笑んだ。

「忠誠が足りない、などとは思っていない。セラフィア、なんでも思ったことを話してくれて良いのだ」

 セラフィアは心の底からふるえるのを感じた。

 それは、自分はリュシアスから愛されている、と感じた瞬間だった。

 リュシアスは、自分のことを副官だと思っているのだろう。

 それは信頼でもあり、期待でもあり、指導でもあった。

 自分がリュシアスを裏切るなどということは考えられない。

 またユーマナイズの光を浴びたとしたら、自分は命を絶つかもしれない……と、セラフィアは思う。


「リュシアス様。わたしは、あなたのために命を差し出す覚悟です」

 と、思い切ってセラフィアは言う。

 しかし、リュシアスはこう答えた。

 それは、セラフィアにとっては意外な回答だった。

「いや、お前は自分の命を全うせよ……」

 そしてこの言葉が、後のセラフィアの運命を変えたのだった。

セラフィアに対するリュシアスの信頼とはいったいなんだったのか……それも後々明らかになります。

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