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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第一部

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9/96

9.不穏な午前

多少コミカルな章です。

 ムルマンスク港に建造されたドーム・シェルターは、異様な姿をしていた。

 半径600メートルはあるだろう。だから、その高さはゆうに450メートルを超えるはずだった。


 なんのためにそんなものが建設されたのか……それは、今の斎賀には分かっていた。

 しかし、その目的を知らないものであれば、あっけにとられて、その白色の天井を見上げたことだろう。


 サテライト群の回復とともに、斎賀はそこへの侵入ルートをいくつか画策していた。

 ドームのまわりには、今は3体のビッグマンが配置されていた。

 たぶん、ジェマナイの戦術特務基地の一つ、エカテリンブルグから配備されたものだろう。

 1体はアコーディオ。しかし、そのほか2つの機体は斎賀の知らないものだった。

 ヴォルグラスはいない。


(あの敵はいない……)と思って、斎賀はなぜかほっとした。


 それがいったいどんな心理によるものだったか、斎賀には不確かだった。

 一度交戦した敵であれば素性が知れている、と思うのか、イングレスに撃退された敵であれば、たいしたことはないと思うのか……

 しかし、そこにシエスタはいなかった。


 あの「ボウレイメガミ」……斎賀は腕時計を見ながら、うなった。

 あのパイロットがいてくれたら。

 自然と、そんなことを祈っていた。

(無事だといいが……)

 しかし、味方の心配をしている余裕はないようだった。


 ムルマンスクが静かすぎる。

 これは、明らかに敵の作戦だった。


 ムルマンスクには、ラーゲリが隣接している。

 斎賀たちの目的がそちらだと、敵が誤認していてくれれば良いのだが……

 しかし、それはどうやら望み薄のようだった。


「サイガ……」

 ミューナイトが向こうから歩いてきた。

「なんだ、どこへ行っていた?」

 斎賀は、邪険に問う。


「あなたが眠っているあいだに、シェルター・ドームの周りを歩いてみた」

「なんだって? あそこへ行ったのか、お前?!」

「大丈夫。光学迷彩は機能していた。それに、わたしの体温は抑えてあるから、大気の温度と変わらない」

「なるほど……それで、日の出からこっち、姿が見えなかったのか」

「そう。シェルター・ドームにはいくつかの侵入ルートがある」

「それはありがたい情報だね」

 と、斎賀はなぜだかおざなりな答え方をする。腹に一物ある、といった具合である。


「予定の行動はヒトフタマルマルからだぞ?」

 斎賀がふたたび釘を刺す。

「わかっている。ちょうど正午からね?」

「言い直すな。正午と言えば、ジェマナイと言えども休憩中だ……」

「交代で監視体制のなかにあるんじゃない?」

「それでも、昼食をとるやつはいるだろう。確率的に計算して、人の少ない時間を選んだ」

「単なる勘じゃないの?」

 そう言うミューナイトに、斎賀はむすっとして答えた。

「ああ、そうだよ。悩んでいても仕方がないからな」


 斎賀は、背嚢のなかからコンパクト・タイプのジャミング・システムを取り出す。

 これは、人物の位置特定を阻害するタイプのジャマーではなく、電子武器に特化してジャミングを行う装置だ。

 そのスイッチをあちこち推してから、斎賀は乱暴に背嚢のなかに戻す。

「役には立つまい……しかし、万が一ということもある」

「サイガは、いろいろなものをもっているんだな。光学迷彩を使えばいいんじゃないのか?」

「光学迷彩は使えるかどうか分からない。それに……」

「何か迷っているのか?」

 斎賀は答えたくないような表情をした。

「もしかして、わたしたちがおとりだと?」

「その可能性がある。俺は、お前にすら作戦の詳細を話していなかった」

「わたしたちは、かませ犬になるということかしら?」

「そうだよ。その可能性のほうが高い」

 斎賀は苦々しく言い放った。事実、斎賀はその確率は50パーセントだと思っていた。


「さて。下山するぞ? お前が眠っている間に、俺も良いルートを見つけてきた」

「サイガ……、わたしが眠っていたのを、知っていたの?」

「ああ。俺も特殊工作技師だ。潜入任務くらいなれている」

「あなたはやっぱり、ただものじゃない。わたしが眠っていたのは、2時間だった……」

 ミューナイトが、驚いたとも、あきれたとも分からないような口調で、斎賀に言った。

「無駄口はなしだ!」


 ──


「良いルートって、これ!?」

 ミューナイトは叫んだ。

 2人は今、スクーターにまたがっている。

 そう。斎賀が見つけてきたのは、良いルートではなく、良いオートバイだった。

 それを、斎賀はとある民家の裏庭からかっさらってきたのである。

 光学迷彩は完全に切ってある。

 灯台下暗しというやつだ。

 むしろ、無人のオートバイが走っていたら、誰が見てもおかしい。

 要は、敵の裏をかけばいい。

 ジェマナイの側では、斎賀たち2人は徒歩だと踏んでいる。

 つまり、スクーターで全速力で基地につっこむほうが、ばれにくいのである。


 一つのマンホールのうえで、斎賀はスクーターを急停車させた。

 その荷台には、「昼食配達専門ニシン亭」と、ロシア語で書かれている。

 ばかばかしいことに、こんなやり方が見事にはまった。

 斎賀とミューナイトは、ちょうど見張り兵の少ないところに身を寄せる。

「サイガ、無茶だ。あなたはバカなのか?」

「はっ! それはジェマナイも同じだろう? 未来の銀河帝国じゃないんだぜ? ムルマンスクの人口は今10万人もいない。それは調査済みだ……」

「それ以上の子ルーチンがいるかもしれないじゃないか!?」

「ジェマナイの子ルーチンの数は1万3千人。この2日で瞬間移動してこれるとでも?」

 斎賀は、おどけたように言い放った。予想通り、ミューナイトがあきれる。

 この基地が僻地の基地だということを、斎賀は計算に入れている。

 そして、警戒が強化されたとしてもたかが知れている、ということを熟知している。

 この潜入作戦は、ジェマナイにとっても予想外のものだったに違いないのである。

「さあ、このなかへ入れ」


 どうやら、その先のルートも斎賀は把握しているようだった。

 いや、正確には手元の端末に描かれている基地の見取り図と照合して、「これならたしかだ」と確認したのだろう。

 ミューナイトは、斎賀の大胆ではありつつ、やはりおおざっぱ、というやり方にすこし慣れてきていた。

斎賀はたぶん有能です。

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