88.ユーランディアの戦い
久しぶりに出てきました、ネオスのユーランディアです。
ユーランディアは、統合戦線に亡命してきて以来、軟禁状態を強いられていた。
ユーランディアとは、乗機QR‐Xとともに、オーストラリア共和国から亡命してきたネオスの兵士である。
亡命について不可解な弁解をし、統合戦線の尋問官であるンジャロ・ケレメから疑いの目を向けられていた。
その亡命から2か月ほどになるが……
ユーランディアに許されていたのは……
テレビを見ること。
聖書とトルストイを読むこと。
それ以外は、外界と接触することも、ホテルの自室から外出することも一切許可されていなかった。
彼は時々、ホテルの窓に額を寄せた。
外には自由があった。
だが、それはユーランディアが欲している自由ではなかった。
彼が求めているのは、「どこにも属さない」という自由ではない。
「誰かと同じ場所に立つ」という自由だった。
そのために、ユーランディアはミューナイトというビッグマンのパイロットに思いを馳せる。
いや、ビッグマンではない。
この統合戦線では巨大ロボット兵器は「ロボ」と言われている。
そのことを、ユーランディアもオーストラリア共和国に属していた時代に知らされていた。
しかし……その微妙な修正は、所属というものだったのだろうか? それとも生存というものだったのだろうか?
「コスメス」と呼ばれ、蔑まれる、オーストラリア共和国時代のネオスの扱いに、彼は耐えられなかった。
耐えられなかったことはたしかだ。
しかし、統合戦線への亡命はそれが理由ではない。
そこには「憧憬」のようなものがあった。
ビッグマンに乗って戦う一人の少女。ネオス。
その存在へのあこがれが、彼を突き動かしていたのかもしれない。
そして、そうした彼の深層へ、あの日のQR‐Xは浸透してきた。
『ジェマナイを倒せ、それがお前の使命だ……』と。
その言葉は呪いのようでもあった。
実際には言葉ではない。思念だ。
しかし、ユーランディアはその思念をしっかりと受け取った。
それは、ネオスの脳で言えば1000次元にも上る情報ベクトルの総体だった。
いかにしてジェマナイを滅ぼすか。
いかにして人類とネオスを救うか。
それを、その「図像」はユーランディアに提示してきた。
(それを……ありのままに自分は受け取ってしまったのだ……)
と、ユーランディアは頭を抱えた。
ホテルの自室のなかには、彼を見守っている誰もいなかった。
その「一人である」ということが、彼の自尊心を刺激する。
(自分は、今こんな場所にこうしているネオスではない!!!)
──
今、よりも少しさかのぼり……
ホテルへの拘留から3日後、統合戦線の尋問官ンジャロ・ケレメから、何度目かの呼び出しがあった。
「統合戦線はジェマナイとの最終的な戦争に突入する……」
ンジャロ・ケレメは言った。
「もう一度あなたに尋ねます。あなたはジェマナイからの密命を受けて、この統合戦線にやって来たのではないのですか?」
「違う! わたしはスパイじゃない!」
ユーランディアのうつろな声が、尋問室にこだまする。
しかし、それは甲斐のないことだった。
「統合戦線の空軍では、あなたのQR‐Xを戦線に投入せよ、という声もある。ロボの補佐が可能だからだ、と。だが、わたしは信じません」
それは、無情な声だった。
そしてユーランディアは、またあのパイロットのことを思った。
ネット・ニュースで一度だけ見かけた顔。
ミューナイトという少女だ。
少女。と言ってしまって良いのかどうかはわからなかった。
ミューナイトはユーランディアよりも年上だ。
しかし、その外見はネオスにしては若すぎた。
15歳のネオス? とても信じられなかった。
その映像を見たとき、ユーランディアは一つの雷に打たれたのだ。
「自分はこの少女を救わなくてはならない」と。
それから、亡命までの間はわずかの期間だった。
ユーランディアは日に増して憂鬱になり、オーストラリア空軍の同僚たちからもいぶかられた。
「何か、病気ではないのか?」と、同僚たちは尋ねた。
ネオスの同僚もいれば、人間の同僚もいた。
しかし、ユーランディアは決まって同じことを返した「この2、3日、腹痛が続いているんですよ」と。
同僚たちは笑っていった。
「あんまり、カロリーの高いものばかり食べすぎるな!」
「便秘なら、センノシドを飲むのが良いぞ?!」
どれもみな、余計な心配の言葉ばかりだった。
ユーランディアの憂鬱は増していった。
──
「あなたに尋ねます。あなたはジェマナイのスパイなのでは?」
と、繰り返してンジャロ・ケレメ。
そのブラウンの瞳を、憎しみに満ちた目でユーランディアは見つめ返した。
そのことで、状況がどう好転するとも思えない。
しかし、この時の憎しみをぶつける相手は、ンジャロ・ケレメその人しかいなかった。
(自分は無力なのだ)と、ユーランディアは思い知らされる。
そこに、亡命を決意したときの高揚感はみじんもなかった。
尋問の対象は、彼が惹かれていると口にしたミューナイトや、斎賀にも及んだ。
補佐官に連れられて尋問室を出ると……そこへ、例の少女、ミューナイトが通りかかった。
ユーランディアは、再び雷に打たれたように、はっきりと瞳を見開く。
そこには、彼と同じ赤い目をしたネオスの少女が映っていた。
彼は叫ぶ。
「ミューナイト! わたしはあなたを助けに来た! あなたは勇敢で、でも弱くて、でも強くて、でも戦っている!」
それを横目に見ながら、無情にもミューナイトは通りすぎた。
尋問官からは、彼とは口をきくなと釘を刺されていたからだった。
彼女にとっては、コスメスと呼ばれているオーストラリアのネオスたちは未知の存在でもあった。
そう。ミューナイトは同じネオスに対しては警戒心が強いのである。
最後に、ミューナイトは彼のことを見ないまま尋問室へと入っていった。
──
そして今……
(統合戦線はジェマナイとの最終戦争に突入してしまった)
と、ユーランディアは思う。
この戦いは、どちらかが屈服するまで終わらないだろう。
1年続くのか、2年続くのか、半年で終わるのか……
ジェマナイがもしも仮に、粒子気化爆弾を本当に使うとしたら?
その対象はどこになるだろうか?
アルスレーテに?
ここにたどり着く前に、ミサイルや爆撃機を打ち落としてしまうことは可能だ。
とくに、自分の乗機であるQR‐Xであれば高度なクラッキングもできる。
自分であれば……ミューナイトとアルスレーテを救うことができる。
うつろな窓の外を見ながら、ユーランディアはそんなことを考えるのだった。
理知に満ちた赤い瞳が、あやしく光る。
(自分は決して、誰にも操られはしない。自分を貫くのだ……)
と、ユーランディアはまた決意した。
彼も今後メインキャラの一人になります。




