表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第五部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/97

87.アジンバルの動向

リュシアスとドニエスタル侯爵が対話します。

 リュシアスはふたたびカトマンズの空港へとやってきた。

 そのまま、ハヌマン・ドーカへと向かう。

 冬の空には雪が吹雪いていた。

 その気候も懐かしい……と、リュシアスは思う。


 今回は、ジェマナイの意向を伝えるために、リュシアスはアジンバル公国へと来ていた。

 しかし、それを直に伝えるつもりはない。

 リュシアスには、ジェマナイに対する愛もあったが、祖国であるアジンバル公国に対する愛もある。

 そして……

 いや、そのことはリュシアス自身の心にも秘されていた。


 リュシアスを迎えたドニエスタル侯爵は仏頂面だった。

(何が気に入らないのだろう……)と、リュシアスは思う。

 しかし、あえて侯爵に問うことはしなかった。


 ただ、簡潔に、「ジェマナイの意向をお伝えします。クリスマスまでにバグダッドを落としてほしい、とのことです、つまり、アジンバル公国からの出征を……」と、切り出す。

「うむ? 我々だけでか?」

「当然、ジェマナイからの戦力も参加します」

「ああ、だがパイロットがいない……」

 ドニエスタル侯爵は静かにつぶやく。

「ロシア・アジア共栄圏からネオスを出向させましょうか?」

「うむ、そうだな。それが良い。しかし、クリスマスまでとは急だな……」

 それは、いたって健全な判断だった。

 ジェマナイはAI政体だから、決定は即座に末端まで伝わる。

 しかし、アジンバル公国は公王制の国家だった。

 シンガ・パハド公王の裁可までには、どうしても時間がかかる。

 後々の政治のことを思って、ドニエスタル侯爵は悩んだ。

「人間にとっては、今もクリスマスが特別な日です。クリスマスをまたぐと厄介です」

「冬の間の戦闘は陸軍にとってもつらい、ということなのだろう? ジェマナイは、空軍とビッグマンだけを頼りにしているようだが?」

 と、ドニエスタル侯爵。

「そうでもありません。しかし……ジェマナイから3人のネオスを出向させましょう。ネオスであれば、1週間で訓練を完遂できますし、わたしもその調整は可能です」

「相変わらず有能なのだな……お前がいなくなってからのアジンバルは寂しい」

「侯爵のご好意については、今でも感謝しているつもりです」

 リュシアスは、深く頭を下げた。


「ところで……例のビッグマン。ライジングアースについてはどうなのだ?」

 ドニエスタル侯爵は逆に問い返した。

「はい。ジェマナイによっても予測不能の結果が出ている、というのが現状です」

「それは危険だな。例のユーマナイズによって、我らが人命が棄損されることを、わたしは望まない」

「それについてですが……ユーマナイズについては、ある種の量子干渉派による洗脳兵器だという分析を、ブラックスワーンダーがしています。セラフィア三将という兵士が、当該兵器の分析をしました」

「ブラックスワーンダー、お前の機体だな。あの機体の開発には、アジンバルの科学者も参加している」

 ドニエスタル侯爵は、うなりながら言った。

 ──

 現在、アジンバル公国ではビッグマンの独自開発を目指している。

 研究者たちは、そのためにジェマナイへと出向しているのだ。

 しかし、その機関エネルギーであるカーネル(カー・ニューマン・ブラックホール)の解析が追いついていない。

 ジェマナイは、一部分の設計図を秘匿していたし、それをハッキングすることを許してはいない。

 アジンバル公国はアジンバル公国で、自らの野望を持っているのである。

 その中枢に、ドニエスタル侯爵はいた。


 ドニエスタル侯爵は聞いた。

「その……出向するネオスのパイロットの名前を教えてもらえるか? 今の側近に記録させておく。なにしろ政治は厄介だからな……書類作業が大変なのだ。すこしでも、それを前倒ししておきたい」

「はい。アマレス、シズマ=ローク、マーシャ・ツヴァルの3名です。アマレスとシズマ=ロークはアンドロイド、マーシャ・ツヴァルはガイノイドとなります」

「名前を聞けば性別は分かる。しかし、性別は問題ではない。問題となるのは、その性能だ」

「性能……と、おっしゃいましたか?」

「不快だったか。わたしは、お前を人間だと思ってはいない。ネオスだ。今では、子ルーチンというのがその名前だったな?」

「その通りです。ジェマナイは、つねにネオスとリンクしています」

「それが……危険だとわたしは思うのだ。次世代のネオスによる国家を作るためには、ジェマナイの制約を離れなければいけない。それが真に自由な知性と国家の誕生だ」

「わたしのように、ですか?」

「……そうだ」

 ドニエスタル侯爵はどこまで見抜いているのだろう、とリュシアスは思った。

 リュシアスがジェマナイへ赴きたい、と言ったときにも侯爵は許可をしてくれた。

 その決断に迷いはなかった。

 侯爵は、ネオスによるネオスのための国家建設、ということを思っているのだ。

 そのためには人類が滅びても良い、とさえ思っていただろう。

 しかし、この場での侯爵は純粋に国のためを思う愛国者のように見える。

 転向したのだろうか──と、リュシアスは思った。

 しかし、それはありえない。

 ドニエスタル侯爵の心の底に潜むものについて、リュシアスは今でもつかめないでいた。

 ネオスででっても解析不能な何かが、侯爵の精神の規定には存在しているのである。

 だからこそ、リュシアスは今でもドニエスタル侯爵を頼るのだったし、アジンバルを有用なものだと判断できるのである。

 この戦争を、ジェマナイの勝ちに導くためには、アジンバルと侯爵の協力が不可欠だった。

 それは、単に政治的にそうだからではない。情動的にも、その方向性は正しいのだった。


「それより、リュシアス……」

 と、侯爵は疲れたように言った。

「たまには観光でもしないか? ヒマラヤは美しい……それくらいの有余はとれるのだろう?」

「それは、あなたの側近として、ですか?」

 リュシアスは尋ねた。

「そうだ」


 ──


 リュシアスがカトマンズ空港に降り立ってから、22時間が経っていた。

 その間、リュシアスは侯爵との会談を終えると、ヒマラヤに向けて旅立った。

 雪を抱いた山並みが遠くに見えるにつれて、リュシアスは「故郷へ帰ってきたのだ」と思った。

 しかし、その間に侯爵と交わされた会話は、優雅な旅とはまったく異なるものだった。

 ……

 まず、侯爵は自分のネオス観についてリュシアスに語った。

 ネオスは新世代の礎でなければならない、というのだ。

 そして、リュシアスをジェマナイの申し子ではない、と言った。

 リュシアスは自分たちが生み、自分が育て、そして大人になったのだ……と。

 リュシアスの年齢は20歳である。

 人間の子供であれば、まだまだ親のすねをかじっている年齢だった。

 しかし……と、侯爵は考える。

 自分は、心の底ではネオスを恐れているのではないか、と……。

 リュシアスへの愛は、親の愛ではない。しかし、恋人への愛でもない。

 なにかとてつもなく曖昧で、茫漠とした形をとっている愛なのだった。


 そして、侯爵は来るべき戦争についてリュシアスの助言を求めた。

 親が子に頭を下げたのである。

 侯爵は純然たる政治家だった。

 しかし、リュシアスは軍人でもあった。

 その能力の優秀さを思うと、侯爵も末恐ろしいと思うことがある。

 リュシアスをジェマナイにあずけた後も、その思いは変わっていない……

 そして、リュシアスは今侯爵のもとへと帰ってきた。彼を頼って。

 そのことに対して、なんらかのけじめをつけなければいけないのだと、侯爵は考えたのである。

 そして。リュシアスを一人の成人として扱った。ネオスに対しては遅すぎる……


「リュシアスよ、お前はまたジェマナイへと旅立つのだな?」

 と、侯爵は言うのだった。

「いいえ、違いますよ? ドニエスタル様。わたしは、ロシアへと帰るのです……」

「いや、違う。お前は旅立つのだ。そのことを、しっかりと胸に止めておけ」

「わかりました、侯爵」

 リュシアスはまた深く頭を下げた。

 そして、侯爵と別れるとすぐに、銀白の仮面を顔につけた。

彼女たちの関係は何か特別なもののようですが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ