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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第五部

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86/96

86.アマドゥ・カセムとオリヴィア博士

陽キャラの二人が対談します。

 空軍内でもあまり知られていることではなかったが、任官中のオリヴィア・トゥレアールは、(当時の)空軍長官であったアマドゥ・カセムと親しかった。

 彼とは、ダルエスサラーム大学生命工学部での同期だったのである。

 卒業のとき、軍に入ると真っ先に言った彼に対して、彼女は反対した。

 しかし、民間の研究所勤務を経て、彼女もまた同じ道に入った。

 世界はAIを必要としていたし、AIを恐れてもいた。

 そのAIを「人が恐れない」という道を、オリヴィア・トゥレアールは探していたのである。

 そのためには、AIが最先端の技術である軍に入るのが手っ取り早かった。

 軍とは、つねに人間の最先端の科学を取り扱う場所なのである。

 彼女は、そこで心行くまでAI研究をしたかった……


「あのころは若かったわ」

 と、オリヴィア・トゥレアールは言った。

 その対面で、今では統合軍長官となったアマドゥ・カセムはあいかわらず煙草をくゆらせていた。

 軍の執務室は禁煙である。

 だからこそ、あえてスモーキング・ルームに彼女を招いた。

 オリヴィアと話すには、腹を割って話さなければいけないと、彼も覚悟していたからである。

 それだけに、この対話はとてもフォーマルなものとは見えなかった。

 その実、この対話はフォーマルなものだったのである。

 統合戦線のこれからの戦略も左右されるはずだった。


 観葉植物が煙草の煙にも耐えて、毅然と立っていた。

 その葉を、アマドゥ・カセムはそっと撫でる……

「オリヴィア。今度のことで、何かわかったことはあるか?」

 不敵な問いだった。

 オリヴィアはいらだつ。だが、それを露わにしても仕方がない。

「何って? 何のことよ? ライジングアースのこと? ジェマナイのこと?」

「両方だ」

「ふっ……。ジェマナイ研究の第一人者はあなただったはずでしょう? それが今回はどうしたこと?」

「自信がないのさ……」

「統合軍長官ともなった男が言うこととはね?」

 吐き捨てるように、オリヴィアが言った。

「そうさな。……まずは、ユーマナイズの本質について説明してほしい」

 アマドゥ・カセムは、オリヴィアの不機嫌も黙殺するかのように、端的に問いを放った。

 その事務的な口調は心地よい。

 オリヴィアは、内心でやれやれと思う──彼には負けるよ。

「わかっていることを、説明しろと言うの?」

「そうだ」

「専門的な話になるわよ」

「かまわない。わたしもAI研究室出身だ」

「なら話すわ……ユーマナイズというのは、やはり洗脳兵器ね。ライジングアースの胸部ユニットから放出される音と光が、対象となる広範囲の量子場に変化をもたらす。そこで、人間とネオスの脳機能にクラッキングをするの。そこで……なんだろう? 『人間とは何か?』という問いをつきつけるのよ、対象にたいして。それで人間はほっとするし、ネオスは混乱する。この機構は機械のAIにも作用するわ。例えば、ビッグマンのAIは行動停止に陥る……」

「それは、強力な武装だな?」

 アマドゥ・カセムが言う。

「ただし、倫理的な問題があるわ」

「その通りだ。この兵装は、粒子帰化爆弾の非人道性にもつながる、危険な武器だ」

「だから?」

 オリヴィアは、アマドゥ・カセムの問いの本質をついて尋ねた。彼が困るだろうことは予測しながら……


 だが、アマドゥは困らなかった。

「それを制御する機構を作ってほしい」

「味方の損害をなくすために?」

「そうだ」

 アマドゥ・カセムの答えははっきりとしていた。

 彼には、統合戦線アフリカ機構の6.5億の人口を救う義務があるのである。

 それがいくら戦略的な言葉だったとしても、戦術的な言葉だったとしても、非難されるいわれはないだろう。

 しかし、オリヴィアは怒った。

「あなたはパイロットのことを考えないの?」

 オリヴィアは、斎賀とミューナイトとの関係性を想起していた。

「ミューナイトのことか?」

 一瞬、オリヴィアは言いよどむ。

「そうよ」

「あれは、君が最初に興味をもったネオスだった。それまでは、君も無関心だったのじゃないかね? 君は人工知能の研究者とは言え、ネオスを愛していたわけじゃなかった。違うかね?」

 アマドゥ・カセムが突きつけるように言った。

「わたしはネオスを愛していたわ! それはあなたの誤解よ!」

 オリヴィアは激高する。

「すまない」

 アマドゥは素直に謝った。

 それで、議論は路頭に迷わずに済んだ。

 オリヴィアも剣を収めたのだ。


「だが我々は……」

 と、アマドゥは続ける。

「バグダッドにいる900万の人間を救わなければいけない。君も知っているだろう? 次のジェマナイの標的はバグダッドだ」

「ええ、それは伝え聞いている。それで、わたしをこれからも空軍のアドバイザーにするつもりなの?」

「そのつもりだ。君には、すぐにでも軍に復帰してほしいのだが……」

「わたしがNOを言うことは分かっているでしょう?」

「ああ」

 とは、アマドゥ。

「でも、バグダッドを救う手立ては考えるわ。わたしにも良心はあるからね。でも、あなたはライジングアースについてどこまで知っているの?」

「空軍から報告が上がってきているかぎりにおいて、だ」

 すこし憔悴したような表情で、カセムが言う。

「それでは足りないわね……。今回、ライジングアースは『ユー・フォーチューン』という未知の武装を発動しそうになった。それはユーマナイズとは根本的に異なる武装のように思えるわ」

 と、オリヴィア博士。

「『ユー・フォーチューン』? ……聞いていない」

「でしょうね。実際に発動はしなかったのだから」

 と。オリヴィアは2、3分、間をおいてから言葉を続ける。

「ライジングアースは、どうやら自分の内部で武装を新たに作り出しているらしいの。ユーマナイズすら、ライジングアースが独自に作ったものかもしれないわ」

「それは、どういうことなんだ?」

「ライジングアースが、新たな生命だっていうこと。人間、ネオス、ライジングアース。いや、すべてのビッグマンがと言っても良いわ……」

「それは、問題だな。由々しき……そのことを、君はどこかに発表しているのか?」

「まだしていない。単なる仮説の段階なんだから。でも……ビッグマンが意志を持とうとしているなら?」

「わたしなら、全力でそれを阻止する」

「元のAI研究生とも思えない言葉ね」

「今は軍人だからな」

「実は……わたしもあなたの考えに賛成よ。ライジングアースを、わたしたちは『活用』すべきじゃない」

 オリヴィア・トゥレアールは予想外の賛意を示した。

 アマドゥは驚いているとも、いないとも言えなかった。

 だから、こう言う。

「野放しにすべきじゃない、という意味だな? つまり、それはミューナイトや斎賀をも監視下に置かなくてはいけない、ということでもある。君の直観が正しいなら、ライジングアースはミューナイトとの生命連鎖活動によって、その機能を開拓しているように思える……」

 アマドゥは、生命工学部時代の知識を思い出してでもいるように、尋ねる。

 それに対するオリヴィアの態度は、真摯だった。

「どうやら、あなたにも研究生としての感性が戻ってきたようね。その通りよ……」

「ならば、我々はライジングアースを純粋に『兵器』として扱えばよいのではないか?」

「あなたの勘は正しい。わたしの出した結論も同じよ。わたしたちは、ライジングアースを生命として扱うべきじゃない。もし、そうしたらライジングアースは完全にわたしたちのコントロールを外れる……」

「それは、ミューナイトもではないのか?」

「あるいは、おそらくすべてのネオスが……」

 オリヴィアは言葉を継いだ。しかし、その先が告げなかった。

 しばらくの間、沈黙が2人の間に訪れた。


 やがて、アマドゥ・カセムは言った、

「これは、スモーキング・ルームで話すような話題じゃなかったな……」

「ええ、その通りよ」

 オリヴィアの絶望が、そのときのアマドゥ・カセムには見えるようだった。

 話題は、ジェマナイのことに踏み込みさえしなかった。

 自分たちは、恐ろしい兵器を手にしてしまったのである。

 ……いずれにしても、この問題はあらためて執務室で話し合う必要があった。

「ユー・フォーチューン」という謎の武装も含めて、すべてを解明しなければならなかった。

ユーマナイズの秘密についても明らかになってきました。

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