83.整備班の面々
閑話休題の回です。
「この兵装の名前はですね~、スーパー・アンブレラです!」
びしっと言った。いきなり切り出した。
ライジングアース整備班メンバーのサモ・オクンジの言である。
斎賀はあっけにとられた。
次の瞬間、悄然とした。
そして、あきらめた。
もともとライジングアースに防御兵装を追加してほしい、ということはセヴァストポリへの出征前に要望していたのである。
斎賀とミューナイトとは、セヴァストポリの戦線から帰って、今ふたたび整備班の面々と対峙している。
「なんで、アンブレラなんだ?」
斎賀はつっこむ。
「えへん。これはですねえ、ライジングアースのロケットパンチ部分を高周波で振動させて、量子フィールドを作り出すというものなのです。まあ、エアリアル・ステップの腕版、ですか。これで敵のビームなどは高確率で防げます」
「だから、なんでアンブレラなんだよ?」
「敵のあらゆる攻撃を防げる、という意味です。そして、雨が降ってきたら、雨も防げる!」
「それには、ライジングアースの両腕を上げないといけないぞ? そんな間抜けな体勢をとらせるのか?」
「いやだなあ、雨を防ぐ必要はないじゃないですか。通常時には、前にむけて構えるんです」
「だから、それならアンブレラの意味ないって……」
斎賀は呆れて言った。
ミューナイトはくすくすと笑っている。
どうやら、斎賀よりもミューナイトのほうが整備班の面々との相性は良さそうだ。
「それに加えてな……」
と、ハルク・エンベルク大尉が割って入って説明をする。
「今回、ライジングアースには内部の挙動も改善する改修が入ることになっている。その一つが、フェーズ・ハーモナイザーだ。ミューナイト君の情動と機体の挙動をリンクさせて、機体反射効率を上げる。これには、ユーマナイズという兵装の分析が生かされている」
「そのユーマナイズなんですが、安全な兵器なんでしょうか? それに、今回のセヴァストポリ戦ではユー・フォーチューンという未知の武装が発動しかけた……」
「それは分からん」
と、自信に満ちてハルク・エンベルクが答える。
「わかったのは、パイロットとコパイロットとの関係性がライジングアースの挙動を決めている、ということだけだ。たぶんなんだが……ライジングアースは肢体制御サブルーチンになんらかのショートカットを加えることで、動作を加速させているらしいのだ。そして、それはユーマナイズという未知の武装にも反映されている。なんらかの量子回路がこれらの異なる挙動を統括しているらしいのだが……」
「よくわからないってことなんですね? ジェマナイの兵器だからなあ……」
「ジェマナイとは言っても、もともとは西側の兵器開発の技術がもたらされて開発が進んだものだ。我々の技術とそんなに大差はないんだよ」
「ですが、カーネルの機構はまだ解明されていません」
「そうだな。そこは、統合戦線の技術が劣ると素直に認めよう。我々がロボを開発できていない理由だ」
斎賀は、これら整備班の面々が優秀だ、ということについては納得している。
しかし、オタクである、という点については納得していない。
今回も、ライジングアースが空中分解するような機構が追加されないか、不安である。
「それと、君の要望の、ハッキング能力向上兵装な? あれも搭載する」
「それは、なんていう名前なんですか?」
「ライジングアース・アイフラッシュだ。ライジングアースの頭部カメラ部分に特殊な光線の射出装置を組み込む。そこから照射されたレーザーが敵の機体の電子回路に量子振動を起こして、クラッキング性能を上げる。君にとっては理想の武器になるな」
「それより名前が気に入りません……」
「気にするな若者」
ハルク・エンベルクが言った。
「気にするな、若者よ」
サモ・オクンジが繰り返した。
「それにねえ、今回はかなり強力な防御兵装を追加できるのよ?」
とは、ティア・ラモン少尉。
「それはどんな名前なんです?」
「アブソーバー・アトラス」
これは比較的無難な名前だ、と斎賀はほっとした。
兵装の実際の効果よりもそのネーミング・センスで気落ちさせられる、という気分は斎賀も初めてである。
しかし、整備班の面々が優秀であることは分かっている。
とくに、エアリアル・ステップは防御にも攻撃にも使えた。
その発動部位が足だ、という点が問題だったが、キックと同時に発動させれば絶大な効力を発揮する。
そういうことは、斎賀自身も納得している。
「これは、敵のエネルギー兵器の粒子を重力子に変えて、それを溜めたあとで一気に跳ね返すっていう、防御と攻撃をいっしょに兼ね備えている装備なの」
「それは、心強そうですね?」
「これの開発は、わたしが担当したわ。ライジングアースの前回の改修から、わたしたち徹夜続きだったのよ?」
そうは見えない。
3人ともすごく元気だ。
徹夜を続けた人間の健康状態には、とても見えない。
「これはね? ターンエー・ガンダムのiフィールドのアイディアを取り入れているの!」
「また、ガンダムですか!」
「そう。ガンダム万歳!」
ティア・ラモン女史が手をたたいではしゃいだ。
斎賀はげんなりした。
しかし、ミューナイトは感心している。
ネーミング・センスやその元ネタには、彼女は興味がないのだ。
「あと2つ、追加の兵装がある」
と、威厳に満ちた調子でハルク・エンベルクが話し始める。
その口調は厳粛だったが、その内容が問題である。
斎賀は恐れに満ちて聞き入ることにした。
「はい。どんな兵装でしょう?」
「まず1つは、ブラインド・センサー・ヴェール。これは特殊な量子状態にした光子を周囲に撒いて、敵のAIネットをかく乱する。サテライト群をクラックしなくても、敵AIの行動パターンを妨害できる。さらには、こちらのコックピット内の様子がハッキングされるのも防ぐことができる。地味に有用な兵装だろう?」
「地味に有用な兵装です」
斎賀はうなずくしかない。
「次に、エクスプレッサー・リンク。これはミューナイト君の感情出力値を、重点的にライジングアースの足に再配分するシステムだ。その結果、ライジングアースの走る速度がアップされる」
「それは、無駄な兵装のようにも思えますが……?」
「いや、そんなことはない。地上戦のとくに接近戦において、走るという挙動は戦況における重大な差異要素になりえる。こういう兵装を追加しておくに越したことはない」
「要するに、ライジングアースが早く走れるようになるっていうことなんですよね?」
「そうだ。しかし、ミューナイト君が感極まらないと、この効果は出ない」
「やっぱり無駄な兵装のようです……」
「今回の改修は、以上だ! 3日、と言いたいところだが、おおむね5日でこの改修は完了する」
ハルク・エンベルクは宣言した。
技術者としては、きわめて優秀である。
ジェマナイの反抗も、5日以前に行われることはないだろう。
斎賀は、とりあえずは整備班の面々の優秀さに賭けることにした。
繰り返しになるが、エアリアル・ステップは超強力な武装だった。
あれと同程度の兵装が追加されるのであれば、ライジングアースに命を預けるという気持ちも増幅される。というか、安心度はすこし上がる。
(それにしても、やっぱりガンダムなのか……)
と、斎賀は思った。
その傍らで、ティア・ラモン女史が陽気に言葉を紡いでいる。
「わたしね、今回の装備のなかでとくにすきなのは、スーパー・アンブレラなんです。だって、やっぱり名前が可愛いでしょ? 行きつけのフィギュア・ショップでハンマ・ハンマのフィギュアを見つけたときくらいどきどきします」
「いや、俺はボルテスⅤだなあ……」
とは、サモ・オクンジ。
「俺は、エヴァンゲリオン初号機だ」
と、ハルク・エンベルクがびしっと言って、一堂は「おー」と感嘆した。
「さすが、スーパーロボットのスタンダードを知っていますね。統合戦線にとっては未知の兵器なのに」
「まあ、知識だけはある。想像力ってやつだ」
ハルク・エンベルクが締めた。
斎賀は、その陽気すぎる雰囲気に反して、どんどん気持ちが厳粛になっていくのだった。
技術の冗談めいた名前とは裏腹に、全ては戦場で血を流すための現実だと痛感したからだ。
とは言え、重要な武装も追加されたようです。




