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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第四部

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81/97

81.セヴァストポリ攻略戦(14)

戦後の話。

「ちっ、リュシアスめ、余計なことを……」

 と、ヴォルガは苦々しくつぶやいた。

 それは、たしかに余計なことだった。

 自分は、あと一歩でライジングアースを倒せそうだったのだ。

 しかし、それは「どうなるかわからない」あと一歩でのことだった。

 リュシアスの判断に、ヴォルガもうなずくことがある。

 自分は、アーシャ・ロウラン三尉以下、三名の部下を無事帰還させなければいけないのである。

 万が一……ということで、それがかなわない可能性もないわけではない。

 とくに、敵であるライジングアースがあの「ユーマナイズ」という武装を発動すれば……

 ヴォルガは、冷静な武人としての心で思った。


 イングレスαとエル・グレコが相手であれば、ビッグマンは無双の活躍をする。

 しかし、敵勢力にはライジングアースという強力な武装があるのである。

 洗脳兵器である「ユーマナイズ」を使われれば、一気にこちらの武装を無力化されるかもしれない。

「これは潮時だ……」

 と、ヴォルガも思わないではないのである。

「リュシアス。今回の勝ちは君に譲るよ……。政治的な勝利は僕にはないからね」

 と、ヴォルガ。

 あくまでも、武人としての姿勢だった。


 ──


 ライジングアースのコックピットのなかでも、斎賀がほっと息をついていた。

「ミューナイト。ユー・フォーチューンは発動していないな? それは、味方にどんな損害を出すかもわからない……」

「サイガ。それは大丈夫だ。しかし……これは本当に危険な兵器なのか?」

「俺には分からない。アルスレーテに帰ってから、整備班に分析を頼もう。なんにしても、戦闘は終わった」

「ああ。終わったな……でも、これでよかったのか?」

「よかったんだ。そう思わなければ、死んだ奴らが浮かばれない」

「そうだな」

 ミューナイトも、同じつぶやきを返した。

 2人とも、思念通信で会話することを忘れていた。

 限界的な状況下で、人は動物的な行動に帰ることがある。

 この場合の2人も、理性で話すというよりは、ただ情動で話していた。

 それは──「人を救いたい」という情動からだった。

 それが「ユー・フォーチューン」を作動させている、ということを2人は知らなかったが、いずれ知ることになる……。

 何にしても、これは一つの「終わり」なのである。


 ──


 シエスタは、すぐに空軍部隊のことを考えた。

 バグダッドから経ったイングレスαの部隊は、今クリミア半島全体に展開している。

 敵の大将が言った、「クリミア半島からの撤退期限」は8時間だったが……

 シーウルフも陸上に展開しているはずだ。

 彼らを輸送機で完全に回収するためには、8時間で足りるだろうか?

 ……シエスタは、チーム・アマリのリーダーであるチディ・マベナに連絡を取ろうとする。

 チディ・マベナは、今朝の第一陣の攻撃に参加していて、今はバグダッドに帰還しているはずである。

 シエスタは、コンソールを操って、バグダッドとの通信を試みる。

 その結果……

『その件は大丈夫だ。無事帰ってこれるのであれば、帰ってこい』

 との返信が返ってきた。ショートメッセージである。

『了解』

 と、シエスタも送り返す。

 チディ・マベナは、チーム・アマリA班のリーダーとして、誰も死なせなかった。

 自分も同様であれたことに、シエスタは安堵する。

 マクシム・オコンジョ少尉は戦死したが、今回の作戦でのチーム・アマリの戦死者は2人だけである。

 この甲斐のない戦いで、落とされた人命がわずかであったことを、シエスタは神に向けて祈った。

 それがどんな神であるのかはわからなかったが……


 ──


 メイサ・ヤハンは、「今回の作戦は失敗だった」と、大いに悔やんだ。

 作戦の責任者である、オバデレ准将にただちに通話を試みる。

 オバデレは、巡洋艦ムワタ・ヤムボで泰然としていた。

 大統領からの通話に対して、「はい。今回の作戦は失敗でした。拙速だったと言えます」と答える。

「ジェマナイが、味方ごとわたしたちを滅ぼすというのは本当なの?!!」

「ええ。それがAIの本性ということなのです……」

「そうではありません!!」

「ですが、我々はジェマナイの南極基地を破壊しました。一歩一歩の前進が肝要です」

 オバデレは、あくまでも冷静である。

 今回の、ジェマナイの「粒子帰化爆弾使用」の示唆と、統合戦線の統合軍の撤退も、あらかじめ織り込み済みという調子である。

 メイサ・ヤハンはいらだった。

 その政治生命を危惧してのことである。

 ……と、オバデレにもわかっていた。

 だから、こう告げる。

「今回の作戦失敗についての責任は、わたしが取ります」

「当たり前です!」

 メイサ・ヤハンは、柄にもなく激高して言うのだった。

 しかし、オバデレは自らが失脚するのを回避するための周到な手立ては、すでに用意してあったのだろう。

「このことは、長官のアマドゥ・カセムとも協議いたします」

 とだけ、答えるのだった……


 ──


 カドリール・ヴァレンタインは、そのころアルフレッド王子に向けて通話をかけていた。

「ええ、はい。今回NooSは正常に機能したようですよ? わたしの得ている情報では、敵のビッグマンを無力化するのに大いに成果を発揮したようです。我々は、ジェマナイに対抗する有効な手段を得たということです。多少の人的損害は出ますが……それも微々たるものでしょう」

「それは、本当なのですか? 敵ビッグマンを無力化したと?」

「はい。対象はヴォルグラスという機体です。ヴォルガという操縦者が操っていますが……そのメインカメラを粉砕し、敵の攻撃力を奪ったのです」

「それは頼もしい! では、わたしたちは、このNooSの開発を続けていけば、いいのですね? ジェマナイに勝てるのですね?」

 アルフレッド王子は、興奮気味に言う。

「ええ。必ず勝てますよ……王子はご心配なく」

 ヴァレンタインから返ってきたのは、そんな言葉だった。

 その胸の奥底に何を隠し持っているのかはわからない。

 しかし、現在のアルフレッド・ウィンザーにとって、信頼できる人物はこのヴァレンタイン一人である。

 彼と彼との交渉が、統合戦線の軍事戦略の裏でどんな鍵を握っているのか、知っているのは彼ら2人だけだったと言える。

 ヴァレンタインは、技術革新省の一官僚ということになっているが、その裏では非合法の市民グループに関わっているという噂もある。

 とにかく、謎の人物なのだ。

 そのことをうさんくさいと、アルフレッドも思わないことはなかった。

 しかし、信頼に足る縁故を失う、ということに関してはアルフレッドはためらわれた。

 この世界を人工知能に手渡してしまうよりは、多少は後ろ暗い道を行くほうが確かだと、アルフレッドは思っていた。

 そのことが、2人の弟を救う手立てにもなる。

 一亡命者としての、統合戦線アフリカ機構内での自分の立場は微妙だった。

 この「戦争」が彼自身にもたらすものを、彼は今は大きくも小さくも見ていた。

 イギリス王室の復活……ということを、彼は見るわけではない。

 ただ、「人類の尊厳」ということをアルフレッドは見ているのだった。


 ──


「帰還しよう」

 と、斎賀は小さく言った。

 その胸には、ミューナイトをなだめる心も、自分自身を納得させる心理もあった。

 しかし、戦闘は終わったのである。

 終わらせられた。

 それが、さらなる悲劇を生むものであるのかどうか、斎賀には分からなかった。

 ただ、ミューナイトはこう答えた。

「わたし、今ほっとしている……」

第四部はこれで終わりです。次章からは第五部になります。

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