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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第四部

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80/100

80.セヴァストポリ攻略戦(13)

ライジングアースが奮戦する一方で、意外な幕切れが訪れます。

「ライジングアース、本当に来てくれたんだな!」

 シエスタは、コックピットのなかで叫んだ。

「そして、アマラ少尉は……」

 海面にかすかに浮かんでいるパラシュートを確認する。

 きっと、アマラ少尉のものだろう……それ以外には祈るしかない。

 シエスタは、フィオリヒト少尉に無線通信で呼びかけた。

「フィオリヒト少尉。ライジングアースが合流した。これで戦況は我々の優位になる。貴官は全力でライジングアースの援護を」

『了解しました』というショートメッセージが返ってきた。

 これで、支援体制は万全である。

 シエスタは、STSMをヴォルグラスにむけて打ち込む。

 これはもちろん、攻撃のためではない。かく乱のためである。

 空中をさまようSTSMが、ヴォルグラスの挙動を誘うようにその機体のめぐりをめぐる。


 ──


「しゃらくさいねえ……。またミサイルかい。でも、僕も傷づくのは好きじゃない」

 と言って、ヴォルガはレーザーを発射する。

 爆散するSTSM。しかし、それが数秒のずれを生んだ。

 ライジングアースからロケットパンチが射出されてくる。

 それを、がしっと受け止めるヴォルグラスの両手。

 これでは、ロケットパンチでイングレスαを攻撃することができない……

「だから、いやだって言ってんだよ、その攻撃!」

 ヴォルグラスはかすかに激高した。

 それが、さらにコンマ数秒から数秒の遅れをAI演算にもたらす。

 完全に──ヴォルグラスは「とらわれた」状態だった。


 ──


 しかし、その一方でライジングアースのコックピット内でも、斎賀がためらっていた。

「ユー・フォーチューン」という新たな兵装は、ライジングアースが生み出したものなのか?

 それとも、最初から備わっていたものなのか……

 だとしたら、その効力は何だ? と、斎賀は思考する。

 シエスタ機ほか、イングレスαの部隊は今のところ撃墜されてはいない。

 ポーランドからの部隊も交じっているだろう。

 安全に「ユー・フォーチューン」を発動するためには、それらの部隊を遠ざける必要がある。

 しかし……それが叶うのか?


 ムワタ・ヤムボ以下、統合戦線の護衛艦や巡洋艦からは艦砲射撃も発射されていた。

 しかし、それはヴォルグラスに効く様子はない。

 核兵器レベルの熱量が必要なのだ、ヴォルグラスを倒すためには。

 それ以外には、物理的な衝撃で敵を打ち破るほかない。

 それにもっとも有効なのは、ライジングアースのロケットパンチだ。

「ミューナイト。再度ロケットパンチを射出。ビームで敵の装甲を焼け!」

「了解!」

 ライジングアースから再度射出されるロケットパンチ。

 その拳が開いて、高出力ビームをヴォルグラスに叩き込んだ。

 効いている! ヴォルグラスの装甲が焼けていく音。

 ヴォルガは、コックピットのなかで「おおおおお!」と叫んだ。


「ミューナイト、次は敵をキックするんだ。エアリアル・ステップの量子フィールドで、敵の装甲を粉砕する」

「わかった! やれると思う。要は使いようなんだな、武装は!」

 と、ミューナイトもいくぶん高揚した調子で答える。

 ライジングアースは、敵ヴォルグラスに向けて、左足のキックを放った。

 それと同時に、エアリアル・ステップを作動。

 両足の先に、量子フィールドが形成される。

 それが衝撃になって、ヴォルグラスの機体は数十メートル後退した。

 装甲のあちこちに、ひびわれが生じている。

 海面に落下する部品。

 確実にダメージを与えた。

 防御の兵装を攻撃用の武器に変えた。これこそ機転である。


 ──


「だから、僕はあ……負けるわけにはいかないって言ってんだよ!」

 と、ヴォルガは叫ぶ。

 ヴォルガは、エカテリングブルクから、ノルニール、リントヴルム、サロメという3体の機体を引き連れてきていた。

 それらのパイロットも無事帰還させる使命を、ヴォルガは帯びている。

 自分だけが突出したことによって、味方を危機に陥れることはできなかった。

 もし、ここで自分がライジングアースに撃破されてしまったら……

 敵は、恐ろしいユーマナイズという武装によって、味方を一気に無力化してしまうかもしれない。

 常識的な兵士としての理性が、ヴォルガに働いた。

 それが、今の彼を利するものかどうかはわからなかったが……

「だが、僕は負けない!」

 と、それは24歳という若さがヴォルガに作用した瞬間のようだった。


 ──


「ミューナイト、どうやら俺たちの攻撃は効いている。聞いているか、ミューナイト?!」

「聞こえている、サイガ。叫ばないで。それより、ユー・フォーチューンの発動はどうすれば良いんだ?」

「……それは」

 斎賀は口ごもった。

 この不確かな武装を、この状況で発動するわけにはいかない。

 近傍には、シエスタのイングレスαもいる。

 なにより、この未知の武装によって味方に多大な損害が出たら……

 情報軍出身らしい功利的な理知主義で、斎賀は考えを巡らせた。

 その考えが、情動的なミューナイトの感性とは反している……そのことも知らずに。

 人間がネオス的になり、ネオスが人間的になっているのだった。

 その隙が、ライジングアースの挙動に一瞬の迷いをもたらす。


 ──


「今だ、ロケットパーーーーンチッ!!!!」

 ヴォルガが叫び、ヴォルグラスの両腕が飛んだ。

 それがライジングアースの頭部ユニットに着弾し、はじけ飛ぶ部品。

 コックピットのなかで、2人が悲鳴を上げた。

「だからね~。僕を甘く見ちゃいけないんだってば!!!」

 ヴォルガは勝ち誇ったように言った。

 このままライジングアースの武装を一つ一つ奪っていけば、自分には確実に凱旋があるはずだった。

 しかし……それは一つの声によって破られる。

 リュシアスの声が聞こえたきたのだ。

「なんとっ?!」

 ヴォルガは驚愕した。

 それは、ジェマナイによる、マザールーティーンによる介入以上の衝撃だった。


 ──


 リュシアスは言った。

 地球上の全AIネット、全テレビ放送、全ラジオ波を掌握しての放送だった。

「統合戦線の全兵士諸君、ならびにその政治家たちに告げる。ただちにクリミア半島から撤退せよ。貴官らが撤退しない場合、ジェマナイはクリミア半島およびその近傍に向けて、粒子帰化爆弾を打ち込む用意がある。繰り返す。統合戦線の全兵士諸君は、ただちにクリミア半島から撤退せよ。これがなされない場合、ジェマナイはクリミア半島およびその近傍にむけて、粒子帰化爆弾を打ち込む用意がある。この期限は8時間である、そのあいだに、クリミア半島から全兵士を撤収させよ。そして、ジェマナイ側の兵士諸氏も、即時攻撃を中止するのだ」


 ──


 統合戦線の大統領メイサ・ヤハンは驚いた。

「味方を犠牲にして、敵を全滅させるですって? 狂っている?!」

 しかし、それは狂気ではなかった。

 ジェマナイの理性的な判断である。

 ジェマナイは常に理性的にしか判断しない。

 ムワタ・ヤムボの艦橋で、クワメ・オバデレはただ一言「うむ」とうなった。

 その胸のうちにあるものは測り切れなかったが、艦長であるタファリ・ムレンガはただオバデレの指令を待った。

 数分の時間が経過する。

 その間にも、艦外ではヴォルグラスと統合戦線側の兵装との戦いが続いている。

 ヴォルグラスはロケットパンチを打ち、それをライジングアースが受けている。

 イングレスαとエル・グレコは空を舞っていた。

 時折、ヴォルグラスの全方位レーザーを受けて、数機のエル・グレコとイングレスαが爆散する。

 そのときに味方に走る、絶望的な思い……

「全艦、および全戦力は、これより撤退する」

 オバデレが静かに口にした。

 タファリ・ムレンガは、同様に静かに敬礼する。

戦闘は一応終了しました。次回でセヴァストポリ攻略戦を終わります。

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