78.セヴァストポリ攻略戦(11)
アマラ少尉の決死の作戦です。
ヴォルグラスはムワタ・ヤムボへの攻撃を続けていた。
ロケットパンチが轟音を上げる。
それにつれて立つ、波しぶき。
巡洋艦と護衛艦からは艦砲射撃も行われているが、ヴォルグラスに効いた様子はない。
(なんて固い装甲なんだ!)と、シエスタは思った。
ヴォルグラスの近傍を飛行しているイングレスαやエル・グレコが、AAMやSTSMを撃ち込むが、ヴォルグラスのロケットパンチと全方位レーザーに撃墜されてしまう。
(あれもカーネルで動いているんだろう? パイロットが休まない限り無限に動き続ける……我々はいつまで奴の相手をすれば良いんだ?)
シエスタは、悩める心のなかで思った。
早く状況を打開しない限り、戦死者は増えるだろうと思われた。
ヴォルグラスのわきをかすめたエル・グレコが数機、全方位レーザーで撃墜される。
シエスタには、まだ心を痛める余裕はあった。
(あの機体にダメージを与えるためには、リードル・ワイヤでロケットパンチを捕捉してクラッキングするのが、一番良い手なんだが……)
レーザーの合間をかいくぐってヴォルグラスに近づくことを、シエスタもためらう。
そんな中で、アマラ少尉とフィオリヒト少尉の機体がヴォルグラスに近づいていく。
(頼むから、死に急がないでくれ!)シエスタは必死に祈る。
アマラ少尉の、ついでフィオリヒト少尉のリードル・ワイヤがイングレスαから射出された。
それが、ヴォルグラスのロケットパンチにからみつく。
リードル・ワイヤの射程はほぼ1マイルだ。
この距離からなら、敵の全方位レーザーをなんとか躱せる。
「できるだけランダムに飛べ!」
と、シエスタは事前のブリーフィングで告げていた。
とにかく、ヴォルグラスのパイロットであるヴォルガは、ヴェガのパイロットとは違うのだ。
シエスタは、ふいに悪寒を覚えた。
ヴォルグラスから発射されるレーザーをなんとか躱しながら飛行しているが、その射線が徐々に近づいてきているような気がする。
(あのパイロット……ヴォルガ、わたしのことを知っている??)
シエスタは、高速で考えを巡らせた。
ムルマンスク侵入作戦の際にヴォルガと戦ったシエスタは、敵のAI脳に深く記憶されているのかもしれなかった。
たぶん、自分の行動パターンや性格まで予測して攻撃をしかけてきている……
今はただ、ビッグマンの攻撃が目視によるものが主だ、ということだけが幸運だ。
これがAIサブルーチンによる行動予測なら、自分はとっくに撃墜されているかもしれない。
(ハイ・テクノロジーはちょっとするとロー・テクノロジーと変わらないってね!)
その間にも、機体の周囲にAIかく乱チャフを撒いておく。
これでいくぶん、機体の位置把握に若干の誤差が生じるだろう……
「それにしても……本当に来ないのか? ライジングアース! 統合戦線はわたしたちを犬死にさせる気かっ?!」
(このままでは……壊滅だ。)
(お願いだ、来てくれ……ライジングアース……!)
アマラ少尉とフィオリヒト少尉のリードル・ワイヤが、ヴォルグラスのロケットパンチのクラッキングに成功した。
ランダムでおかしな軌道で空中をさまよう、ロケットパンチ。
しかし……本体に向かっていかない!
(敵のほうで演算サブルーチンを更新したか? 単純なAI演算による挙動ではなくなっている??)
シエスタは動揺した。
そうこうしているうちに、リードル・ワイヤの有線距離がいっぱいになる、2機のイングレスα。
(やばい!)
シエスタは思った。
(ヴォルガは何をしているんだっ?!)
──
「何ってねえ。僕も2度も同じ方法でやられはしないよ……シエスタちゃん」
と、ヴォルグラスのコックピットのなかでヴォルガがつぶやく。
目の前で不規則な軌道を描いていたロケットパンチが、ヴォルグラスの腕に収容される。
そして、ヴォルグラスはレーザーを放つ。
ピンポイントで切断される、リードル・ワイヤ。
「こういう照準をするのって、結構難しいんだよね」
ふむふむとうなずきながら、ヴォルガがつぶやく。
その顔には、満面の笑み。
勝ちを確信している。
──
と、その時だった。
アマラ少尉から通信が入った。
「要するに、敵はメインカメラによる目視で、レーザーの照準を定めているっていうことなんでしょう? だから……あのメインカメラを無力化できれば良いんですよね? シエスタ中尉」
「少尉、何をする気だ?」
シエスタは、驚いて尋ねる。
アマラ少尉のイングレスαは、まっすにヴォルグラスへ向けて進路をとっている。
このままいけば、たとえレーザーに捕捉されたとしても、ヴォルグラスのメインカメラに激突するだろう。
「早まるな、アマラ少尉!」
「大丈夫! イングレスαにも脱出装置はありますって!」
アマラ少尉の陽気な声が無線から響いた。
波をかき分けて進んでいく、アマラ少尉のイングレスα。
眼前には、ヴォルグラスの巨体がそびえたっている。
それが起こるまで──ほんの数秒。
アマラ少尉のイングレスαが、ヴォルグラスの顔面に突っ込んだ。
爆音を上げて、砕け散るメインカメラ。
部品の雨が、海面に降り注いだ。
ビッグマンとて、所詮は物理兵器である。
「アマラ少尉!」
シエスタは叫んだ。
至急、目視でパラシュートを探す。
(無事に脱出できたのか? それに……ヴォルグラスは?)
──
ヴォルグラスは、頭部をぎこちなく左、右に回転させる。
どうやら、メインカメラは完全に破壊されたらしい。
ヴォルガは、「ちっ」と叫んで胴体各所に設置されているサブ・カメラに切り替える。
「俺としたことが、油断してしまった。まさか、自殺覚悟の敵兵がいるとは……」
ヴォルガは、コックピットのなかで、その敵兵に対する哀悼の意を示した。
敵兵は……統合戦線のアマラ・ンドゥベという少尉だった。
「ここに花があったら、僕は海面に花を投げるよ」
いかにも悲しい、という表情でヴォルガが言う。
「ん?」
その眼前に映ったのは、1つのパラシュートだった。
もちろん、それにつり下がっているのはアマラ少尉である。
この後、海軍の救命ボートが彼を救助するだろう。
「なんだって……? 直前まで俺の行動を予測して、機体に進路をプログラミングしていたのか?!!」
ヴォルガは驚いた。
自殺覚悟と思えた攻撃は、周到なプログラミングと予測によってヴォルグラスの挙動を予想してのものだったのである。
(やられた! 完全にやられた!)
と、ヴォルガは思った。──ネオス脳の盲点を突かれた!
その悔しさは、統合戦線の作戦にしてやられたからではない。
自分と同じ武人が、統合戦線にもいると知ってのゆえだった。
「やるねえ。でも、ここからが僕の本領なんだよね。全方位レーザーはAI制御にする。そうすると、間抜けな獲物ほど罠にかかりやすい。僕の戦況は、そんなに変わっていないんだよ?」
──
しかし、ヴォルガの思いは通用しなかった。
ヴォルグラスの前に、巨大な機体が現れたのである。
どこから? ──それは謎めいていた。
どうして? ──それは愛の故だっただろう。
それは何だったか?
ライジングアースである。
飛行形態から瞬時に人型形態へと変形して、ヴォルグラスの前に即座に立ちはだかる。
波が立った。
コックピット内は沈黙していた。
反射的にヴォルグラスから射出されたロケットパンチを、その両腕でしっかりと受け止める。
とうとう援軍が来たのだった。しかも、ライジングアースという超強力な武装が。
ライジングアースが到着しましたが……




