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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第四部

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73/93

73.セヴァストポリ攻略戦(6)

オバデレの思惑、そしてポーランド部隊とヴォルグラスとの戦闘です。

 この作戦の開始前、クワメ・オバデレの念頭には次の三つのことがあった。


 一つ目は、南極大陸のジェマナイの基地を完全に沈黙させること。

 二つ目は、セヴァストポリにいるジェマナイ軍をできるかぎり掃討すること。

 三つめは、敵ビッグマンの何体かを、可能であれば鹵獲すること。

 ……である。


 南極戦線にライジングアースと核を投入することは、至極当然のことだった。

 なぜなら、この作戦は二正面作戦であり、一方の戦線を膠着させるわけにはいかなかったからだ。

 できるかぎり速やかに、ジェマナイの南極基地は制圧する必要がある。


 オバデレは、心のなかでひそかにこの作戦のことを「Dデー」と呼んでいた。

 第二次世界大戦の当時、連合国側がノルマンディーに上陸したあの作戦である。

 オバデレは、同じく第二次大戦当時のナチスの二正面作戦のことは考えていなかった。

 この戦争は正義の戦争であり、しかも人類を統合知性体の手から解放するという戦いである。

 そのためには、手段を問わない……


 南極戦線は、ライジングアースとNooSの活躍によって、速やかに制圧することができた。

 ジェマナイは、今後南極大陸から統合戦線に攻めてくることは当分ないだろう……

 しかし、それだけでは不十分だった。

 何よりも、統合戦線には戦力が足りない。

 ビッグマン(ロボ)はライジングアース1体だけである。

 このロボがいるかどうかで、戦局は大きく変わる。

 ジェマナイには少なくとも五十数体のビッグマン(ロボ)がいると言われているが……

 クリミア半島に配備されているのは、そのうち第二世代のビッグマン6体である。

 このうち2体でも鹵獲できれば……統合戦線は複数の方向に戦線を伸ばすことができる。

 そして、その作戦をオバデレは、大尉級の隊員にだけ伝えていた。

 チーム・アマリのリーダーであるチディ・マベナ、チーム・ンデゲのリーダーであるヌール・ジュマ、そしてワルシャワ方面軍所属のサーシャ・グレン……。

 この3名だけが、オバデレの無謀な作戦を知っている。


 ──


 サーシャ・グレン大尉は、ワルシャワ近郊のミンスク・マゾヴィエツキ基地を発進して、一路クリミア半島に進路を取っていた。

 ビッグマンを鹵獲しろ、との指令はワルシャワ基地内では自分だけが聞いている。

 僚機であるイングレスαのパイロット、ミコワイ・ヤロシュ少尉、ルカシュ・ドンブロフスキ曹長、リカルド・チャペク曹長らには、直前までこの作戦のことは伝えていない。

 セヴァストポリの郊外が見えてくる。そこには一面の森が広がっているのだが……

 いた。

 一面の緑のなかに、不釣り合いな白い機体がいる。

 ヴォルグラスである。

 サーシャ・グレンは、「ラッキーだ!」と思った。

 ヴォルグラスは第三世代のビッグマンだ。

 第二世代のヴェガよりも挙動が速い。そして、飛行能力もある。

(これを統合戦線側に鹵獲できれば……)

 そんなふうに思うのには、統合戦線の側にも驕りがあったのだろう。

 一日目にヴェガを2体撃破、今日さらに1体撃破という戦功があって、高揚している士官もたしかにいるのだった。

 サーシャ・グレンは、その一人である。

 チーム・スペードの10機のイングレス編隊を率いている。


「ミコワイ・ヤロシュ少尉……。敵のビッグマンを捉えた。無線はまだ通じているな? どうやら、まだ敵のジャミングは無効のようだ。本隊は、これより敵ビッグマンの鹵獲を目指して行動する……」

「ラ、ラジャーです、大尉。ですが……」

「そうだ。あのビッグマンは、モスクワでイングレス部隊を襲ったヴォルグラスだ。手ごわい敵だよ」

「その通りです。それを鹵獲するなど??!」

「獲物は大きい方がいい。まず、敵の武装を無力化する。いいか?」

「分かりました。その無謀な作戦、乗りましょう!」

 ポーランドから出ている部隊としても、バグダッドの部隊に後れは取りたくなかった。

 バグダッドの部隊はすでにヴェガを3体撃破している。

 ここでワルシャワ側の意気地というものを見せなければ……という気負いである。

 サーシャ・グレンの目の前に、30メートルを超えるビッグマンが屹立している。


 そのコックピット内で、ヴォルガは左右をきょろきょろと見まわしていた。

 それにつれて、ヴォルグラスの頭部メインモニタも左右にふれる。

 ビッグマンのコックピット内は全周囲モニタになっている。

 とは言え、メインモニタの解像度がひときわ高いのである。

 ネオスの視力であれば、メインモニタを介すれば10キロメートル先にいる鷹の動きも把握することができた。

 ヴォルガは、「とうとう来たよ。飛んで火にいる……これは言ったっけか? まあいいや、網に入る魚たち……とね?」

 不敵な笑いを笑った。

 今は隠している、奥の手があるのである。


 ヴォルグラスの肩には、大型のロケットランチャーが抱えられている。

 今回の改修で追加した武装の一つだ。

 この大型の武器があれば、イングレスαやエル・グレコは蝿とも見えた。

 ゆっくりと構えなおし、照準を定める。

 イングレスαはセオリー通り、ヴォルグラスの周囲を旋回しながら、その隙を伺っている。

 旋回半径は1マイル~1.5マイルほどだろうか?

 合計で10機のイングレスαと11機のエル・グレコを確認した。

「ふうん。またイングレスαっていうのは、目新しくなくってね? ついでにエル・グレコも……!」

 そう呟いて、ロケット弾を発射する。

 白煙を吹いて飛んでいくミサイル。

 1発がエル・グレコの翼に命中して火を噴いた。

 きりもみで墜落する、エル・グレコ。

 森林が炎を上げる。


 エル・グレコは戦闘攻撃機である。対空装備よりも対地装備のほうが勝っている。

 しかし、ビッグマンはどちらかと言えば空軍戦力に近い。

 対地ミサイルはかなりの確率で躱されてしまう。

 その通りに……ビッグマン・ヴォルグラスは、その巨体にふさわしくない敏捷さで、編隊のミサイルを躱した。

 緑の森がひしゃげて、なぎ倒される木々。


「それにしても、単騎で乗り込んでくるとはな……」と、サーシャ・グレン大尉はささやいた。

 それが最大の誤謬であったのだが……誤謬は何層にも重ねられていた。

 その場にシエスタ・アレーテがいれば、直感で「これは罠だ」と悟っただろう。

 しかし、そのような動物的勘と実戦経験が、サーシャ・グレンにはなかった。

 ヴォルグラスの発射するロケット・ランチャーのミサイルを、次々に躱していくイングレス部隊。

 戦況は優勢なようにも思われた。被撃墜は、エル・グレコの1機だけである。

(たいしたことない……)と、サーシャ・グレンが思うのも無理はなかった。

 一度でもヴォルガと交戦していれば、そのような油断は生じなかったはずなのだが……


「ミコワイ・ヤロシュ少尉。敵の下肢に向けて、リードル・ワイヤを射出する。それで、敵の動きを止める。できるか?」

「はい。この新しく入ったOS、NooSの制御があれば可能でしょう。やってみますか?」

「ああ。軍功はバグダッドだけには譲らないってね? ワルシャワ部隊の意地を見せてやれ!」

 サーシャが声高に言った。


 どうやら、ヴォルグラスはロケット・ランチャーのミサイルを撃ち尽くしたらしい。

 ぷすん、と白い煙を上げているロケット・ランチャー。

「そうだ。ランチャーを構えていれば、ロケットパンチも発射できまい!」

 サーシャ・グレンは、「勝ち」を確信して部下たちに指令を出した。

ヴォルガには思惑があるようですが……

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