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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第四部

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70/96

70.セヴァストポリ攻略戦(3)

いったん戦闘が終わりましたが……

 タージ基地にイングレスαを着陸させたシエスタは、雨の滑走路を駆けていった。

 アマラ少尉はどうしただろうか……?

 もちろん、乗機が帰還していれば、彼の体は無事であるに決まっている。

 しかし、問題はそういうことではなかった。


 すぐさま、ブリーフィング・ルームと休憩室に顔を出す。

 アマラ少尉は食堂にいた。

 遅ればせのランチを取っている。

「なんだか俺、食欲がわかないんですよね……」

 と、さっきは言っていた。

 そばに近寄っていって、声をかける。

「無事だった? アマラ少尉」

「ん? なんですか唐突に? この通り、ぴんぴんしていますよ?」

「いや、そういうことじゃないんだが……まあ、いいや。今日の任務はこれで終わりなんだから、ゆっくり休んで」

「もちろん休んでますよ、シエスタ中尉。なんか変ですよ?」

「うん。ちょっとだけ気がかりだっただけよ。あなたは突出しすぎるきらいがあるからね。でも、忘れて?」


 コーヒーを買いに立ち、またアマラ少尉の元へと戻ってくるシエスタ。

 その向かいの椅子を引いて座った。

「さっきの戦闘でね……?」

「なんです?」

「いや、イングレスαが変な指示を出してきたの。後でログを確認して分かったんだけれど……」

 シエスタは、いつになく厳粛な口調で言う。

「イングレスαが、というと『NooS』ですね?」

 と、アマラ少尉も相槌を打つ。

「そうだ。あのOSがおかしなことを言っていた。……敵ビッグマンの膝関節にリードル・ワイヤを射出してけん引しろ、と言うんだ」

「なんです、それ? それって自殺行為じゃないですか!」

 アマラ少尉は驚く。

「ああ。あのOSには不気味なところがある。本当に役に立っているのかどうか……」

 シエスタは、伏し目がちになって言う。

「役に立っていますよ、中尉? あのOSになってから、イングレスαを無理に旋回飛行させても、機体がぶれないんです。機体制御システムが働いているんだと思いますが、パイロットの操作はごくわずかで済みます」

 と、アマラ少尉。

「それが怖いんだよ、わたしにとってはね。まるで機体に操られているような感覚になる」

「考えすぎですよ? 単なるOSでしょう、『NooS』って?」

「いや、人工知能でもある。それがジェマナイのような意志を持っていたら、と考えるんだ。少尉はどう思う?」

「そうですねえ……。ライジングアースにも意志があるって聞いていますし、今どきのAIなら普通だと思いますがね」

「ああ。しかし、わたしは自分の勘を信じて飛びたい」

「俺もです」

 アマラ少尉が最後のパンを一切れ、口のなかに運んだ。

 シエスタは、それをじっと見守っている。

 戦場での、つかの間の平穏な光景がそこにはあった……あるはずだった。


 2人が黙りあっているところへ、フィオリヒト少尉がやってきた。

 23歳のネオスで、外見は人間でいえば30歳くらいに見える。

 チーム・アマリへは最近になって配属されたが、それまではずっと別部隊でエル・グレコのパイロットをしていた。

 主に輸送任務の護衛を担当していた、と聞いたことがある。

 その彼が……

「嫌な知らせを持ってきました」

「なんだ、その嫌な知らせって?」

 B班のリーダーであるシエスタは、すぐに確認してみる。

「どうも……統合戦線が核兵器を使ったらしいのです」

 フィオリヒト少尉は、慎重に言葉を選びながら言った。

「なんだって? どこでだ? ジェマナイの南極基地でか?」

「その通りです。これを見てください。サテライト群をハッキングして得た画像なんですが」

 フィオリヒトは、自分のスマートフォンの画面を操作して、一つの画像を映し出す。

「これは……核の跡だな。戦術核だろう」

 シエスタは、スマホの画面を見ながら、即座に同意した。

 そこには、1つの山ごと消し飛んだ基地の残骸が高高度から写し出されている。


「統合戦線が核を使ったとなると……」

 とは、アマラ少尉。

 明らかに動揺している。

「ああ。ジェマナイ側も核を使う可能性がある。核ならまだいいが、粒子気化爆弾となると……」

 と、シエスタ。

「1つや2つの都市が消滅するだけでは済みませんね?」

 フィオリヒト少尉は冷静に答える。やはり、ネオスである。

「本当に嫌なニュースを持ってきてくれたな……」

 シエスタは、髪をくしゃくしゃさせながら、テーブルに肘をついて呟く。

「統合戦線はジェマナイに核使用の通告はしたんだろうか?」

 アマラ少尉が聞く。

「それはしているだろう。事前通告をしなければ、国際法違反になる。しかし、そういう問題じゃないな、これは。わたしたちはスケープゴートだったのかもしれない」

「わたしたちは何のために戦っているんでしょうね?」

 アマラ少尉も不審にかられたような様子で、そっと呟いた。


「それと、さっき中尉たちが話しているのを小耳にはさんだのですが……」

「なんだ?」

「例のOS、『NooS』のことです」

「ああ。その話をさっき、アマラ少尉としていたんだよ。おかしなOSだって」

「わたしの機体も、変な指示を出してきました。ビッグマンの股の間を飛行しろ、と言うのです」

 と、フィオリヒト少尉。

「正面から飛行しての誘導を命じたときにか?」

「そうです。さすがにこれはおかしな命令だと感じて無視しました。最初は、あなたからの通信だと思ったのですが」

「わたしはそんな無茶な指示は出さない。『NooS』だな……」

「『NooS』には、オーストラリア空軍のシステムが流用されているという噂もあります。なんでも、RSAITecの幹部の1人はオーストラリア共和国の出身だとか。同国の技術産業相のアーネスト・クローヴァーという政治家とのつながりもあるとされています」

「すると、この間亡命してきた機体も怪しいか」

「ええ。あの機体には、統合戦線にはない技術が使われている、とも聞いています。ライジングアース同様、未知の兵器です」

「それが味方としてふるまってくれれば心強いが……」

「そうです。暴走の危険性がある、と言って良いでしょう。あくまでも予想ですが」

 フィオリヒト少尉が、独自に分析した考えを述べた。

 それは説得力のある意見である。

 シエスタもうなずくしかない。

「なんとかバックドアを作って、いざというときに『NooS』の制御システムをキャンセルできるようにできないか? チーム・アマリのイングレスαだけでも、カスタマイズしておきたいんだが?」

 シエスタは尋ねる。それにたいして、フィオリヒト少尉は、

「できると思います。バグダッドの整備班にも協力してもらって、今夜から始めましょう」

「そうだな。一番良いのはアルスレーテに帰ってから処理することだが、今は時間がない」

 シエスタは言った。


 その日の被撃墜数は、イングレスαが13機。エル・グレコが25機だった。

 健闘した、とはとても言い難い数字だ。

 そのぶん、人が死んでいるのである。

 反対に、こちら側が撃破したビッグマンは合計2体。

 このままの足し算で、2日後に戦闘が終わるとは、とても思えない。

 何よりも、ジェマナイが味方ごと核や粒子気化爆弾を使って攻撃してきたら……ということをシエスタは恐れた。

不穏な真実が明らかになりました。

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