69.セヴァストポリ攻略戦(2)
イングレス部隊の活躍です。
いそいでレーダーを確認する。やはりチャフがまかれている。
ローカル・ネットの通信速度から、距離を特定。
……どうやら、シエスタ機からは3マイルほど離れた位置にいるらしい。
(救援に向かうか? どうする?)
シエスタは、祈りに近い気持ちで考えを巡らせた。
「いや、行く!」
シエスタ・アレーテは決意もこめてつぶやいた。
決死の圏内へと赴くのである。
シエスタは、直感で機体を北東へと向けた。
クリミア半島の内陸部へと向かう。
そこには、たぶんワルシャワ基地から発進してきたイングレスαを迎えるための、ビッグマンが1体以上配置されている。
(わたしを、信じろ!)
ショート・メッセージで、アマラ少尉以外の他メンバーへとメッセージを送る。
この通信はジャミング下でも通じやすい……が、見落とされる危険性もある。
雨足は激しくなってきた。
視界もゆがむ。
しかし、それは敵にとっても不利だということだ。シエスタは冷静に考える。
第2世代のビッグマン、ヴェガに飛行能力はない。
とすると、対空の迎撃態勢を整えて待機している確率が高い。
そんなビッグマンの1体に、アマラ少尉は遭遇したのだ。
今は……どのような状況なのか。
森が続く。
ヴェガは迷彩塗装だから、森にはなじむだろう。
アマラ少尉がよく目視で発見したものだ。
マッハ2から3で飛行しているイングレスαから、目標物を視認することは容易ではないのである。
自分の武装は? とシエスタは考える。
AAMとAGMを2発ずつ発射したから、残りはAAM4発だ。
それと、STSMの残りは少ない。
この装備で味方の援軍に向かうなど、正気の沙汰ではない。
しかし、シエスタは味方を死なせたくはなかった。
「亡霊女神」というコールサインにも、彼女は芯から納得しているわけではないのである。
(せめて、「戦場の女神」……とかにね?)
心のなかで思いながら、索敵を継続した。
と、森のなかに火花が見える。
高射砲か? あるいはビッグマンがミサイルを撃ったのか?
──後者のようだった。
敵のジャミングがうまく行っていないのか、アマラ少尉との通信が回復する。
「こちら、アマラ・ンドゥベ少尉。現在、自分はAAMを撃ち尽くしている。敵ビッグマンと交戦中。なんとかしとめたい……」
(ちっ、無理はするなよ?)
と、シエスタは思った。
アマラ少尉は訓練のときから、僚機に先行しすぎる癖がある。
それは「勇敢」という名前で代替されていてはいても、現実的には「無謀」である。
自分の命を縮めかねない。
シエスタは舌打ちした。
アマラ少尉はSTSM以外のミサイルを撃ち尽くしているに違いない。
本来であれば、帰投しなければいけない状況である。が……
シエスタは威嚇の機銃を発射した。
しかし、それがビッグマンに効くはずもない。
周囲にいるスホーイがいれば、それをけん制する目的だった。
シエスタは、ビッグマンを通り越して、0.5マイル半径で旋回。
前方に、さらに3機のイングレスαが見える。
チーム・アマリB班の5機の機体が、敵ビッグマンのヴェガに相対した。
シエスタは、通信機能が回復していることを祈って、僚機に通信を試みる。
「フィオリヒト少尉。分かるか? 貴官はビッグマンの前方から侵入して、衝突寸前に上昇。敵の注意を引き付けてほしい」
「……了解しました。……ザッ!」
「ルウェリン・カマウ曹長。敵ビッグマンの右側からAAMを射出。右方向への移動を防げ!」
「分かりました。機体、旋回させます!」
「タビサ・エングロベ曹長。貴官は左側からだ。敵を惑わせるため、STSMで攻撃しろ。STSMの残弾はあるな?」
「はい。十分な数が残っていると思います。ということは、敵を左に誘導するのですね?」
「その通りだ。そこにわたしがAAMを撃ち込む。状況を確認してくれ……」
「了解しました」
短時間の通信が終わった。
シエスタの指揮能力は優れている。即座に判断し、どの通信が最適かを判断することができる。
おそらく、この無線通信が続くのはわずかの間だが……
シエスタは機体を若干傾ける。
それで速度がゆるやかになった。
味方の攻撃を待って、AAMを発射!
白煙を上げて、AAMが敵ビッグマンに迫っていく。
しかし?!
すんでのところで躱された。森が轟音を上げて爆発する。半径50メートルほどの穴が空く。ちっ……! シエスタの舌打ち。
そのとき、イングレスαのOSがなにかの指示を出したように思えた。
しかし、後でログを確認してみるまで、シエスタにはそれが何なのか分からなかった。
敵ビッグマンは、全方位ミサイルを発射。
イングレス部隊は、それぞれてんでな曲線を描いて退避行動をとる。
上空に向かって5條の飛行機雲を描いて、イングレスαがそれぞれ上昇した。
上空でターンし、再びビッグマンに向かう。
シエスタは数秒の間に、全機にSTSMを発射することを指令。
自分は、ぎりぎりまでヴェガに接近して、AAMをそのど真ん中に打ち込む。
捨て身の作戦だ。……しかし、これくらいしなければ!
(海兵隊に申し訳がたたない)と、シエスタは考えていた。
パイロットとしての驕りである。
リーダーとしては失格だが、この場合にはそんな勢いが必要であるようにも思えた。
ビッグマンからレーザーが発射されて、STSMの多くが爆散した。
シエスタは舌打ちするが、敵は回避行動はとっていないようだ。
とすれば、シエスタの放つAAMを急所にぶちこめる可能性がある。
シエスタは錐もみ飛行でイングレスαを飛行させる。
視界には森。それが半分ほど空になって……目の前にヴェガの巨体が現れる!
AAMを発射。
この射程距離であれば、敵のアンチAIシステムに妨害される可能性も低い。
イングレスαから、ほぼ直線で敵ビッグマンへと延びていく射線。
AAMが、ヴァガの腰のつけねあたりに命中した。爆散するパーツ!
ヴェガが片足を崩して、地面に膝をつく。
(やった!)
行動不能にできたらしい。
アマラ少尉が、『やりましたね』と、即座にショート・メッセージを送ってきた。
敵の死角にまわり、一斉にAAMを発射する3機のイングレスα。
アマラ少尉は、すでに離脱の行動をとっている。
「全機、離脱せよ!」
と、通信機に向かって叫ぶとともに、あらかじめ用意しておいたメッセージを僚機にむかって送信する。
サイクロイド曲線を描いて、敵ビッグマンへと向かっていくAAM。
ヴェガの背中に命中した。1発はコックピットに命中したらしい!
ガクッ、と膝をついて停止するヴェガ。
敵AIによるジャミングが止んでいる。
通信が回復して、「敵ビッグマン、行動不能に陥りました」
と、フィオリヒト少尉が報告してきた。
即座に、敵ビッグマンのコックピットをハッキングし、パイロットが死亡していることを確認したらしい。さすがにネオスである。
「ひゅーっ」と、シエスタは息を吐いた。
アマラ少尉も、ほっとした口調で、「帰投しましょう!」と、通信を寄越す。
「ああ、そうだ。全機、帰投。敵ビッグマン1体を撃破した!」
シエスタは、嬉し気に叫んだ。
雨に煙る森が、今はむしろ祝福のように思えていた。
とうとう敵ビッグマン1体を撃破しました。




