66.南極戦線(5)
ライジングアースをブラックスワーンダーが追ってきますが……
ライジングアースを追ってくるブラックスワーンダー。
しかし、遅い。
一瞬で飛行形態に変形して、離脱するライジングアース。
どうやら、敵ビッグマンは飛行形態にはなれないらしいと斎賀は思う。
(ミューナイト、ライジングアースの1マイル圏内の無人機を検索しろ)
(やってる。ライジングアースの1マイル圏内には無人機が3機)
(それぞれの無人機に、こちらのAPF‐Jを5機ずつ差し向けろ。STSMの雨で敵を撃ち落す)
(了解。それと同時に敵ビッグマンに牽制のミサイルを発射する)
(やってくれ)
斎賀は答える。
今、ライジングアースは敵のマウント・ハンプトン基地の方角へと向かっている。
斎賀は迷った。
ミューナイトの気もちを無にしても、ここはユーマナイズを使うべきではないのか?
──シリウスが戦術核を発射するまで、あと15分。
──
「敵を倒すな」とは何なのか……と、ブラックスワーンダーのコックピットでセラフィアは思っていた。
あれは敵のクラッキングではなくて、マザー・ルーティーンだった。
ということは、ジェマナイはわたしの思考を矯正しようとしている?
敵と戦わず……いや、「敵を殺さずに戦え」、ということなのか?!
セラフィアのAI脳が混乱する。
しかし、コンマ数秒で最適化されるセラフィアのAI脳。
つまり……相手を自分の味方とすれば良いのだ!
NNN‐3! パイロットの生死は問わない。わたしはあれを鹵獲する!
──
(ミューナイト、敵の無人機はどうなっている?)
(ライジングアースの周囲を旋回しているが、しだいに近づいてくるようだ……)
(敵無人機に最接近される前に、APF‐Jで攻撃!)
(わかった)
マウント・ハンプトン山に近い雪原の上で、APF‐Jの群体が集合した。
まるで有機的な、生命の集団のようにも見える。
サイクロイド曲線を描いて、オルリヌイ・ルーチに迫るAPF‐J。
オルリヌイ・ルーチの機体は、APF‐Jよりもずっと大きいが、急所を狙えば良い。
クラッキングの影響が最小限に抑えられるように、STSMを発射。AAMよりも細かなコントロールができる。
ストレンジ・アトラクターのような曲線を描いて、オルリヌイ・ルーチに迫っていく、APF‐JのSTSM。
雲を抜けて、ミサイルが敵機体へと到達した。
1機、いや2機のオルリヌイ・ルーチが爆発する。
これで、ライジングアースの半マイル圏内に敵無人機はいない。
そのまま機首を傾けて、3機目へと向かう。
敵機からAAMが発射された。
しかし、これは電波のクラックで対応できる。
敵のAI照準システムを侵害して、進路を狂わせる……そのままブラックスワーンダーのほうへ。
ブラックスワーンダーはふいをつかれたが、なんなく回避する。パイロットが優秀なのだ。
斎賀は最後の手段を使った。
1機のAPF‐Jをそのままオルリヌイ・ルーチへと特攻させる。
爆散する、2機の機体。
これで、ライジングアースの1マイル圏内にいる敵は、あの黒いビッグマンだけとなった。
(ミューナイト……お前の気もちは害するが、あの兵装を使う。ユーマナイズだ)
(サイガ! あの武器は使わないって約束したじゃないか!)
ミューナイトが抗議する。
(ああ、だが、今この状況では仕方がない……それに、これはジェマナイの南極基地の人間を救えるんだ!)
(どういうことだ、サイガ??)
ミューナイトは混乱しているようだった。
ライジングアースの「ユーマナイズ」が洗脳兵器だということは、誰もが知っている。
しかし、それだけなのだろうか? と斎賀は思っていた。
この兵装には、もっと別の目的と効果とがあるように思える……
戦乱や戦争を収束させるような効果が。
斎賀はそれに賭けた。
(いや、説明は後だ。マウント・ハンプトン基地に進路を取れ!)
(了解)
ミューナイトはしぶしぶ従った。
ハンプトン山の大きな火口が見えてくる。
その中心に、敵のマウント・ハンプトン基地はある。有人だ。
斎賀は、その基地にいる全員を退避させようと思った。
味方のシリウスから、戦術核が発射されるまでに15分。そこから、目標に弾頭が到着するまでにおよそ10分だ。
25分あれば、基地からの脱出には十分な余裕がある。
斎賀は、この作戦をオバデレ准将の思うままの成果にさせたくはなかった。
自分たちは、人を救うために戦っているのである。
敵の人的資源を消耗させるために戦っているのではない。
──それを証明したかった。
敵のビッグマン──ブラックスワーンダーは、ライジングアースから30秒程度遅れている。
ハンプトン山の火口の上空で急旋回。
そのまま人型形態に変形して、空中に仁王立ちになる。
人型形態でなければ、ユーマナイズは使用できないのである。
(ミューナイト、決断しろ。ユーマナイズを使う!)
(サイガがそう言うなら仕方ない。上官はあなただ、命令には従う)
顔をゆがめて、ミューナイトが答えた。
ムルマンスクでの苦い記憶がよみがえる。
それとともに、自分たちのせいで死なせてしまったマリアの記憶も。
(大丈夫だ、ミューナイト。こちらのユーマナイズを全開にするとともに、全周波数帯で敵基地に退避を呼びかけろ! 今、人間関数はどれくらいの数値になっている?)
(わかった。人間関数の値は……今情報をあなたのHUDに送る。現在、87%だ……)
(たぶん、十分な数値だな。ムルマンスクのようにはならない。保証する。俺は確信している。この兵器は……)
と、交わしている会話にも余裕はなかった。
斎賀は作戦が成功する確信がないまま、ミューナイトはユーマナイズという兵装に納得できないまま、攻撃準備が整う。
ライジングアースの胸部ユニットが荘厳に光った。
コンマ数妙して、音波と光とが同時に射出されていく。
ユーマナイズの虹色の光だ。
そして、何らかのメロディーにも似た音波の塊。
それは人々の鼓膜を震わせる。
そして、それだけではない。
人々の心に何らかの「感情」を巻き起こすのである。その感情とは……?!
(こちらは、統合戦線の戦術兵器、特殊地上戦機A号。貴基地は目下、我々の戦術核兵器の攻撃目標となっている。施設に滞在している全員は、今すぐ退避されたし。繰り返す。こちらは、貴軍の人的損害を最小限に抑えたい……)
そんな文字列と音声を、ミューナイトはマウント・ハンプトン基地に向けて全周波数で送信する。
これで、伝わって!
──
(あれは、なんだ?!)
と、セラフィアは思った。
敵ビッグマン、NNN‐3の胸部が発光し、不気味な音波まで照射されている。
避ける間もなく、それにさらされるブラックスワーンダー。
その計器類が一瞬のうちに混乱し、リミッターが振り切れた。
(なんなんだ、これは?)
ムルマンスクからの報告で受けた、未知の兵装の効果だということは、瞬時に直感で分かった。
しかし、避けようがない。なかった。
人型形態のブラックスワーンダーは、戦闘機などに比べれば挙動が遅い。
音速を超えるような回避行動はできないのである。
虹色の光と音波に包まれる、ブラックスワーンダー。
そして、セラフィアの意識のなかにも不可思議な声が流れ込んできた。
(戦うな。我々は敵ではない……)
なんの声なんだ、とセラフィアは狼狽する。
モスクワ上空でヴォルグラスが受けた攻撃か? いや、やはり違う……
コンソールに次のような文章が表示された。
[WARNING]
Immediate withdrawal recommended.
Ascend the unit to the stratosphere.
Maintain altitude until enemy assault subsides.
Recovery subroutine already active...
要約すれば、今すぐ機体を成層圏まで離脱・上昇させなければいけない、という警告である。
セラフィアは息を飲んだ。
敵の攻撃は、それほど広範囲に作用するものなのか?!
リュシアス様がムルマンスクに巨大なドームを作ったのも、これが理由か……?
一体どんな兵器なんだ、あれは???
そのまま、セラフィアの操縦を待つまでもなく、ブラックスワーンダーは成層圏へと急上昇していった。
とうとうライジングアースがユーマナイズを使いました。セラフィアにはある理由で効きませんが……今後は効くかも? いや、実は効いているのかもしれませんね。^^




