65.南極戦線(4)
引き続きブラックスワーンダーとの戦闘です。
セラフィアは、試し打ちのミサイルを2発発射した。
ライジングアースのほうへと、吸い込まれるように高速で向かっていくミサイル。
と、急にその進路を変えて空中へと上昇した。
そのまま、ぶつかりあって自爆するミサイル。
(やはり、ミサイル攻撃は効かないか。即時にクラックされて軌道を変える……。ぎりぎりまで接近して榴弾ミサイルを打ち込むか?)
いや、それではカーネルの暴走に巻き込まれてこちらまで誘爆する可能性がある。
となると……接近戦で武装を一つ一つ削いでいく外ないのか……
セラフィアは、子ルーチンのAI脳で高速に考えを巡らせる。
しかし、敵のパイロットもネオスだ。
ミュー……なんと言ったか?
セラフィアは、ミューナイトがモスクワに潜入した際に感応したAI記憶を感じ取っていた。
そして、今対峙しているのが、そのネオスだとはっきりと分かる。
(味方ならどんなに心強かったか……)
と、セラフィアは思った。
その思考が、彼女の未来を変え、決めるものだとも知らずに。
と、その時──セラフィアのAI脳がクラックされた。
いや、そうではない。ジェマナイによるマザールーティーンである。
『敵を倒すな』
そんな言葉が、高速でセラフィアのAI脳の内部を流れる。
明滅する奇妙な図形。フラクタルな輝き。
美しいが……恐ろしい。
セラフィアははっとした。
(そうだ。わたしは、NNN‐3を奪還せねばならない)
……そんな思いが一瞬の隙を作ったのかもしれなかった。
ライジングアースがロケットパンチを射出する。
それを、両手で受け止めるブラックスワーンダー。
ライジングアースの手のひらでちりちりとビーム発射前の光が明滅する。
クッショニング・メタルを集中させて、敵のビームの照射を防ぐ。
一瞬でその反応を読み取ったのか、高速でライジングアースのロケットパンチが後退した。
がしりと、本体に収納されるロケットパンチ。
セラフィアは青ざめて思った。
(わたしは、負けるかもしれない……)
──
(ミューナイト、ロケットパンチだ! 敵が一瞬の隙を作った!)
(わかった、サイガ! 敵の動きが止まったのはわたしもわかった。射出する!)
(やれ!)
ライジングアースの両腕からロケットパンチが飛んで行った。
そのまま、ブラックスワーンダーの胴体へと衝突しようとする瞬間──ブラックスワーンダーの両手がそれを受け止める。
(ビーム、照射できるか!)
(わたしもそれを考えていた……でも、どうかな。分からない)
(そうだな。敵の防御シールドで反射するかもしれない)
(それよりも、クッショニング・メタルのようだ。このままだと、ライジングアースの手のひらが爆発する)
(なるほど、ロケットパンチを引け、ミューナイト)
(核の弾着まであと25分だ、サイガ)
ミューナイトが伝える。
(そうだな。そろそろ離脱するか……決着をつけないといけない)
(敵のビッグマンを倒すのか?)
(ん? おかしなことを言うんだな、ミューナイト。倒せる敵ならば倒す)
(そうなんだが、わたしも今おかしな感覚を感じ取ったんだ)
(おかしな感覚?)
斎賀は怪訝になって尋ねた。
(そうだ。『敵を倒すな』と、そんな声が聞こえた)
(ジェマナイがか? そんなことはありえない。気を取られるな、ミューナイト)
(わかった!)
コンソールの情報では、シリウスからは合計で3発の核が発射予定である。
ジェマナイのマウント・ハンプトン基地、他2か所の敵基地を無人機が発見・捕捉したらしい。
やはりサテライト群はクラックされていて、直接の通信は送られてきていなかったが……
短距離通信ネットは機能していて、文字だけの情報がライジングアースにも届く。
斎賀は迷った。
このままぎりぎりまで敵ビッグマンとの戦闘を続けて、直前に離脱するか……
あるいは敵防空設備を特定して攻撃するか。
いや、それでは敵ビッグマンが妨害してくる可能性のほうが高い。
敵にもイージス設備はあるだろうが……そろそろ無人機群のルーチンを書き変えて、地対空ミサイルの発射設備を捜索させるか?
5か所の敵基地のうち3か所が攻撃目標になっているのであれば、この作戦としては十分成功であると言える。
5か所すべての敵基地を破壊せよ……とは、斎賀は命じられていなかった。
斎賀は、2時間以内にこの作戦を終わらせるつもりだった。
1時間で敵の有人基地を特定する。
そして、残り1時間で敵の防空設備を攻撃・破壊。
今、目の前にいるビッグマンを倒すことが作戦の主目的ではなかった。
しかし、すでに後半の1時間のうち30分近くが経過してしまっている……
(これから無人機群に敵防空設備を攻撃させるのでは、遅すぎるかもしれないな?)
斎賀は思った。
今回発見した、敵のマウント・ハンプトン基地だけでも破壊しないければいけない……
ユーマナイズを使うか? と、斎賀は考える。
そこには倫理的な問題がある。そしてミューナイトの気もちも……
だが。
(ミューナイト、今ライジングアースの人間関数の数値はどれだけになっている? 俺のほうでは情報が錯綜していて、即座にデータを見つけられない)
(サイガ、今人間関数の数値は87%だ)
(そうか。十分な数値だな。俺の勘がたしかなら……ミューナイト、目の前のビッグマンをまけるか?)
(安全に離脱するということか? 難しいが、可能だろう)
(そうだな。ミューナイト、なんとかマウント・ハンプトン基地に接近しろ)
斎賀は、ミューナイトには作戦の要旨を明かさなかった。
(わかった。……だが、敵ビッグマンの攻撃を無力化するには10分はかかるぞ?)
(それだけの時間があれば十分だ)
……ミューナイトは演算体としては完璧だったが、AI脳はネオス同士で干渉されやすい。
敵の子ルーチンがどの程度のハッキング能力を持っているのかは未知だったが、自分の作戦の邪魔はされたくない。
斎賀は、ふたたびミューナイトにハイ・フリークエンシー・ソードをかまえさせる。
(ミューンナイト、敵に隙を見せろ。敵からの距離は200メートル以上を維持。そうすれば、敵は遠隔武器を使って攻撃してくる)
(なるほどな、サイガ。その思考を敵にハッキングされないように防御サブルーチンを作るよ……)
(やってくれ)
ライジングアースが複雑な挙動を見せる。
まず、相手から300メートルの距離を取る。ホバリングで後退。
その間、ロケットパンチを前に構えている。
こちらも遠隔攻撃の構えを見せるのである……
思惑通りだった。
敵のビッグマン、ブラックスワーンダーは肩に装備されているスパイラル・カッターを射出してきた。
ライジングアースがハイ・フリークエンシー・ソードを持ち直す。
高速回転して迫ってくるスパイラル・カッターに、ソードで打撃!
ハイ・フリークエンシー・ソードは、スパイラル・カッターの急所に切り込んで、2発をほぼ同時に撃退した!
空中で爆散する、スパイラル・カッター。
敵ビッグマンが、一瞬ひるんだように見えた。
(ミューナイト、ロケットパンチのビームを敵方向に向けつつ、高速で離脱!)
(了解!)
ライジングアースが中空に向かってジャンプした。
斎賀は常に作戦の最良の結果を模索しているのですが……




