63.南極戦線(2)
いよいよ、ライジングアースの前にブラックスワーンダーが現れます。
現在、核兵器を使用するにあたっては、国際条約に定められたルールがある。
すなわち、核使用の50分以前にそのことを相手側に通告しなくてはいけないのである。
防御態勢、および退避行動にむけた準備を整えるためだ。
その間、当然相手側では地対空ミサイルや衛星兵器での防衛体制を整えてくる。
核兵器は、この時代必ずしも効率の良い戦術兵器ではないのだ。
にもかかわらず、オバデレ准将は核の使用を決定した。
これは、「今後統合戦線は核兵器の使用をためらわない」という、ジェマナイへの宣言でもあった。
それ自体は、有効な政治的手段だ、と斎賀は思う。
しかし……
敵ビッグマンはぎりぎりまで防空体制を貫くだろう……
ライジングアースの装備に関する分析から、第3世代以降のビッグマンには放射線防御能力が備わっていることが明らかになっている。
ライジングアース自体も放射線に耐えられるが、それは敵ビッグマンも同じだ。
斎賀は、核の弾着ぎりぎりまで敵ビッグマンとの格闘が続くだろうと思った。
しかし、今は敵無人機群と対峙しつつ、その本拠地を探さなくてはならない。
斎賀は、ミューナイトにライジングアースの急旋回を指示した。
オルリヌイ・ルーチは、ライジングアースの周囲1マイル以内を旋回している。
ロックオンされているに違いないが、いまだに敵ミサイルは発射されていない。
あるいは、どこかの罠へと俺たちを追いこむ作戦か……?
斎賀はすばやく思考を巡らせた。
そして、無人機10機に戦術コマンドを入力する。
(ミューナイト、ライジングアースの軌道を水平に。高度を1000フィート以内に落とせ)
(了解。これから、南極大陸をくまなく捜査するんだな?)
(その通りだ。そして、敵の無人機も撃ち落す)
(分かった。残りの50機の無人機はわたしがコントロールする)
──
15分が経った。
オルリヌイ・ルーチがふたたびライジングアースのそばをかすめて飛んだ。
(やはり、俺たちをどこかへ誘導しようとしている……)
ライジングアースはシドリー山の方向へと、機首を向ける。
ジェマナイの有人基地がそこにあるのなら儲けものだが……いや、しかしそこは決闘場である可能性のほうが高い。
先日のアルスレーテ空爆では、推定で218機の無人機が飛来した。
そのうち58機は撃墜したが、まだジェマナイの南極基地には150機程度の無人機が存在していることになる。
そのすべてがスクランブル発進しているのか?
それよりは、敵ビッグマンの攻撃圏内へと俺たちを誘導しているのだろう。
斎賀は、そう考えて10機の無人機をライジングアースの前へと出した。
ジェマナイの無人機は、統合戦線のエル・グレコ並みの性能がある。
APF‐Jとの戦力格差は明らかだ。
しかし、ライジングアース1機で南極大陸へと乗り込むよりはずっと良い。
そのとき──5機のオルリヌイ・ルーチが、すれ違いざまにライジングアースにミサイルを発射してきた。
ミューナイトは即座に人型形態へと変形させて、ロケットパンチで応戦する。
ライジングアースの手のひらから出たビームが、敵ミサイルを粉砕していく。
この程度の攻撃であれば、ライジングアースにとっては蚊が戯れているようなものだ。
ビッグマン(ロボ)の戦力は圧倒的なのである。
(ひゅー)と、斎賀は口笛を吹いた。
斎賀は、10機の無人機に指示して、敵オルリヌイ・ルーチに対して各個撃破の態勢を取る。
APF‐JがSTSMを発射する。
ねずみ花火のような軌道を描いて、オルリヌイ・ルーチに迫っていくミサイル。
1機撃破した。そして、また1機!
ライジングアースは、飛行形態に戻ってシドリー山の周りを旋回する──敵基地はない。
……ということは、やはり罠なのか?!
(サイガ、前方に何かある。ハンプトン山の方向だ。火口のなかに施設があるのかもしれない……)
(良い目だ! ミューナイト、その方向に進路を取れ。無人機も平行して飛行させる。ハンプトン山の周囲に20機程度の無人機を展開!)
(了解。APF‐Jの何機かをおとりにする)
(頼む!)
ハンプトン山の火口内に敵基地が存在することを確認した。
熱源探知すると、いくつかの人影が映った。有人基地だ。
とすると、ジェマナイの南極基地の本部である可能性がある。
ライジングアースに再計算させる。
と、合計で200人程度の人間とネオスがいるらしい……
斎賀は、至急アルスレーテに通信を送るとともに、国際条約で定められた全周波数で通信を送った。
『こちらは、統合戦線アフリカ機構の攻撃兵器ライジングアース。貴基地は当軍の核を搭載した巡航ミサイルの攻撃目標となった。有人である場合、即座に退避行動を取られたい』
ジェマナイからは、次のような通信が帰ってきた。
『当方は、統合政体ロシア・アジア共栄圏のマウント・ハンプトン基地。当基地に武装はない。補給基地である。即時、核による攻撃を中止されたい』
(だまされるかよ……)と、斎賀は思った。
マウント・ハンプトン基地が敵拠点の一つであることは間違いない。しかも、有人だ。
無人機の発進拠点も突き止めなければいけないが、と斎賀は思ったが……
この基地がジェマナイの南極における拠点である可能性が高い。
「コールサイン、『地上戦機ライジングアース』よりアルスレーテ本部へ。敵有人基地を発見した。ジェマナイの南極における拠点である可能性が高い。至急巡航ミサイルによる攻撃目標として設定されたし。繰り返す。敵有人基地を発見した……」
──
しかし──その時だった。
ライジングアースの目の前に巨大な黒い影が躍り出た。
敵のビッグマンである。
その全高はライジングアースよりも高い。45メートルはあるだろう。
斎賀は息を飲む。
(ミューナイト、とうとうお出ましだ。ライジングアースに、あのビッグマンの情報はあるか?!)
(いや、サイガ。未知のビッグマンだ。ライジングアースに情報はない。たぶん、第4世代かそれ以降のビッグマンだろう、というライジングアースの分析結果が出ている)
(強敵、ってわけだね!)
斎賀は、ミューナイトに指示してライジングアースを人型形態に変形させた。
とうとうこの瞬間が来たのである。
インド洋上に展開している、原子力潜水艦シリウスからは、敵のマウント・ハンプトン基地にむけて、核の照準が定められているはずだった。
それがここに到着するまでに、敵のビッグマンを倒せるか?
あるいは逃げるだけでも良い。
ライジングアースに放射線の防御能力があるとは言っても、核爆発に巻き込まれたらひとたまりもないだろう……
いや、実際にそんな試験をしたことがあるわけではないから、確かなことは分からなかったが。
──
ブラックスワーンダーのなかで、セラフィアは思った。
(NNN‐3。これで2度目の対決か。前回は不覚を取ったが、今回は確保できるか?)
リュシアス一将は、はたしてわたしがNNN‐3を撃破したら、なんと思うだろうか?
機体の確保を第一の目的としてはいるが、そんなに簡単に鹵獲される機体とも思えない。
パイロットの生死は問わないと、リュシアス様は言っていたが……
わたしはたぶん、この機体を破壊する必要がある。
セラフィアも、ライジングアースとの対決にむかって身構えた。
戦闘は次回以降!




