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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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60/96

60.作戦説明

オバデレ准将とボワテ大佐がジェマナイ侵攻の作戦説明をします。

 アルスレーテ北空港にある、統合軍空軍第1大隊の第1大会議室では、ジェマナイに対する反攻作戦の説明が行われようとしていた。

 混雑した会議室のなかで、斎賀とミューナイトとは比較的前のほうの列の席を占めている。

 そこへ、シエスタとアマラ少尉とが隣に来て座った。


「ハロー、サイガ。元気にしている?」

 と、明るくシエスタが言う。

「ああ、元気だよ。シエスタは?」

「やだなあ、あたしのことは、アレーテ中尉で」

 と、シエスタ。

「分かった、分かった。調子はどうですか? アレーテ中尉」

「上々だね」

 ……そんな軽口である。


 会議室には、チーム・アマリやチーム・ンデゲのメンバーのほかに、輸送機部隊や補給部隊のパイロットもいる。

 アルスレーテ南空港の第2中隊やダルエスサラームの第3中隊から参加している士官たちもいた。

 会議室の席は半分ほど埋まっているが、それでも満席というほどではない。

 その分、なにか空気が重い。


 議題がなんであるかは、その場にいる皆にほとんど知れ渡っていた。

 海軍がすでに黒海に向けて移動しているのである。

 統合戦線の次の攻撃目標とは、ジェマナイの前線基地があるセヴァストポリになるはずだった。

 しかし、それを伝え聞いていない者は、次の布告に驚くはずだった。

 ──すなわち、セヴァストポリを解放せよ、と。

 セヴァストポリは、今はクリミア半島の半分ほどの地域をしめていて、ジェマナイの大規模なビッグマン基地がある。

 ジェマナイのヨーロッパ戦線のなかでも、突出した位置にあたっていた。

 そこには、6体のビッグマンが配置されているはずだった。


 会議室にオバデレ准将とボワテ大佐が入って来て、テーブル席に着いた。

「さて……」

 と、ボワテ大佐が切り出す。

「皆、楽にしてくれたまえ。今回の作戦の説明をこれからするのだが……」

 ダグラス・ボワテは、一度深く息をついた。

「その前に、先日の演習では良好な成果が出せたことを皆に報告しておく。あの演習の成果は、今回の作戦の重要なファクターとなる」


「重要なファクターってなんだろうね?」

 と、シエスタが隣にいる斎賀に声をかけた。会議室内はすでに暗くなっている。

「しっ! 黙っていないと、ボワテ大佐直々に怒られるぞ?」

「ああ、大丈夫だよ。大佐はそんなに険悪な性格じゃないから。まあ……サイガには別だけれどね」

「冗談は止せ」

 斎賀は、多少むっとしてそっぽを向いた。

 ダグラス・ボワテが続ける。

「どうも、皆にももうすでに噂として伝わっているようなのだが、我々の次なる目標はセヴァストポリである」

 と言うと、ボワテの背後にあるスクリーンにパワーポイントの映像が映し出された。

 古典的だな……と、斎賀は思う。


 ──説明が続いた。

 セヴァストポリとクリミア半島の地理。

 それが、統合政体ロシア・アジア共栄圏の国境に位置していること。

 敵の主力はビッグマンとなるということ。

 バグダッドやワルシャワに駐留している部隊から、ほぼ等距離にあるということ。

 これらの戦力に加えて、アルスレーテとダルエスサラームからも直接の援軍を送るということ。

 それから、巡航ミサイルや弾道弾は使わない、という説明がなされた。

 今回の作戦は、空軍が主力として行い、それに海軍の海兵隊が支援をする。

 目的は、セヴァストポリの無力化と、クリミア半島のジェマナイからの解放である。


 ボワテ大佐は言った。

「今回、我々がセヴァストポリを目標に選んだ理由は2つある。1つには、それが敵のビッグマンが所属する前線基地であるということ。それと、クリミア半島の人口が少ないということ、その2点である。すなわち、我々がクリミア半島を制圧しても、ジェマナイ側の人的損害はかぎりなく少なく抑えられる。こうしたことは、今後の和平交渉にとって重要である……」

 なるほどな。政治的な判断だ、と斎賀は思った。

 ジェマナイのアルスレーテ空爆からは、すでに3週間が経っている。

 たとえ戦争をするとしても、統合戦線側ではあくまでも平和裏に粛々と進める、というのが上層部の思惑なのだろう。

 自分がトムスクではなく、ムルマンスクなどに潜入を命じられた理由もなんとなく分かるような気がした。


「今回の作戦に参加するのは、イングレスα251機とエル・グレコ375機である。それぞれ、ワルシャワ基地とバグダッド基地、アルスレーテ北基地、アルスレーテ南基地、ダルエスサラーム基地、ケープタウン基地から出撃することになる。そのほか、輸送機64機と空中給油機17機、支援攻撃無人機197機も参加する。あとは海軍の部隊だ……」

「今回の作戦は、海軍との共同作戦なのですね?」

 会議室にいた士官の1人が立って、質問した。

「そうだ。海兵隊の精鋭部隊シーウルフが参加する」

 会議室内に「おーっ」という声が漏れた。

 シーウルフは海軍の精鋭部隊であり、これまでにもダマスカスの奪還作戦などに参加している。

 当然と言えば当然なのだが、空軍の面々にとっては心強い援軍だった。


 ボワテ大佐は続ける。

「セヴァストポリには、敵ビッグマンの量産型ヴェガ6体が配置されているものと見られる。しかし、この情報は不確かだ……」

 そうなのである。

 現状、民間から軍事まで、あらゆる通信は汎地球ネットであるサテライト群に依存している。

 しかし、サテライト群を局所的に、あるいは逐次的にクラックされた場合、兵器類の移動などは秘匿されてしまう。

 斎賀のようにクラック能力に優れた士官であれば、1個中隊の移動をまるまる情報網から隠す、ということもできてしまうのである。

 セヴァストポリには、敵ビッグマン6体がいる。

 しかし、それはあくまでも現時点で統合戦線側が把握している、把握しうる情報によるもの、ということだった。

 ジェマナイの側でも、当然統合戦線に工作員は送り込んでいる。

 この作戦もある程度はジェマナイ側に伝わるだろう……そのときに、どの程度の援軍が送られてくるのか。

 斎賀はぎりぎりの作戦だと思った。


「では、我々の先陣はライジングアースが切る、ということになるのですね? 敵ビッグマンを向こうに回すとしたたら、それが当然でしょう」

 と、また1人の士官が立ってボワテ大佐に質問した。

 しかし、ボワテ大佐はかぶりをふる。

「セヴァストポリ攻略作戦に、ライジングアースは参加しない。ライジングアースには、別の作戦に従事してもらう」

 会議室内がざわめいた。

 ライジングアースなしで、敵ビッグマンに対抗できるのか?

 敵のビッグマンは第2世代のビッグマン・ヴェガだとは言え、1体でイングレスα20機を相手にできる。

 ロボを欠いた我々の戦力はあまりにも脆弱なのではないのか……と、誰もの胸に当然の疑問が去来した。

 その一方で、斎賀とミューナイトとは、「別の作戦とはなんだ?」と考えていた。


 そんな疑問にたいして、ボワテ大佐の代わりにオバデレ准将が答えることになった。

「君たちも、先日のマダガスカル演習に際して、イングレスαおよびエル・グレコに新式のOSがインストールされたことは周知しているだろう。それが我々の切り札だ。このOSは『NooS』という名称で呼ばれている。今までの戦術AIとはまったく異なる論理で動いているAIなのだ……それが、今回の作戦の肝となる」

「『NooS』とは何ですか? 我々は詳細を知らされていません……」

 と、当然の疑問が士官のなかから上がった。

 しかし、それもオバデレ准将にとっては想定内である。

「この『NooS』は、我々統合軍空軍とRSAITec社が開発した独自OSだ。『NooS』は従来のようにサテライト群の情報を分析するだけの戦術AIではない。ジェマナイのAIネットと、我々統合戦線のネオスたちの集合的演算データから、最適の戦術・戦略を割り出すことができる、画期的なOSなのだ。我々は、これをギリシア語で『思惟』と呼ぶことにした。すなわち『ヌース』だ」

「それは、つまりどういうことなのでしょう……?」

「簡単に言えば、敵ビッグマンの次の挙動すら手に取るように予測できるということだ。『NooS』は、人とネオスの行動を予測し、最適化した戦術データをコンソールに出力する。それとともに、AAMなど誘導弾の弾道もコントロールし、目標への命中率を格段に上げることができる。このとき、AAMなどの武装は敵のクラッキングを即時に分析して軌道を改変・補正する。レーダー依存の戦闘から、OSがまさに指先で操るように、ミサイルの軌道を統合管理するのだ……」

 会議室内はふたたびざわめいた。

 つまり、俺がやっているのような逆ハックをAIがするということなのか? と、斎賀は思った。

 会議室内の士官たちにも、その基本概念は伝わったらしい。

 しだいに、感嘆の声が強くなっていく。


 斎賀は、この作戦は成功するかもしれない、と思った。

 しかし、それと同時に、戦争から「人間」が消えていく音を、彼はどこかで聞いていた。


(それにしても、俺たちに下る命令とは……?)

「NooS」という新しい戦力を与えられた統合戦線ですが、兵士たちにはそれが呪いとしてふりかかることになります。

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