6.空中の死闘
今回はメインキャラの一人シエスタが登場&斎賀のクラッキング能力が発動。
「ビッグマンの奪取?! 無茶だ、サイガ!」
ミューナイトは、ネオスには似合わない興奮した声で、斎賀にとりついた。
「離れろ、ミュー。俺だってこんな任務はいやだった。死を恐れないお前たちを巻き込むことも……」
斎賀が唇をかむ。
「わたしたちが、部品じゃないから?」
「そうだ。だが、今は電子戦の準備がいるな? ミュー、コックピットに行って、広範囲拡散型の通信機がないか聞いてこい!」
「それをどうするの?」
「通信にジャマーを仕込む。さっきはかろうじて助かったが……次のビッグマンの攻撃がどうなるか?」
「ビッグマンのスピードはほとんどノクティルカとおんなじだ。すぐに追ってくる」
「そうだ。だから、急ぐ必要がある。猶予は、そうだな。75秒だ」
「わかった。13秒で確認してくる」
「頼む」
──ミューナイトが走り去った。
それから、斎賀は格納庫内にある備品を探り始めた。
30秒で、なにか役に立つものを見つける必要がある。
背嚢の山をかきわけながら、斎賀は荒々しく周囲をひっかきまわした。
オフライン管制用のサーバーが出てきた。LEDのライトが赤く光る。電源も接続されている。オフラインだ。
斎賀は、サーバーのスイッチを入れた。
キーボードを開いて、急いで文字を入力していく。猛烈なスピードだ……
スホーイが、ノクティルカの側面をかすめて、地表に急降下していった。風圧で、期待がゆらぐ。
「サイガ、行ってきた、これだ」
ミューナイトが、格納庫の隅から広範囲通信機をひっぱってきた。
「よくやった。あと45秒……よし」
斎賀はオフライン・ネットから自律型のウィルス・プログラムを探しあてると、サーバーと通信機を接続した。
「これで、サテライト群の情報を妨害できる!」
「よくそんなプログラム、知っていたな、サイガ?」
「俺を甘く見るな? これでも、日本の秩父情報工科大学の出身だ……」
斎賀は、サテライト群のバックドアについては熟知している。
「サイガはエリートだったな?」
ミューナイトは、ほっと息をした。
輸送機の外では……
オーストラリア空軍の戦闘機が、ヴォルグレスと交戦している。
再び、白色の閃光。ミサイル同士の衝突だ。
また、30秒ほどの余裕ができた。
奥歯をかみしめながら、斎賀はキーをタイプしていく。
サテライト群のデータをミラージュ・データと置き換えて、一時的に索敵を妨害する。
スホーイに搭載されている戦術支援AIも、ビッグマンに搭載されているAIも、ともに衛星経由のデータを直接入力することで戦闘を最適化しているから、そのデータが狂えば、こちらにも勝機が生まれてくる。
あとは、イングレス部隊がどれだけ持ちこたえてくれるかだ。
「やっこさん……イングレスにてこずっているようだ。ミュー、分かるか?」
斎賀は、やや余裕を取り戻して、ミューナイトに尋ねる。
ヴォルグレスは、ノクティルカからすこし離れた場所を旋回している。
「イングレスαのなかに、1機ものすごい機体がある」
「パイロットは誰だ?」
「待って。シエスタ。……シエスタ・アレーテ。統合軍中尉だって?」
「聞いたことあるな。ボウレイメガミって呼ばれている女だ」
「スホーイ7機のうち、すでに2機は撃墜した」
「味方は10機もいるからな! 頑張ってもらわにゃ……」
「10機もいるのか? 何機生き残れるか?!」
「1機もいなくてもいいんだとよ、お偉いさん方はな!」
「そんな。空軍は消耗品じゃない!」
「お前もな!」
斎賀は、電子タバコを強くかみながら、即答した。
斎賀は、最後のコードを打ち終えて、マルチ・パーパス型のウィルスを情報ネットの管理ルーチンに上書きする。
これで、上空のサテライト群はAIに対して誤情報を提供することになる。
たとえば、戦術データを開こうとするとエロ画像が表示されると言うように……
ダミー・データは、斎賀はつねにポケットのなかのUSBメモリで携帯していた。
なるべく、正規の情報に近いフォーマットの偽データを用意しておくのである。
これによって、情報ネットの吐き出すデータは、真なのか偽なのかの判断が難しい状態になる。
つまり、斎賀はつねに即席のコンピュータ・ウィルスを持ち歩いているようなものだった。
「あとは、俺の才能を信じろ!」
13エクサバイトのAI誤認用データを、斎賀はすべてポータブル・サーバーのなかに流し込んだ。
──
今度は、オーストラリア空軍の戦闘機が1機爆散した。ヴォルグレスの振り下ろす腕に叩き落されたのだ。
現代では、対ミサイル兵装は、どの軍でも洗練されているから、うかつにミサイルを発射して位置を特定されるよりは、物理的攻撃のほうが効果があるのだ。ヴォルガは、そのことをよく分かっている。
要するに、この時代の戦闘では、ほとんど目視をあてにしていないのである。AIや計器による予測がすべてと言って良い。
ビッグマンの装甲は厚いが、急所がないわけではない。
統合戦線やオーストラリア空軍の優秀なパイロットであれば、すぐにその急所をついてくる。
撃墜されることに迷いはない。だが、ヴォルガは、この任務を失敗裡に終わらせることだけは、避けたかった。
(リュシアスがうるさいからな……ジェマナイは煙にまけるが)
「ちっ、せめてあと1体ビッグマンを送り出してくれれば……」
ヴォルガは悪態をついた。それでもコックピットのなかでどうどうと足を伸ばしている。
「リュシアス? 聞こえるか? 敵がどうやらBラインのなかに入ったようだ」
「戦況は確認している。その輸送機を落とせ」
「やってはいるんだがね……なんかエロ画像が出てくるんだよ?」
「エロ画像? 何をやっているんだ、お前は!?」
「敵にも、そうとうの手練れがいるようだよ……?」
ヴォルガは、苦々しくつぶやいた。
設定はいろいろと細かく考えましたけれど、戦闘はなるべく漫画的にと考えています。




