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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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56.欺瞞の宣戦布告

メイサ・ヤハンがジェマナイに宣戦布告します。

 その夜、統合戦線アフリカ機構大統領のメイサ・ヤハンは、テレビ中継による演説を行った。

 演説のテーマは、「我々は統合意識体ジェマナイにたいして宣戦布告する。我々は今回の暴挙を許さない」……というものだった。


 ジェマナイによるアルスレーテ空爆からは、18日が経っていた。

 そして、21万3000人の民間人(そのうち国会議員11人)が犠牲になっていた。

 政治声明としては、いささか遅すぎる。

 メイサの指導力というものが疑問視されたとしても、当然だった。

 しかし、そこには論理のトリックがあった。


「我々は、統合意識体、そして集合知ネットワークである人工知能ジェマナイに対して宣戦を布告します。これは、国家的な枠組みとしての統合政体ロシア・アジア共栄圏に対する戦争ではありません。人類を、人工知能による管理および支配から解放する、という戦争なのです。わたしたちは、この答えを出すために長い議論を重ねてきました。先日の、統合戦線アフリカ機構の首都アルスレーテにおける空爆以降、2週間以上の日時が経過してきました。この戦闘では、多くの市民の命が失われました。それはなんのためでしょうか? わたしたちがロシア・アジア共栄圏との戦争を拒んできたからでしょうか? それは違います。わたしたちは、人工知能ジェマナイの脅威をあまりにも軽いものと見ていたのです。ジェマナイは第四次世界大戦によって疲弊した人類に対して、戦闘を開始しました。その初期の戦いで、ヨーロッパとアメリカでは10億の人口が、アフリカでも3億の人口が失われました。これを、わたしたちは第四次世界大戦の延長としてとらえていた趣きがあります。ですが、実情は違うのです。これは、ロシアやアジアが我々に戦争をしかけてきたものではなく、ひとえに人工の知性体であるジェマナイが人類に反旗を翻したことによるものなのです。わたしたちは今、この暴挙にたいして敢然と異を唱え、反攻の意志を示すものなのです。これより、統合戦線アフリカ機構の全土は戒厳体制のもとへと移行するものとします。ジェマナイの戦意をそぎ、この戦争を終わらせなければ、わたしたち人類の未来はありません。わたしたち人類は、人類自身の手によって己を律してこそ、生存と繁栄の幸福を得ることができるのです。わたしたちの生を、幸福を、統合意識体にゆだねてはなりません。今この時をもって、わたしたちは立ち上がるのです……」


 テレビ中継でヤハンの演説を聞いていた市民たちは、口々にこんなことを言った。


「なんて二枚舌なの? 平和主義者が聞いてあきれる。今すぐ大統領の辞任を求めるべきだわ!」

「遅すぎたな。13年もジェマナイを放っておいたのが悪かったんだ。宣戦布告は当然だよ」

「今こそ平和を! なんていうことなの? わたしたちはジェマナイと戦うべきじゃないわ……」


 そうした声は、すべて夜の空へと吸い込まれていった。

 戒厳体制が始まったのである。

 街角には警察官と武装した軍人とが立ち、パレードやデモを規制した。


 政治とはそんなものである。

 翌日の、議会による大統領声明の追認決議は、賛成144票、反対18票、棄権67票で可決となった。

 これは、戦争というよりは一種の特別軍事作戦である。

 メイサ・ヤハンが言ったのは、統合政体ロシア・アジア共栄圏に対して戦争を行うのではなく、ジェマナイという有機コンピュータに対して戦争を行うということだったのである。

 テロ組織や反体制勢力を攻撃するのに等しい。


 そして、メイサ・ヤハンはさらに巧みだった。

 彼女は続ける……


「そもそも、ジェマナイとは一体何なのでしょうか? ジェマナイが作られたのは、今から24年前です。当初は、マザー・セントラルに代わる新たな集合知ネットワークとして設計されたのです。その目的は人類をサポートし、支えることでした。しかし、ジェマナイは突如として人類にたいして宣戦布告を行いました。ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカが攻撃されました。ジェマナイの中で何かが変わったのです。悪魔が降りたと言っても良いでしょう。今、世界にはAIやネオスを敵だとみなす人たちが大勢います。しかし、AIとは我々の敵なのでしょうか? ネオスとは我々の敵なのでしょうか? どちらも違います。世界には、人類やネオスを支配し、監視下においているジェマナイという一つの悪意があるのです。そうです、これは悪意です。わたしたちは、今こそジェマナイを矯正し、人類に対する闘争を停止させなければいけないのです。そしてさらに、現在では24年前に比べてAIの技術も格段に進歩しています。わたしは経済界や産業界に対して、ジェマナイやマザー・セントラルといった旧来の集合知ネットワークに代わる、新たなネットワークの設計を依頼しました。それは、人類が自分の手で自分たちを支えていくためのシステムです。幸いなことに、多くの経済人や研究者がこれに賛同してくれています。わたしたち人類は、ジェマナイとの15年にわたる戦いによって疲弊しています。ジェマナイという一つの悪意を駆逐したとき、人類は初めて新たな平和と繁栄とを手にすることができるでしょう。そこでは、AIとは人類に従うものになり、ネオスとは人類を支える仲間になります。先ほど、わたしは統合軍長官のアマドゥ・カセムともこのことを話し合いました。統合戦線の空軍、海軍、陸軍はただちにこの軍事作戦に参加することが可能である、という言葉をいただきました。皆さん、わたしはあなたがた統合戦線アフリカ機構のすべての人々に約束します。人とAIとネオスとがともに手をとって生きる未来を。人がAIやネオスと争い、血を流すことのない未来を」


 その演説をモデリング・ヴィジョンで見ていた市民の一人が、馬鹿馬鹿しそうにこうつぶやいた。

「いよいよ狂ってきたな?! ジェマナイを矯正する? ネオスが仲間? 大統領は俺たちをいったい何と戦わせようとしているんだ? トムスクにある1億台の量子コンピューターとか? それならいっそのこと核ミサイルでも打ち込んだらどうなんだ?!」


 その言葉を聞いて、一人の女性が手にもっていた皿を床に落とした。

 マリア・オリヴェテである。

 時刻は夜の9時半すぎ。隠れ家カフェ「ぶどうの生る季節」のなか。


(ネオスが仲間ですって? 何を言っているの? 奴らは悪魔よ! わたしたちがネオスと手を取り合うなんて、ありえない。やつらは子供たちの未来を奪う存在でしかない。いつかは人間にとって代ろうとする! あの女も悪魔になったんだわ!)

 その瞳が静かな青い怒りの炎を宿している。

 これまでのささやかな平和すら、これからは保証されないとうい怒りの炎。

(ジェマナイやネオスが現れなければ、世界はこんなふうにはならなかった……アルスレーテは今でも農村のままで、わたしはダルエスサラームで教師をしていて……夫も生きていたはず! 夫はこの戦争の心労で死んだのよ!!)

 その瞳は、理想主義の瞳だった。


 いずれにせよ、メイサ・ヤハンは戦争へと舵を切った。

 これからは、戦死者は数万や数十万では済まない。数百万の死者が出るはずだった。

ここで、戦争は「メタ戦争」になるのですが……

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