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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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54/96

54.マダガスカル軍事演習(5)

不穏な軍事演習その5です。

「人間関数……81%になりました」

 空母バルムンクの作戦室内で、エレーヌ・ムバラが声高に告げた。

「おお、さっきよりも高い数値だねえ」

 とは、オリヴィア博士。

「高いどころではありません。これまでで最高の数値です!」

 と報告するエレーヌは、いくぶん興奮している。

 作戦が成功裏にあるから……ではない。ミューナイトを気遣ってのことである。

 コパイロットの斎賀との相性が良ければ、それだけミューナイトが戦場で生き残る可能性は高くなる。

 ライジングアースがいかに最新鋭のロボだとは言え、敵戦闘機からいっせいに攻撃されればひとたまりもない。

 コックピットを残して不時着できればいいが、ジェマナイはそれほど優しくはないだろう。

 首都に攻撃をしかけてきた以上、すでにライジングアースの奪還は考えていないと思っていい。

 来るべきジェマナイの南極基地への攻撃にも、ライジングアースは参加するかもしれないと聞かされているが……


「エレーヌ。ミューナイトに通信を送れるかい?」

「通信は禁止されています。しかし、コンソールへのメール送信であれば……許可されるかもしれません」

「AIに許可を申請してみてくれる?」

「申請します。……許可、下りました」

「では、『LOVE』と送信。発信者名は、オリヴィア・トゥレアール」


 ──


 アマラ少尉は、自分の勝利を確信していた。

 しかし……その淡い機体はもろくも打ち破られることになった。


 無人機を最接近させてから、小回りの利くSTSMを発射。

 下方からは、シエスタ中尉の無人機がAAMを放って援護してくれている。

 このままいけば、ライジングアースは時間差的なミサイル群の攻撃を回避できずに、被撃墜──そういう判定になるはずだった。


 しかし──突如として、ライジングアースの脚部が震えたと思うと、足下に謎のフィールドを作り出している。

 そのまま、空中を飛び跳ねるように移動。人型形態のロボとは思えない挙動!

 ミサイル群は、謎のフィールドに吸い込まれるようにして爆散した。塗料の雨が無人機群に降りかかってくる……


 ──


 何が起こったのか。

 斎賀は、ミューナイトに命令した。

(ミューナイト、エアリアル・ステップを作動させろ! 足下の量子場でミサイルを粉砕する。それと同時にライジングアースは回避行動!)

(了解。分かった。やってみる)

(やってくれ!)

 思念通信なので、この間コンマ数秒かからない。人間関数が高い数値を出しているだけのことはある。

(サイガ、ライジングアースの挙動が変だ、頭部がいやいやをするように首を振っている!)

(違うな。ボディの防御機構だろう。このまま飛べ!)

(了解!)

 ライジングアースの脚部パネルが開いて、微細な粒子を放出するとともに、足場として量子場を作り出した。

 そこを足掛かりにして、ライジングアースは空中でジャンプ。そのまま、2段、3段と跳んでいく……

 ミサイル群は、複数形成された量子場のいずれかに吸い込まれて、爆発した。

 塗料の雨が下方に向かって散乱していく。

 模擬弾だとは言え、こんなものが命中寸前になることは、気もちの良いことではない。

 斎賀は、胸糞の悪いこの作戦に吐き気を感じた。

(ミューナイト、もう一度ロケットパンチを振り回せ。その間に俺が無人機をコントロールする!)

(分かった)


 ──


 アマラ少尉は、自分たちの攻撃が失敗したことを理解した。

 シエスタ中尉はどうしたろうか? この空域から離脱したのか?

 いや、中尉の無人機にもまだSTSMが残っているはずだ。

 バルバロッサ組とコンタクトしてからまだ25分経っていない。

 ダレンザグ中尉との戦闘があったとは言え、中尉が武装を使い切ってしまっている、とは考えにくい。

 しかし、自分のAPF‐JにももうAAMが2発ずつしか残っていない。


 アマラ少尉は、無人機群を散開させるように自機から遠ざけた。

(無人機を温存させるべきか、自機を温存させるべきか……そんなことを考えるとはね)

 たしかに、これはおかしな作戦だった。

 イングレスαやエル・グレコは無人機を誘導することに徹して、自分から攻撃してはいけない。攻撃は無人機のみが行う。

 犠牲にすべきものが、守られるべきものになっている──まるで、ジェマナイのようじゃないか?


 と。そのときだった。

 自機の両脇をライジングアースのロケットパンチがかすめる。

 回避行動はとったはずだ!

 しかし、ライジングアースのロケットパンチにも2マイル程度の射程がある。

 この演習での有人機からの攻撃は禁止されているが……ロケットパンチはライジングアースの本体の一部だ。

 ルール違反すれすれの行動をとってくる! 斎賀という男……

 そのまま、ロケットパンチに追われるようにして、きりもみ飛行。

(しまった!)

 機体がバランスを失って、海面すれすれまで急降下する……このままでは、墜ちる!


 ……

 しかし、そうはならなかった。

 ライジングアースのロケットパンチが、がっしりとアマラ・ンドゥベのイングレスαを抱え込む。

 そのまま、水平飛行。

 ん? ロケットパンチのつかみが緩い。アフターバーナーで離脱できるかもしれない!

 それにしても、今の攻撃……サイガ中尉は始末書ものだな。。

 と、アマラ・ンドゥベは思った。

 いや? 目の前のコンソール・パネルが何かの信号を出している。


> WARNING : ELEVATOR STRESS LIMIT EXCEEDED

> LOAD FACTOR 8.7G — CONTROL RESPONSE DELAYED

> POSSIBLE STRUCTURAL STRAIN DETECTED

> CONTACT SIGNAL : RISINGEARTH

> RESPONSE LATENCY... < 0.1s


(水平尾翼に異常? 過負荷がかかった……?)


 もしかすると、サイガは俺を助けたのだろうか?

 目まぐるしく、さまざまな思いが頭のなかを去来する。

 しかし、水平尾翼のわずかな異常など、敵パイロットに分かるのだろうか?

 まるで、ライジングアースが意志をもっていて、機械の挙動を正確に把握したかのように思われる。

 それともあのネオス……ミューナイトという少女なら、こんな真似ができるのだろうか?


 いずれにしても、自分はすんでのところで死を免れたのかもしれない。

 これからアルスレーテへの空港へは帰着できないだろうけれど、マダガスカルの空港になら降り立てる。

 自分は、ムラマンガの空港に帰投する。

 作戦終了後に、無人給油機が空中給油をしてくれる手筈にはなっていたが……すでに燃料の問題ではなくなっていた。


(悔しい結果になった……シエスタ中尉は、まだ戦い続けるのだろうか?)

 アマラ少尉は、低空飛行するイングレスαのコックピットのなかで思った。

 ──


(サイガ、ライジングアースがおかしな挙動をした。今、わたしはロケットパンチを操作していないのに、勝手に飛んでいって、イングレスαの機体をとらえた。どうやら、同機は故障しているらしいんだが……)

(ミューナイト……おそらく、それはライジングアースの意志だ。さっき首を振るような挙動をしたのは……これのせいかもしれない)


 ライジングアースのコックピットのなかで、斎賀とミューナイトとは驚いていた。

 ライジングアースの異常さを知るのは、何も今が初めてではない。しかし……


(サイガ、人間関数の数値が……)

(どうした?)

(91%になってる)

 ミューナイトが困惑したような調子で伝えてくる。

 その混乱は、斎賀にも伝わった。

(なんだって? 何が俺たちをそうさせたんだ?!!)

 ヘッドアップ・ディスプレイの内側で、額が汗をかいている。

 ミューナイトは、左手でなにかをしきりに検索している。

 彼女は、たぶんライジングアースに問うているのだろう。

 そこに答えがあるのかは分からなかったが……。

(検索したけれど、分からない。でも、ライジングアースがイングレスαを救ったのは、人間関数のせいじゃないかって思えるの……)

 ミューナイトが伝えてくる。

(なるほどな。そうかもしれない。俺もそう思うよ……)

 斎賀は、何か思うところがあるように同意した。

再び人の命を救うライジングアース。人間関数とは?

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