53.マダガスカル軍事演習(4)
不穏な軍事演習その4です。
それよりも少し前……
「やっこさん、いましたよ? ランジングアースです、中尉」
シエスタのイングレスαに突然通信が入った。
気づけば、シエスタ機の隣を平行して飛行しているイングレスαがいる。
声の主は、アマラ・ンドゥベだった。
陽気な声が聞こえてきて、シエスタはヘルメットのなかで思わず微笑む。
「ンドゥベ少尉か? 貴官の無人機はすべて無事なんだな?」
「そうです。……って言っても、まだ戦闘をしていませんからねえ」
「わたしは1機やられた。相手はダレンザグ中尉だった……と思う」
「うわっ! それは災難でした。中尉がやられるのも当然ですよ。奴はネオスのなかでも一等強い」
「ああ。だが、お返しに4機やりかえしたよ」
と、淡々と告げるシエスタ。
「ひゅーっ! それはイカしている。最高ですよ、中尉」
とは、アマラ少尉。
「ああ。しかし、今は目の前の敵に集中しよう。せっかくライジングアースがいたんだ。飛行形態らしいな、スピードからして」
シエスタは、コンソールに輝いている緑色の輝点を見つめながら、話す。
そのスピードはノクティルカ並みだ。
シエスタは、じりじりとした気持ちに自分がなっていくのを感じる。
ライジングアースは、その存在だけで威圧感がある。
アマラ少尉と自分の2人だけで立ち向かう、というのは無謀にも思える。
せめて、あと2機いれば……と、シエスタははっきりとした意識をもって思う。
それは、斎賀とミューナイトへの敬意からでもあった。
──
(ミューナイト、上空のイングレスα2機、目視できるか?)
(無茶言うな、サイガ。ネオスの目はいい。でも、両機とも1万フィートは上空へ行ったぞ?)
不満げなミューナイト。たしかに、ネオスにも肉体的な限界はある。
(分かった。無人機は各機の1マイル圏内につけているだろう。つまり、俺たちは囲まれた。たぶんな)
(四方八方からミサイルが降ってくるっていうことか?)
(なんかお前……余裕だな? ペイント弾とは言え、食らったら悔しい)
(あなたこそ余裕じゃないか、サイガ。作戦は考えているの?)
(ああ、まずロケットパンチを射出しろ。手のひらのビームでミサイルを撃ち落す)
しかし、ミューナイトは同意しない。
(ビームかく乱チャフが出ているんじゃないのか? 足の遅いミサイルにはビームは効かないぞ?)
(そうだな。それは考えられる。でも、まずはパンチを出せ。有線で不規則に移動させる)
(分かった。ジグザグに出せばいいんだな? 後出しじゃんけんみたいだ)
(冗談が言えるなら、上等だよ。これが演習で良かったがね……)
そんな思念通信を、斎賀とミューナイトとは交わす。
今、2人の人間関数はどんな数値になっているんだろう? と斎賀は思った。
冗談を言い合える中で、2人で1体のロボを操縦する。
まるで、昔見たアニメの世界のようだ。
しかし、と斎賀は気持ちを引き締める。
(この戦闘、俺の判断よりもミューナイトの判断の方が優先するかもしれない……)
──
上空8000フィートで反転したシエスタは、アマラ少尉もやはり機体を旋回させたことを確認する。
無人機は、それぞれ親機の1マイル圏内に散在している。
これをライジングアースの周囲から囲い込むように接近させる……ライジングアースは9機の無人機に囲まれるわけだ。
隙がないわけではないが、今のところこれがぎりぎりの作戦だろう。
シエスタは、試しにチディ・マベナ大尉とイーヴリン・ケイン中尉に通信を送ってみた。
返答はなかった。
サテライト群がかく乱されている。さっきアマラ少尉と通信ができたのは、どうやら偶然らしい。
シエスタは、きりもみ飛行で海面にむかって降下する。
相手にも無人機群がいるのだ。しかもたぶん、まだ無傷だろう。
機体の周囲にミサイルかく乱チャフをまきながら、スピードは落とさない。
いかに機体幅を広く見せるか……それで生死が決まる。
(さっき、ライジングアースは海面に向かっていった。今はきっとこちらを仰向きに捕捉しているだろう……)
シエスタは、斎賀の行動を読んで思った。
操縦しているのはミューナイトだが、指示を出しているのは斎賀だろう……
そしてやつは、電子戦能力に優れている。
今、アマラ少尉と無線が通じないのも、斎賀の仕業に違いない。
数秒後、目視でもライジングアースをとらえた。ロケットパンチを射出している。
ビームでミサイルを撃ち落す気だろうか?
しかし、コンマ数秒のずれでAAMはそれを回避できる。こちらにもチャンスはあるのだ……。
──シエスタは無人機に指示を出して、AAMをいっせいに発射!
海面すれすれに飛行させていた4機の無人機が、逆放射状にライジングアースへと向かっている。
それとほぼ同時に、アマラ少尉も上空からAAMを打ち込んできた。
20発近いミサイルが、ライジングアースへと向かっていく。
あとは、敵からの攻撃を回避すること……シエスタは機体を水平飛行へと移行させた。
──
(ミューナイト、敵がミサイルを発射させた!)
(分かってる、サイガ。AAMのスピードならビームかく乱チャフは意味がない。ビームで撃ち落とす!)
ミューナイトはまた左手でコンソールを操作。ロケットパンチのリミッターを解除する。
ぐるぐると高速回転しながらビームを発射する、ライジングアースのロケットパンチ。
次々に敵ミサイルが爆散していく。残り数発……
が、ビームを逸れたミサイルが5発、ライジングアースへと向かってくる!
ライジングアースは突如飛行形態へと変形して、ひたすら前へと加速。
上昇するライジングアースのわきを、敵ミサイルがかすめて過ぎた。そのまま海面に衝突して消滅する。スピードが仇になった感じだ。
ライジングアースは、高度5000フィートで再び人型形態に変形。ロケットパンチを収納する。
(サイガ、ロケットパンチのビームだけでは、ミサイルを完全に回避できない。マグネティック・シールドを試してみる)
(そうだな。それと、今のお前の判断は良かった。人型形態のままなら撃墜されていた)
(ありがとう、サイガ。わたしたち、息があってきたな……)
(そう願うよ)
そう思う間もなく、今度は下方からSTSMの雨が襲ってきた。
──シエスタの奴、用意周到に計画していやがるな? いや、それとも僚機のパイロットも優秀なのか?
──
無人機にSTSMを撃たせたのは、アマラ少尉だった。
直前、つかの間通信機能が回復して、シエスタから通信が入ったのだ。
(斎賀中尉は常にサテライト群をクラッキングしているだろうが、シエスタにも電子戦能力がある)
逆にコードをハッキングして、通信帯域の狭間を見つけたのだろう。
コールサイン「亡霊女神」とともに、文字列がコンソールに表示される──「STSM」
それだけの通信を送るのであれば、数秒かからない。
海面への降下の途中で同時に自分に通信を送ってきたのだろう。
なるほど、中尉はライジングアースにはAAMは効果が薄い、ということを逆に知っていた。
上空に誘導して、小回りが利くSTSMで撃墜する、という作戦だ。
とすると、シエスタ中尉はふたたびおとりのAAMを放ってくるな?
アマラ少尉は自分たちの勝利を確信した……が?
シエスタとライジングアースとの直接対決です。これくらいロボを追い込めるくらいじゃないとね……




