51.マダガスカル軍事演習(2)
不穏な軍事演習その2です。
(なんだ、こいつら? 普通の無人機じゃないのか? なにで攻撃していやがる! AAMじゃないのかっ?!)
シエスタは、一瞬戸惑った。
APF‐Jには小型熱源探知式ミサイル(STSM=スティズム)というものも搭載できる。
もしくはそれにやられたか? でもこの距離で?!
それから、我に返る。
(相手もだが、こちらも相手の武装については聞かされていない。1機撃墜された。それはたしかだ。なら、4機でやるしかない……)
シエスタは360度の包囲を目視で確認する。
こんな時、レーダーはあてにならない。
ちょっとした雲の異変、ちょっとした航跡の残像から、敵を把握するのである。
上、下、左、右……敵の姿はない。
サテライト群のレーダー・データもかく乱しているだろう。
と……その時、シエスタの機体の0.1マイル圏内を超音速でエル・グレコが駆け抜けていった。
その衝撃波が、シエスタの体にも伝わるような感じがする。
(敵はミサイルを撃たなかった。なぜ? ミサイルの誘導源を捕捉されて、返り討ちにあうのを避けたの? なら、相手は相当の手練れだ!)
シエスタクラスのパイロットとなると、ミサイルが発射された瞬間、その軌道を逆演算して誘導源となる目標を特定できる。
AI戦闘が主な現代ならではの戦術だ。
ミサイルは「気づかれずに」発射されなければ、確実に撃墜される。本体ですら。
そのことを敵もよく分かっていると見える……
(ちっ、あの戦いぶり、ダレンザグ中尉じゃないだろうな??)
ダレンザグ中尉というのは、統合戦線の空軍のなかでも、一抜けで優秀な成績を残しているパイロットだった。
ネオスで、16歳である。二つ名は「鉄の心臓」。
エル・グレコ1機で、イングレスα3機分の戦果を挙げるとも言われていた。
それが、この演習に参加しているとすると……?
レーダーを確認する。後方1マイルに機影。超高速のターンでこちらに反転してくる。
敵は、敵そのものではない。
敵がコントロールしている5機の無人機だ。
敵の本体自体は攻撃してこない。
しかし、先ほど通過した機体は無人機5機を引き連れているようには見えなかった。
もう一度レーダーを確認。……いた!
敵本体からそれぞれ1~2マイル離れたところに、無人機の編隊がいる。
(ちっ、こちらを囲い込もうとしていやがる!)
シエスタは、心のなかで叫んだ。
フルスロットルでイングレスαを最大速度にするとともに、無人機を散開隊形にする。
マダガスカル島が眼下に見えた。
1秒、2秒の遅れが命取りだ。
高速でコンソールを操作する。
また、見慣れない文字が躍った。
[console]
> Gemanai denied
> Neos denied
> retrying cognition...
(なんだ、こいつ?! わたしの命令を拒否するのか?!)
シエスタは焦った。
AIコンソールが、サテライト群に接続しての敵機探索タグを受け付けない。
エラー表示が100行~200行にわたって出力される……愕然とするとともに、呆れるシエスタ。
(OSがわたしの意図通り反応しない! なんだこの演習はっ?!)
後方の敵は、依然としてシエスタのイングレスαを追ってくる。
しかし、ミサイルは発射しない。
AAM程度であれば、イングレスαの攻撃探知システムで即座に補足することが可能だ。
こちらから、かく乱チャフをまくなり、迎撃用のミサイルを発射すればミサイル同士で命中させることもできる。
問題なのは、敵がAAMによる波状攻撃をかけてきたときだ。
敵は、いまだにシエスタとの間合いを取っているように思われる。
たぶん、後方とともに前方をとったとき、一斉攻撃をしかけてくるのだろう。
シエスタは一度上空に逃げることにした。
空の戦いでは「上」を取ったほうが勝ちだとも言われている。
しかし、シエスタはそうした戦いの「常套手段」に納得していない。
チャンスは「上」にもあれば「下」にもある。
生きるか死ぬかの境目を決めるのは、いかに「その状況になじんだか」である。
一見して不利な状況でも、周囲の状況が正確に認識できているのであれば、生き残れる確率は格段に高くなる。
だから……安易に「上」を目指す自分を、シエスタは口惜しいと思った。
敵の手のひらのうえに乗せられている……
ブゥン、と戦術コンソールがうなった。
垂直ぎりぎりの角度から、シエスタは機体を水平飛行へと移行させる。
よかった……無人機は無事についてきてくれている。
とは言え、わたしは確実に捕捉されているな……と、シエスタは口惜しい思いを噛み締める。
そのまま5マイルほどの距離を飛行させる。
時間の問題なのか? 演習程度でこんなに心がぎりぎりになるとは!
シエスタは、今は相手は確実にダレンザグ中尉だと思い始めていた。
……
こうなったら、無人機を散開させて、イングレスαのスピードで敵を振り切るしかない。
シエスタは、無人機群の各機を半径1マイル内に散開させたあと、最大スピードでインド洋に出た。
海が明るい。しかし、シエスタはそんな光景を楽しんでいる余裕はない。
ダレンザグ中尉(?)のエル・グレコが追ってきている。彼の機体と正面から相対する態勢になれれば。
急激な加速度でシエスタの機体が揺れた。
体の節々に重力が加わる。
反転したシエスタの機体に対して、無人機群は天頂方位で合流するようにプログラムする。
操縦桿を握る腕以上に、コンピューターのコンソールを操るシエスタの指が目まぐるしく動いた。
(やった! 敵(ダレンザグ中尉?)の機体を正面に捉えた!)
シエスタは深く息を吐き、戦術コンソールに一つのコマンドを入力する。
それは……自動操縦でランダムに自機の機体を左右振動させる命令だった。
ダレンザグ中尉(?)が操る無人機群から、ペイント弾のミサイルが発射される。
(へっ! 攻撃はできないけれど、ミサイルの撃墜はしてもいいってね!)
シエスタの駆るイングレスαがAAMを発射! 全弾が無人機からのペイント弾に命中する。敵の武装はたぶんもうこれでない!
即座に、シエスタの機体に伴う無人機部隊が航空から直滑降のように、水面すれすれまで飛来。
敵の無人機群にペイント弾を撃ち込む。4機に命中!
(はっ、このシエスタ・アレーテ様をなめるんじゃないよ!)
……ってもまあ、あたしがおとりになったからこそ、この作戦は成功したんだが。
ダレンザグ中尉(?)の機体が急ターンして、マダガスカル島方面へと戻っていく。
模擬戦とは言え、着陸できる陸地や母艦がなくなってしまえば、その機体は墜落するしかない。
シエスタは、あらためてこの演習の恐ろしさを悟った。
攻撃する手段がなく、防御に徹するしかない状況がこれほど危機的だとは……
今この瞬間も、僚機は敵(とみなしたエル・グレコの部隊)と接触しているはずだった。
(それにしても、ライジングアースと戦っているのは、いったい誰なんだ……??)
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