50.マダガスカル軍事演習(1)
不穏な軍事演習その1です。
アルスレーテ北空港の滑走路上で、シエスタ・アレーテは不穏な気分に包まれていた。
さきほど、100機の無人機がマダガスカルにむけて発進していった。
イングレス部隊が発進するのは、その15分後からである。
なにが気に入らないんだろう、とシエスタは思った。
まず、この演習の目的が分からない。
イングレスαは攻撃に加わることなく、無人機の誘導のみを行う。それも各機5機もだ。
これまでにも、演習で無人機の誘導を行うことはあったが、自分たちがただの「標的」になる、といったことはなかった。
「いったい何のための戦いなんだろう?」と、シエスタは思う。
それから、先日イングレスαに新しいOSがインストールされたことも、シエスタの気分を重くしていた。
今までと若干、コンソールの表示が異なる。
それに、常にどこか分からないネットへの通信が行われている。明らかに何かある。
しかし……ボワテ大佐に確認してみても、明確な答えは得られなかった。
発進の時間が刻々と近づいてくる。
チーム・アマリのリーダー、チディ・マベナの通信が入った。
「シエスタ。お前がチーム・アマリに参加してから初めての訓練だ。気を抜くな? それと、突出しないようにしろ」
「分かっています。分かってはいますが……」
「なにか疑問があるのか?」
「今回の訓練、なんのためのものなんでしょう?」
率直な疑問を口にする。
「我々が無人機のコントロールをして戦況を優位に進める。そのための訓練だ。近く、ジェマナイの南極基地への攻撃があるかもしれない」
「それは聞いていますが……」
シエスタは口ごもる。
「聞いていればいい。今回は空軍のみでの演習だが、実戦になれば海軍とも連携することになる」
「では、なぜ海軍は今回の演習に参加しないんでしょう? ……いえ、分かりました」
「分かったら、無駄口は叩くな。演習場でまた会おう」
と、チディ・マベナ。
「分かりました、マベナ大尉。オーバー」
通信はそれで切れた。
いよいよ、発進の時刻の1分前となる。
アルスレーテの空は快晴だった。しかし、マダガスカル上空には低気圧があるという。
演習にとっては最悪の天気だ。いや……それだからこそ、演習のしがいがあるのか……
シエスタのイングレスαが発進する。
「ぐっ」と、いつものようにシエスタは息を飲みこんだ。
これからマダガスカル上空で無人機群と合流し、自分の操作する無人機群を探さなくてはならない。
今回の演習に参加する無人機APF‐Jは、イングレスαの4分の3ほどのスピードが出せる。エル・グレコとほぼ同じほどのスピードだ。マダガスカルまでは約40分で到達する。
視界がじょじょに曇ってくる。まずは……敵部隊の確認だ。
僚機のイングレスαのアマラ・ンドゥベから通信が入った。
「よお、シエスタ中尉。よろしくやってます? この演習、謎だらけだけれど、お互いベストを尽くしましょう」
「分かっているわ。あなたこそ、今回は突出しないようにね?」
「了解。やれやれ……嫁さんにもよく言われるんですよねえ。絶対に生きて帰ってきてね、って。今回もです」
「今回は死なないだろう、演習なんだから。実弾も使わない」
「そうは言っても、女心はデリケートですから」
「たわごとを言っていないで、任務に集中しろ?」
「了解。オーバー」
通信が切れた。
視界に一瞬の晴れ間が入り、雲間光が美しく海に向かって下りていた。
毎度のことながら、シエスタはほうっと息をつく。
パイロットをやっていて、これほど気もちが高揚する瞬間はない。
緊張の糸がほぐれて、心のなかのわだかまりが外に向かって吐き出されたかのようだった。
いよいよ無人機を探す。
いた。1、2、3、4……5機。
端末を操作して、それぞれのAIネットと自機のAIサブルーチンとを同期させる。
画面に、以下のような表示が出た。
[console]
> tracing......Neos Factor
> compiling......human error (detected)
> crosslinking......Gemanai archive / Neos residue
> result......∅ (undefined cognition)
> retrying cognition...
> retrying cognition...
(なんだこいつ? ジェマナイのアーカイブを参照している?)
シエスタは、再度不審にかられるが……そんなことにかまけている暇はない。大方、無人機とリンクするさいの手続きなのだろう。
機体を大きく旋回させて、自分の無人機群のほうへと近づいていく。
マダガスカル島は、すぐ目の前だ。
イーヴリン・ケイン、マクシム・オコンジョらも無人機とコンタクトしたらしい。
コントロール・パネル内の「Linked」という表示が次々にグリーンになっていく。
アルスレーテ北空港を発進してから、およそ25分が経過した。
シエスタの機体は、ふたたび雲につっこむ。
チディ・マベナから、チーム全員に対して通信があった。
「チーム・アマリ。我々はこれから、敵無人機群とエル・グレコを捜索する態勢に入る。敵は、空母上で待ち構えているのか、すでにマダガスカル近海または上空で待機しているのかも不明だ。さらに、敵には我らがライジングアースもいる。相手を無人機だと思ってなめるな? 気を引き締めていけ! それでは、各機自己の判断にて索敵を続行せよ」
「了解」
「了解」
「了解……」
ふうっという息を、アマラ・ンドゥベが吐いた。
それから5分──
イーヴリン・ケインから敵機発見の一報が入る。
その通信は全機に共有された。
どうやら、敵無人機群はマダガスカル上空に散開して展開しているらしい。
半径およそ50マイルほどの円のなかで、かなり無秩序に飛行していることが分かった。
シエスタは操縦桿を強く握った。
コンソールを操作して、無人機5機を自機の0.5マイル上下左右前の位置に展開させる。
(くそっ、やっぱりイングレスαが速すぎるな。無人機との間合いを取るのが難しい……)
シエスタは、心のなかで独りごちた。
それからさらに5分。最初の敵との接触があった。
敵は前方3マイル。
索敵回避サブを作動させているが、サテライト群との連携で位置を特定する。
シエスタは、「よっしゃあ、やれやれ。初のご対面というわけね?」
コンソールの画面が黄色く発光する。
敵ミサイルが発射されたのである。
シエスタは回避行動をとる。
と、ミサイルが急旋回して1機の無人機へ……
ペイント弾のピンクの塗料が、無人機表面にぶちまけられた。1機被撃墜。
撃墜判定を受けた機体は、マダガスカル島のムラマンガ空港に帰投しなければならない。
残りあと4機。
シエスタは唇をかんだ。いや、心のなかで。臍を噛む思いとは、このことだろう……。
演習とかやっている場合じゃないだろ……っていうのがなりたたない戦争です。




