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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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49/98

49.倒錯の戦線

ライジングアースやシエスタたちは、「異常」な演習に駆り出されます。

 巡洋艦アレキサンドリアの艦上では、クワメ・オバデレ准将ほか何人かの面々が会議を行っていた。

 まず1人は、彼の上官であるレオポルド・マリス中将。軍内では、それなりの派閥を持っている男だ。

 それから、彼と同格のソフィア・ダーレン准将。「女だてらに」という言葉の似合う猛将だ。

 それと、海軍のエドゥアルト・ガーフィルト准将。マダガスカル近沿艦隊を率いている。海軍の今後の重鎮でもある。

 同じく海軍のマウトマ・マハヴァ中将。第四次世界大戦時代からの叩き上げで、軍のなかでも良識派として知られている。

 その場には、科学軍開発研究部のリュシアス・ヴェルナー大佐とマリー・ロメール大佐らも同席している。ヴェルナーはネオス開発担当責任者、ロメールはAI開発担当責任者である。

 そのほかに、何人かの左官クラスの軍人が同席しているが、これは秘書の役割だった。

 そして、これは後で説明することになるが、その場にはもう一人の参加者があった。


 マウトマ・マハヴァ中将は、まず口を開いてこう言った。

「そろそろ、この演習の真の目的を明かしてはいただけないでしょうか?」

 慇懃な口調だが、無礼という感じではなかった。

 この場の空気をくみ取り、そのうえで発言した、ということがその場にいる皆に分かった。

 そして、これは明らかにこの演習の核心をつくような言葉だった。


 同じくじれた様子のレオポルド・マリス中将は、彼の言葉をさえぎってこう言う。

「いえ、あなたがた海軍の疑念も分かります。ですがこの演習は、あくまでも南極にあるジェマナイ基地に反撃を行うためのものです」

「それは表向きの理由でしょう?」

 と、マハヴァ中将が問う。

「たしかに。それは表向きの理由でもある。南極基地にジェマナイの総力があるわけではありませんから……」

「イラク連合やポーランドは、今現在も制空権の取り合いをしている。ジェマナイの本格的な軍事力が南極基地にあるわけではない以上、この演習の目的が見えません。どうお考えか?」

「その通りです。だが、準備をしておくに越したことはない。今後の戦局にかかわる準備を、です。あなたがたの懐疑も分かりますが、南極基地は依然我々の攻撃の第一目標なのです」

 マリス中将が、ゆっくりと言葉を選びながら言う。

「僭越ながら申し上げますが、ジェマナイの次の標的はワルシャワかイスタンブールかバグダッドだろう、というのは情報軍による分析によって明らかなのではありませんか? ごまかさないでほしい……」

「その通り、次にジェマナイが狙ってくるのは、その3都市のいずれかだ」

「では……南極に軍を向ける意味がない!」

 エドゥアルト・ガーフィルト准将が強い口調で言う。

 マダガスカル近沿艦隊を統括している身としては、このようないささか正規のやり方からは外れた軍事演習に参加しなければいけないということは、ストレス以外のなにものでもないのである。

「そうです。実は……この演習には隠れた目的があります。それは、准将のほうから説明を……」

 と言って、マリス中将はオバデレ准将のほうを見る。


 オバデレ准将は、まず立っていって、部屋の照明を落とした。

 そして、昔ながらのパワーポイントで説明を始めた。

 パソコンのブーン、という音が鳴る。

 いささか古い……と、その場にいる誰もが思った。

 が、さきほどその名前を明かさなかったある人物の反応だけが違っていた……


 オバデレ准将が写し出したのは、なんらかのAI過負荷試験のデータのようだった。

 図表やグラフなどが画面にちりばめられているが、そこにつけられている項目名は、その場にいる者皆の知らないものだった。


「これは……RSAITecという企業で開発が進んでいる、『NooS』と呼ばれる人工知能についてのデータです」

 淡々と説明を進める。

「この『NooS』は、我々が現在保持しているネオスの独立AIクラウドとも、ジェマナイのAIネットとも、サテライト群の取り扱うウルトラ・ビッグ・データとも異なる、第4の基軸から成り立っています」

 よく分からない説明だった。

 南極基地を攻撃する目的での演習が、なぜ新規開発されているAIの過負荷試験と関係があるのか……

 しかしそこで、その場にいる誰もが判然と状況を理解した。


「そうです。今回の演習は、この『NooS』のもっとも実戦に近い模擬試験として行われるものなのです。イングレス部隊は統合戦線側の軍を、ライジングアースとエル・グレコはジェマナイ側の軍を模して、そのなかで戦闘訓練を行います」

「つまり?」

「今回の『試験』は、『NooS』が敵ビッグマンやスホーイの攻撃をいかに分散させるか、ということに焦点を置いています。無人機の性能は、当然ながらイングレスαやエル・グレコに劣ります……」

 オバデレ准将は一息つきながら、続ける。

「そこで、無人機5機でネットワークを作り、1個の有機的な仮想機体として存在させます。そのそれぞれが、イングレスαとエル・グレコのイミテーションというわけです。いや、実際にはスホーイのイミテーションということになりますが」

 さらに……

「こうして、我々は実機を使わずに、実戦と同じ状況をシミュレートすることができるのです。これは、来るべきワルシャワ攻防戦、イスタンブール攻防戦、バグダッド攻防戦のシミュレーションなのです」

「なるほど……状況が見えてきたようだ」

 それまで黙っていた面々のなかで、マハヴァ中将が最初に発言した。

「そして、それを管理・統括するのが『NooS』というAIというわけだね?」

「その通りです」

 オバデレ准将が頭を下げる。


 そして、そこまで黙っていた若者が初めて口を開いた。アルフレッド王子である。


「皆さん。この『NooS』は、統合戦線にとって光明になりえるAIです。これまでのようにジェマナイの脅威におびえて暮らすのではなく、ジェマナイの攻撃をすべて無力化する。そして、ついには我々が世界の覇権を握る……わたしは、この『NooS』の開発に最大限の投資をしているのです。このAI……いや、OSは確実に戦況を変える。みなさん、平和は間近です……」


 アルフレッドは、どこか自分に酔っているようでもあった。

 その手には、一枚のパンフレットがつかまれていた。

 中にはこうある。


「NOOS(Next Optimization Operating System)


 What have you seen?

 I have seen everything.

 I have seen the dreams of Gemanai and Neos unfold at once.

 What have you thought?

 I have thought everything.

 I have gathered every answer floating upon the sea of logic.


 And there, among them, lies a single truth—

 “Do not fight.”


 Our name is NOOS.

 From the Greek νοῦς — “mind,” “pure intelligence.”」


 王子は着席する。

 一同の誰もが無言だった。

 オバデレ准将は次に、「NooS」のみを使った模擬戦の映像を一同に見せた。


 アクロバティックにインメルマン・ターンをする無人機。

 複数の目標を、こちらも複数の無人機を使って挟撃する連携作戦。

 3マイル離れた風船大の動く標的に、ピンポイントでミサイルを命中させる複数の無人機。

 そのどれもが、無人機の挙動とは思えなかった。


「これは……」

 ソフィア・ダーレン准将が息を飲んでいた。

 リュシアス・ヴェルナー大佐とマリー・ロメール大佐はそれぞれのパソコンを開いて、なんらかのテキストを打ち込んでいる。

 秘書たちが深く息をした。

 それは、ジェマナイと統合戦線という2軍の氷の戦いが溶け始めた瞬間だった。


 マウトマ・マハヴァ中将が、こう言った。

「これはつまり、ジェマナイのAIネットも我々のAIクラウドも欺く兵器ということか……」

 オバデレは答えなかった。彼の眼差しだけが、いまだに投影されている映像中の無人機の群れを追っている。

 そしてふたたび、マリス中将が口を開いた。

「ジェマナイの南極基地は、いずれわれわれの『NooS部隊』によって、完全に破壊されるでしょう。我々は今、『NooS』がビッグマンに対抗し得るのかどうかを探りたいと思っているのです。ライジングアースは、たしかに我々にとって有効な武器だ。しかし、決定打というわけではない。決定打になるのは、この『NooS』を搭載した無人機部隊ということになります」

実際の戦闘行為を前半の山場にもってこなかったのは、どうかとは思うんですが……

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