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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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48/98

48.空母バルムンク

引き続き、オリヴィア・トゥレアールのエピソードです。

 統合戦線の巨大原子力空母バルムンクの艦上にて。

 斎賀とミューナイトとは、オリヴィア博士のやや後方に並んで控えていた。

 目の前には、当の博士、それからボワテ大佐とバルムンクの艦長である、エティ・スタンレーとが立っている。


 ボワテ大佐は険しい表情で、元上官であるオリヴィア・トゥレアールを迎えていた。

 ──オリヴィア・トゥレアールが統合軍を離職したのは、3年半前だった。

 それ以来、博士はネオス開発のアドバイザーとして、細々と統合軍と接してきている。


 ダグラス・ボワテは、オリヴィア博士がミューナイトの設計者である、という事情を知っていた。

 だからこそ、旧知の間柄であるこの元上官に、この演習への参加を懇願したのである。


 彼女には、この作戦におけるミューナイトの管理……いわば健康管理を託したかった。


 実は、オリヴィア・トゥレアールが軍を離反したその事情にも、ミューナイトが間接的に関係していた。

 ……ミューナイトがイングレスαのパイロットとなったことを受け、「ネオスは戦争の道具ではない!」、という怒りを彼女が持ったのだ。

 オリヴィアは、ミューナイトにどこか他のネオスとは違うところがあることを知っていた。

 そして、彼女の能力の底にディープ・コーディングという能力が潜んでいることまでは、突き止めた。

 しかし、軍がその先の研究を続けることを、彼女に許さなかった。

 オリヴィア・トゥレアールは、その当時統合戦線技術軍長官であったアマドゥ・カセムに直接辞表を叩きつけに行った、と言われている。


 オリヴィアは、いきなり苦々しい声で、こんなふうに切り出した。

「オバデレはどこにいるのかしら?」

 呼び捨てである。

「准将は、巡洋艦アレキサンドリアに乗艦しています。本作戦の総責任者が彼ですよ」

 緊張しながら、ボワテ大佐が答えている。

「ふん。あの青二才がね?」

「わたしこそ、青二才でした」

 とは、ボワテ大佐。

「よく分かっている。あなたは青二才だったわ。でも、良い青二才だった。覚えている? わたしが言った言葉を?」

「はい。まだ、そのようにはなっていないと、わたしは判断しています……軍人として」

 固い言葉である。

「そう。あなたは良い軍人でもあった。わたしは別ね……」

 そう言って、オリヴィアは笑った。

 それが、「どこか角が取れた」という印象をボワテ大佐に与えたのだったが……


「艦長。お世話になります。このネオス……ミューナイトをモニタリングする設備は、艦内にそろっているのですね?」

 今度は、オリヴィア博士はスタンレー艦長にむかって尋ねている。

「もちろんです。博士の身の回りと、艦内の設備については、こちらのヤーボ・クリュゲ少尉がご案内いたします」

 即座に駆け寄ってきたヤーボ・クリュゲ少尉が、オリヴィア博士に向かって敬礼する。

「分かりました。よろしくお願いね? 少尉」

 と、オリヴィア博士。こちらには、にこやかな笑顔である。


 どうやら……剣のある人物、というわけではないらしい、と斎賀は思う。

 それまでじっと彼らの会話を観察していたが、ボワテ大佐とオリヴィア博士とは旧知の間柄のようだった。

 それも、かなり親しい関係にあったように思われる……

 空軍出身ではない斎賀にとっては、それ以上のことは、この場面からは読み取れなかった。

 そのそばで、ミューナイトは自分の「母親」であるかもしれない人物の言葉を、不思議そうに聞いている。

 その横顔を、一瞬斎賀は魅力的だと思った。


 ──


 将校用個室に案内されたオリヴィア博士は、つきそってきたヤーボ・クリュゲ少尉に対して、

「ミント・ティーはあるかしら?」

 と、尋ねた。

 博士のお気に入りの飲み物であるらしい。

 少尉は、

「食堂に聞かなければ分かりませんが、可能であれば用意します!」

「紅茶でいいわ。ミント・ティーがなければね?」

 と、オリヴィア博士。

 すっかりくつろいでいる様子なのは、自分自身も軍隊上がりだからだろう。

 狭い部屋も苦にはならない、といった調子だった。

 実際、彼女の研究室は空母の士官用部屋よりも窮屈な場所だった。

 そんな懐かしさが、ふっと博士の心に去来したのであろう。

 オリヴィアは、サイド・テーブルの上に置かれているパンフレットを、なんとなく手に取った。


 ──


 斎賀とミューナイトとは、娯楽室のなかでコーヒーを飲みながら、先ほどの博士の印象を話し合っていた。

 ちなみに、当然だが居室は別々である。


「博士は……なんだか、ボワテ大佐と親しいようだった」

 と、斎賀が言うと、ミューナイトはしばらく考え込みながら答えた。

「わたしも、博士には何度か会ったことがあると思う。その時には、わたしの生みの親だとは知らなかったが」

「ネオスは親を知らないのか?」

 斎賀が考え深げに言う。

 とくに、ミューナイトの「親」とも言える人物に会った後では、なおさらのことだった。

「軍人の場合はとくに。民間ではそうではないらしいが……」

「それは、俺も知ってる。で、ボワテ大佐との関係は?」

 肝心の疑問だ。作戦にも関係する。

「博士は、たぶん大佐のかつての上官にあたる。というか、プロジェクトの責任者とメンバーという関係だったと思う」

 ミューナイトが、考え考え言う。

「博士にそんな過去があるのか……」

「サイガは情報軍出身だからな。空軍では、博士の名前はそれなりに知られていたようだよ?」

「それ、今知ったのか?」

 斎賀が、微妙なツッコミをした。

「わたしだって、データベースを検索しなければ分からないことはある」

 むっとしたように、ミューナイト。

「なるほど。記憶の神様ってわけじゃないのな?」

 斎賀は、頭の後ろで手を組んで、ミューナイトのほうを見やった。


「親」に再び出会えたからか、彼女の表情はいつもよりも幼いもののように見える。

 それが、たぶんこれから行う軍事演習にとっては良い結果をもたらすもののように、斎賀には思えてもいた。

 何よりも、彼らの「人間関数」の数値が上がるだろう。

 きっと、AIが「己を知り、他人を知る」ほど、AIと人間との関係は深まっていく。

 それが、ライジングアースの「人間関数」として反映されるのだ。

 それがどんな結果をもたらすものかは斎賀にとっても未知だったが、斎賀とミューナイト以外のメンバーが搭乗した際のライジングアースの機動を考えると、その数値が高いに越したことはないように思える。おそらく、ライジングアースの機動能力も上がっているのだろう。──ライジングアースには人格がある。


 斎賀は、ミューナイトに向かって微笑しながら言った。

「後で、博士と個人的に話してみるか?」

「もしそうできたら、わたしもうれしいと思う」

 ミューナイトは明るく答えるのだった。

ミューナイトの親とも言える人物だけあって、彼女には今後とも大きな影響を与えますが……

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