47.意外な出会い
ミューナイトを設計した女性科学者が登場します。
マダガスカル島、ムラマンガの空港を飛び立った無人機群が、航跡を描いて海側へといっせいに飛んでいく。
アンタナナリポからその姿は見えなかったが、上空を1機のビッグマン(ロボ)が飛行していくのは見えた。
ライジングアースである。
ライジングアースはそのまま西へと飛び、アンタナナリポ郊外のある邸宅の前の畑地に着地した。
手には、要人護送用のカプセルを抱えている。
統合戦線が、この1週間で急ごしらえした、ライジングアースの装備品である。
この地で、斎賀とミューナイトとはある一人の高名な人物を迎えることになっていた。
彼女の名前は、オリヴィア・トゥレアール博士。
統合戦線側のネオス研究の第一人者である。
「やあ、これはすごいな!」
と、博士はライジングアースを見上げながら言った。
その傍らには、大きなスーツケースが鎮座している。
これから、統合戦線の空母へと向かうのである。
オリヴィア・トゥレアールは54歳。偏屈者で、大の自動車嫌い、飛行機嫌いとして知られていた。マダガスカルの地元、マザンドゥレ出身。
それがなんの因果か、というか当然か、統合戦線の軍事演習のアドバイザーとして招かれているのである……。
斎賀の明言した通り、この軍事演習はチーム・アマリ、チーム・ンデゲ、ライジングアースと無人機群によって行われる。
エル・グレコや戦闘ヘリコプター、空中給油機なども参加するが、主力はイングレス部隊とライジングアースである。
どのようなルールか?
それを斎賀たちは4日前に知らされた。
アルスレーテを出発する直前である。
ルールは以下の通り。
統合戦線の部隊は2軍に分かれる。
一方のシルフィード組には、チーム・アマリ、チーム・ンデゲのイングレスα20機と無人機100機。
一方のバルバロッサ組には、ライジングアースとエル・グレコ19機、無人機100機。
この総力をもって模擬戦をするのだが、ルールが微妙に変わっている。
というのは、イングレス部隊とライジングアース、エル・グレコ部隊は、それぞれ無人機の誘導のみを行い、実戦には加わらない。撃ちあいは無人機群によって行われる。
実弾の代わりにペイント弾を用い、限りなく実際の戦闘を再現する。
ペイント弾を撃ち込まれた無人機は撤退となる。
無人機以外の攻撃機は、ミサイルの撃墜のみ可能とする。
こんなことをして何をしようとしているのか、斎賀には分かるような気も分からないような気もした。
要は、統合戦線側はできるだけ人的損害を出したくないのである。
それは……先日のジェマナイによる攻撃も同様だった。
統合戦線とジェマナイ、双方の思惑は同じだと思われる。
しかし、それならば上層部はなぜこんな入り組んだ作戦を立てるのか?
……まるで、演習以外の隠れた目的があるとでもいった具合だ。
それに、演習前にイングレス部隊には、新しい戦術戦闘AIシステムが組み込まれていた。その名も、「NooS」という。
ギリシャ語で「知性」「思惟」を意味する言葉らしいが……正式名称は、「Next Optimization Operating System」だ。
新鋭企業の、RSAITec社が開発した戦術戦闘汎用AIだと、斎賀は知らされている。
(明らかに、統合戦線はイングレス部隊を味方側、俺たちを敵側としてこの演習を敢行したいようだ……)
そんなふうに、斎賀は考えた。
そして、そのことをミューナイトにも伝える。
ミューナイトの答えはそっけなかった。
「統合戦線にはロボが少ないからな……わたしたちを敵ビッグマンに見立てたいんだろう?」
それは、ネオス流の無知のように、斎賀には思えた。
話が逸れたが……斎賀とミューナイトは、ライジングアースのコックピットからワイヤー・ロープを使って博士の前に降り立った。
「初めまして、オリヴィア・トゥレアール博士。統合軍空軍のシンイチ・サイガ中尉です。こちらは、ネオスのミューナイト少尉」
「知っているよ? このロボのパイロットなんだろう? 今は」
「え?! 今は?!」
斎賀とミューナイトとは驚いた。
とくにミューナイトが驚いていた。自分の存在は民間人には秘匿条項のはずなのである……
ネオスについて説明すると、ネオスには軍に所属する者もいれば、民間人として生活している者もいる。
統合戦線側では、ほとんどのネオスがジェマナイのAIネットからは独立したスタンド・アローンAIとして脳機能を保持している(ただし、ハッキングやクラッキングの危険性がないわけではない)。
民間で勤務するネオスたちは、いわば養子のような形で一般人に払い下げられる。
しかし、軍属となるネオスは、一括して軍の管理下となる。
戸籍はなく、当然ながら苗字もない。
──ネオスたちは、一応人造人間(アンドロイド/ガイノイド)だが、一応の人権を有してはいるのである。その処遇は、それぞれの立場によって異なるが……
オリヴィア・トゥレアールは、そのネオス研究の第一人者だった。
「そして、今は、とは?」
とは、斎賀。
「今は……そのライジングアースのパイロットなんだろう? 空軍からの連絡で知ったよ。でも、それ以前にはイングレスαのパイロット。それ以前は軍の事務職。軍歴は、そうだな……5年だ」
「どこでそんな詳しい情報を?」
あわてて斎賀が尋ねる。
しかし、オリヴィアの答えは意外なものだった。
「当然ださ。わたしが知らないわけがない。ミューナイトを作ったのはわたしなんだもの。彼女は、わたしが設計した17体目のネオスさ……」
ミューナイトはあっけにとられていた。
「本当なんですか? あなたが……わたしの、お母さん?」
手を、思わず握りしめている。
斎賀は気づいたが、見るからに唇をふるわせていた。
「おやおや。その感情、あなたらしいねえ……ミューナイト。ミューナイトという名前をつけたのも、わたしだよ」
「わたしの名付け親でもあるんだ?!」
ミューナイトは一種の感動をもってそう答える。
「あはははは。当たり前じゃないか。わたしは、ネオス1体1体を自分の子供のように設計しているんだよ? 名前くらいつけるさ。おかげで軍からはにらまれるわけだけれどね。まあ、偏屈なのは今に始まったことじゃない。この性格のせいで、今はマダガスカルから出もしない。ま……わたしは自動車と飛行機が大嫌いだからね」
2人ともあっけにとられていた。
こんなところで、思わぬ人物、ミューナイトの生みの親を迎えることになろうなどとは、想像もしていなかった。
「ところで、ボワテ大佐は元気? わたしと初めて会ったころは、まだほんの坊やでねえ」
そのボワテ大佐が、明後日から始まる合同軍事演習での、斎賀たちシルフィード組側の指揮官だった。
「ボワテ大佐もご存じなんですか?」
「当たり前だよ。あたしを誰だと思ってるんだい? 元統合戦線技術軍のオリヴィア・トゥレアール博士だよ?」
博士は、いかにも当然というように言ってのけた。
タクシーがわりをつとめるライジングアースです。




