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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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45/105

45.王子の思惑

束の間の休息のあとにアルフレッド王子が現れます。

「なあ、さっき言っていた整備班の話、どう思う?」

 と、休憩室に向かって歩きながら、斎賀はミューナイトに尋ねる。

「操縦するのはお前だからな……」

「命令するのはサイガだろう?」

 ミューナイトはこちらを見ずに言う。

「それはそうなんだが、いざというときにはお前のほうが反応が早いだろう?」

 斎賀としては、ミューナイトとの連携を少しでも強めておきたい……

 とは思うものの、自分のなかにある壁を意識しないわけではない。

 ライジングアースの装備について話をする、ということは、作戦について話をする、ということよりも心理的な距離がある。

 そのことを、重々承知していた。

 しかし、ミューナイトはそのことには気づいていないようでもある。


「そうだな。パンチにビームをつけるという話は、正直微妙だと思った。あとのは良いと思う」

「他にもいろいろと考えているらしいぜ……って、パンチはなあ。でも、一理あるだろ?」

「パンチがパーになったら、威力が落ちる」

 と、ミューナイトは言う。

 それに対して、斎賀は思わずジョークで答えるのだった。

「それもそうだな。たしかに一理ある。でも、女性の平手打ちは痛いぞ?」

 ミューナイトは微妙な表情をした。


「それよりも、サイガ……わたしはユーマナイズは使いたくない」

 しばらく歩いているうちに、今度はミューナイトのほうが切り出した。

「ああ。たしかに、あれは恐ろしい兵器だった」

 もちろん、そんなことは情報軍としての経歴と勘で、よく分かっている。

「しかし、先日の空爆では現に使わなかっただろう?」

「あれは、味方がいるから無理だった。わたしが言っているのはそうじゃない。今後一切使いたくない、ということなんだ」

「その気持ちは分かるよ。お前がネオスだとしてもな……。あれは使ってはいけない兵器かもしれない。俺も、お前の考えに賛成だよ」

 斎賀がそうした気持ちを吐露したのは、今回が初めてのことだった。

 また、ミューナイトもユーマナイズのことは決して口にしなかった。

 あれが、楽観的な兵器に転用できる武器だったとしても、そこにはなんらかの痕跡が残る。悪の兵器だったという痕跡が。


 そうした彼らの会話は、急に途切れた。

 休憩室で思わぬ人物が待ち受けていたのである。──アルフレッド・ウィンザー王子だった。


 王子は、コーヒーを片手にうつむき加減に考え事をしていた。

 そっと、邪魔をしないようにと自販機に近づいた斎賀たちに、王子が声をかける。

 王子の持っているコーヒーの香りが、ふっと香った。

「サイガ中尉、久しぶりですね。復興作業は順調に行っていますか?」

 当たり障りのない話しぶりだった。

 しかし、王子の話がそれで終わるようには思われない。


 明らかに、王子たちは斎賀とミューナイトとを待ち受けていた。

 空軍施設に民間人が入れる、ということは特例がなければできるはずのないことなのである。

 アルフレッド王子が政界に転向した、などという話は聞いていない。

 亡命市民としての、「多少金のある暮らし」で満足しているはずだった。

 将来的に政界入りする、という話がないわけではないだろう。

 しかし、軍相手に動きだすには早すぎる。

 明らかに、軍上層部の誰かの意向がある。

 ボワテ大佐か? いや、階級が低すぎる。

 では、オバデレ准将か? これはありそうな気がする。

 あの、得体のしれない聡明さと手腕とを備えている准将を、斎賀は一種警戒するような気持ちで捉えていた。


「もちろん、順調に行っています。……もうすでにアルスレーテ中央駅は復旧しましたし、市庁舎跡の瓦礫の撤去も進んでいます。今回は……20万人以上の犠牲者が出ました。王子もそれにお心をお痛めですか?」

 斎賀は、わざと核心を外すような質問をした。

 王子が平和のことだけを考えているとは、とうてい思えないのである。

「力をもつ者には義務がある」と、王子は言った。

 先日の会見で、斎賀は王子は政治に興味を持っているらしいと考えていたが、もしや軍事にも興味があるのではないのか?

 ミューナイトは、あからさまに不信という表情を見せている。


「正確には、21万3000人ですね。この数は今後もっと多くなる……」

「33年前の第四次世界大戦や、15年前の開戦当初の被害に比べたら、ずっと少ないでしょう?」

「これからもそうだと、思われますか?」

 と、王子。それから隙を作らずに、こう畳みかける。

「ジェマナイは何を考えているのでしょう?」

 王子が逆に質問した。それに対して、斎賀もまた質問で返す。

「人類の絶滅を考えていると……王子はお考えなのですか?」

 そう言う斎賀に対して、王子は快活な笑顔を見せて笑った。

 一瞬……「無辜」という言葉が、斎賀の胸をよぎる。

「現在、ジェマナイが支配しているロシア・アジア共栄圏には15億人から20億人の人間が存在していると見られています」

「すべて、チップによる監視下ですが……」

 王子はうなずく。

「ジェマナイが考えているのは、人類の絶滅ではないでしょう。すでに、人類の3分の2を支配下においているのです。ジェマナイは、その先のことを考えている……」

「それは、統合戦線を滅ぼすということ?」

 その斎賀の問いにたいして、王子はあいまいに言葉を濁した。

「どうでしょう? サイガ中尉はどうお考えなのですか? ライジングアースに乗って、あれと戦うあなたたちは」

 アルフレッドは、その「あれ」という言葉に特別のニュアンスをこめた。


「ジェマナイは……その先は言えません。守秘義務があります」

 斎賀は慎重に答えた。王子は納得していない。そのことは痛いほど分かった。

「ライジングアースには、ユーマナイズという武器がありますね?」

 アルフレッド王子は、突然話の矛先を変えた。

 そして、それが核心だった。

 斎賀も、初めてそれに気づいて愕然とする。

 上層部が王子にそこまでの情報を明かしているとは……

 先日のアルスレーテ空爆では、ユーマナイズは使用できなかった。

 とすると、上層部はライジングアース奪取の段階からの話を、王子にしているということになる。


「わたしたちは、あれを使う気はありません……。先ほどもミューナイトとその話をしていました」

「それは、味方が犠牲になるから?」

「それもあります」

 が、斎賀は違うことを言いたい。

「あれは、人の権利に反する武器です。そうでしょう? 王子」

「敵はネオスですよ、サイガ中尉」

「ネオスではありません、ジェマナイです」

 斎賀は食い下がった。

 王子は、その反応もすでに織り込み済みという顔付きをしている。

 斎賀が再び不審にかられる。

 さらなる核心が、そこから先にあった。

「ジェマナイは……ライジングアースをわざと奪取させたのではありませんか?」

「な、何を言い出すんです、王子?!!」

 斎賀は色を失った。

 そんなことが考えられるとは……いや、実際にそれはあり得た。斎賀はこれまで考えたことはなかったが……

 あの奪取作戦はうまく行きすぎた──その考えが、今ものすごい勢いで斎賀の脳内を駆け巡る。


(とすると、ジェマナイは意にそわないネオスの支配者たることを止めて、純然たる人間の支配者になろうとしている……???)


「あなたたちの人間関数を100%にしてほしいのです」

 冷静すぎるほど冷静に、アルフレッドが言う。

 俺たちは何と戦っているのか……と、斎賀は思った。

19歳とは思えないアルフレッド・ウィンザーですが……。闇キャラ確定です。彼がこの後の物語にどうからんでいくか……

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