44.ライジングアース改修
整備班の面々が登場します。
「やっぱり、ギュイ~~ンンっていう感じでしょう?」
と、サモ・オクンジが言う。チーム・ンデゲから回されてきた整備兵である。
ちょっと、ロケットパンチ信奉者というところがある彼は、パンチにも武装を追加したい、と言い出した。
それに対して主任が、「いや、だめだろう」と首を振る。
なかなか議論は進まない。
斎賀とミューナイトとは呆れてそれを見ている。
ライジングアースの整備班としては、主に次の3人が担当することとなった。
整備主任のハルク・エンベルク大尉。スウェーデンからの難民であり、巨漢で無愛想ながら、面倒見は良い。
技術担当のティア・ラモン少尉。博士号を持っているが、オタク女子と言われたい願望を持っている。ちょっと変わり者。
そして、先ほどのサモ・オクンジ軍曹である。
それぞれ年齢は、34歳、28歳、22歳。
堂々巡りの議論を繰り返して、ちっとも先に進まないのである。
まず、サモ・オクンジが「ライジングアースに搭載したい武器」の提案をする。
それに対して、ティア・ラモンはダメ出しをする。「もっと現実的に考えて!」
ハルク・エンベルクは、「やればできると思うが、時間がなあ……」と結論付ける。
要するに、ここでも時間との戦いがあるのである。
ライジングアースの改修の期限は、一週間と決まった。
それまでに、3人はなんとしても新しい武装と新しい防御機構を備えさせたいと思っている。
「ロケットパンチの指からビームが出るっていうのはどうですか?」
サモが提案する。
「それは現実的ね……」
と、ティア。
「まずは費用の問題だ」
と、主任。
彼らの終わらない議論を聞いていた斎賀は、とうとうしびれを切らして言った。
「あのう、それで、結局何が出来るんです? それと俺たちは何をすれば……」
「君たちは!」
と、ハルク・エンベルクはびしっと言う。
「黙って見ておれば良い。そして、ライジングアースの通常の機動について、我々にアドバイスをしてくれたまえ!」
「つまり、一切おまかせって言うことですか?」
「そういうことだ!」
サモ・オクンジがピース・サインを作った。
「そういうことね」
ティア・ラモンも同じ意見であるらしい。
斎賀は、彼らにライジングアースの改修を任せるということが不安になってきた。
胸の奥のどこかで、「飛行中に爆発」といった事態に対する想像が膨らむ。
ミューナイトもやはり寒気がしているのか、唇を真っ青にしている。
しかし、進まないながらも議論は遅々とした歩みを続けているらしかった。
「ライジングアースの手のひらから、ビームが出るようにしましょうよ。この改修は比較的容易ですよ?」
「そうね? ロケットパンチの有線回線にもう2本、ビーム発射と制御の回線を組み込めばいいわ」
サモとティアが言った。
「そうだな。ビーム装置自体は、エル・グレコから転用できる」
──と、ハルク。
「エル・グレコ、ビーム装置あったんすか?」
「ある。だが、使っていない」
「なんでまた?」
「費用がかかる!」
現実的な意見が飛び出した。さすがに主任だけある。
ハルク・エンベルクはむっすりとした表情でうなずいている。
何事にも動じない、といった風格がそこにはある。
部下の無理な提案にも、現実路線を提示して対応している。
「なるほど」
「ライジングアースになら、特別に良いっていうことね?」
「そうだ。ライジングアースの改修と運用にはいくら使っても良いと、上は思っているからな。あくまでも、特別にだが……」
「なるほど」
サモは、さも納得がいったというようにうなずいた。
「で、ライジングアースには何を追加するんです?」
斎賀がふたたび尋ねる。
「そうだな。まず、ロケットパンチの手のひらにビームを装着する。これで、有線ビットのような攻撃が可能になる」
「あの、アニメのビットですか?」
「そうだ。ブラウ・ブロのやつだ」
と、エンベルク主任は思いのほかのオタクぶりを発揮して言う。
「まあ、ブラウ・ブロ!」
ティア・ラモンが手を叩いた。
斎賀とミューナイトは再び呆れる。しかし、先が気になった。
「それで、あとは……」
「エアリアル・ステップだな」
主任が言った。
「それはどういう武器ですか?」
「武器ではない。これは、ライジングアースの足元に量子場を発生させて、それを足場にしてジャンプする、という機構だ。人型形態時の挙動が素早くなる……かもしれん」
「かもしれん?」
「ああ、そうだ。実際に実験してみないと、結果は分からんからな」
「その通りです……」
──この整備班の面々には、反論はしないほうが良さそうだ。
そう、斎賀はしだいに思い始めていた。
彼らをいらだたせたり、怒らせたりするからではない。
議論がひたすら長くなるからである。
(全員オタクだな……)と、斎賀は思った。
ミューナイトはくすくす笑っている。
余裕だ。その余裕が斎賀はうらやましい。
たしかに、ミューナイトはライジングアースを自分の手足のように動かせる。
それがどのような感覚なのかは、斎賀には分かるような気も、分からないような気もした。
「他には?」
「マグネティック・シールド」
「それはどんな……機構ですか?」
「これは防御機構だ。全身の周りに磁力場を発生させて、敵のレーダーを狂わせる。ただし、対AI性能はない。AIに対してはこれまで通り、君のクラッキングを用いてもらうことになる」
「古典的な防御機構ですね?」
「たしかにね~。でもね、これが意外と馬鹿になんないんすよ? ねえ、博士?」
と、サモ。
「ええ、そうよ。この磁力場は通常の磁石や電磁石のレベルじゃない。量子力学的に磁場を発生させて、まわりの物理法則を狂わせるの。これで、敵のミサイルやビームの命中率は格段に下がるはずよ?」
と、ティア。
それは、たしかに頼もしい。
斎賀は驚いて、「んまあ?」とだけ言う。
口をあんぐりと開いたまま、ミューナイトを振り返った。
ミューナイトは、もうけらけらと笑い出している。
彼女にとっても、ライジングアースが強くなることは歓迎なのである。
まるで、ライジングアースに化粧をするか、着せ替え人形に服を着せるように、ミューナイトはその改修を楽しんでいる。
そう……斎賀は思った。
「今回の改修は、その3点ですか?」
「そうだ。できるだけ早くやる」
「しかし……統合戦線によくそんな技術がありましたね?」
「統合戦線技術軍を甘く見てはいけない。ないのは、知識ではない。予算だ」
きっぱりと、ハルク・エンベルクが言う。決然とした表情だ。
頼もしいのか、頼りないのか、よく分からない。
先日使ったハイ・フリークエンシー・ソードも、ライジングアースの奪取前から開発されていたものらしい。
統合戦線、恐るべしである。
情報軍に所属していた斎賀にとっても、技術軍は未知の部隊であるらしかった。
「だから、楽しみにしていろ、若者!」
サモ・オクンジが言った。サモのほうが、斎賀よりもずいぶん年下である。
それは……ミューナイトに言ったのか? と、斎賀は考え込んだ。
そんなふうに、その日の午後は過ぎて行った。
陰謀がらみのエピソードが続くので、閑話休題でした。




