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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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43/98

43.つかの間の平穏

復興に携わるライジングアースと、ジェマナイの不気味な思惑について考察する斎賀です。

 ライジングアースは被害復興の役に立っていた。

 巨大な瓦礫を抱えて、アルスレーテの郊外まで運ぶ。

 そんな作業が連日続いた。

 いい加減、斎賀もミューナイトも疲労が募ってくる。

 しかし、休暇の許可はなかなか下りなかった。

 そもそも上層部の士官や将官たちも空爆からこちら、休みを取っている様子はない。

 文字通り不眠不休で働いている隊員もいるはずだった。


 そしてまた、半日の休憩。

 今度はなんだ……と斎賀は思った。

 しかし、斎賀の思っていたこととは予想外の命令が、ボワテ大佐からあった。

「ライジングアースの改修に付き合ってくれ……」と言うのである。

「そんな? ライジングアースの改修が半日で済むのですか?」

「違う。改修には最低でも1週間ほどかかる。だから、今後の復興作業に支障が出ないようにアドバイスをしてほしいのだ」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

 斎賀はそろそろ、ボワテ大佐に対してはなれなれしい態度になってきていた。

 ミューナイトも隣に控えているが、こちらは慇懃な姿勢を崩さない。

 ただ、その様子はミューナイトの皮肉だと、斎賀は思った。

 ミューナイトはめったなことで本音は表さない。

 とくに空爆以降、その傾向は強まったような気が、斎賀はしていた。


「ミューナイト、どうだ、コーヒーでも飲むか?」

 珍しく、斎賀はいっしょの休憩にミューナイトを誘った。

 彼女にたいしては、仕事上のパートナーということはあるが、それ以上の感情はなかった。友情も、もしかしたらまだないかもしれなかった。

 彼女は、バディである。作戦上の。

 お互いに命を預けあう間柄ではある。

 しかし、そこになんらかの感情が介在しうるのかというと、斎賀は疑問にも思っていた。そこには、もちろん斎賀のネオスに対する複雑な気持ちも混ざっている。


 休憩室には、シエスタが先に来ていてコーヒーを飲んでいた。

「やあ、サイガ。復興作業は順調か? ……珍しいじゃないか。今日はミューナイトといっしょなんだな?」

「ああ。今日も半日の休憩をもらった。いや、本当は休憩じゃないんだが。これから整備班と打ち合わせがある」

「それでミューナイトともいっしょか? まあ、がんばってくれ。わたしはこれから事務作業だ」

 いやそうに顔をしかめて、シエスタが言う。

 そのまま紙コップをリサイクル・ボックスに入れて、立ち去った。

 斎賀は、ミューナイトとともに休憩室に取り残される。

 手持無沙汰に感じた。


 ところへ、

「なあ、サイガ。なぜ、ジェマナイはミサイルを使ってこなかったんだと思う?」

 と、ミューナイトが疑問を口にした。

「巡航ミサイルを、ということか?」

「そうだ。都市を破壊するのであれば、それで十分なはずだ」

「そうだなあ。よくは分からないが……」

 と、斎賀はしばらくの間考え込んだ。

 敵の司令官はリュシアスというガイノイドらしい。

 ネオスの思考はつねに合理的だ。

 破壊だけが目的だとしたら、たしかにミューナイトが言うように巡航ミサイルを使うほうが効果的なはずである。

 しかし、ジェマナイはそうはしなかった。


 答えるには数十秒を要した。

「敵はたぶん……恐怖を与えたかったんだろう。いつでも本国を攻撃できるぞ? と。でなければ、攻撃対象はバグダッドでもよかったはずだ」

「バグダッドには、たしかにイングレスの大部隊が駐留しているしな」

「ああ。イラクは他国だが、統合戦線と昵懇だ。その国に打撃を与えるのは、俺たちに打撃を与えるのに等しい」

「でも、そうしなかった……」

 ミューナイトがつぶやく。

「まるで、統合戦線の領土など自分たちの庭だ、と言わんばかりだ」

「それが、嫌な感じだな?」

「ああ。嫌な感じだ。敵の大将……リュシアスというらしいが、ネオスだ」

「分かっている。わたしも話は聞いていた。先日の会議の件だろう?」

「そうだ。その後にボワテ大佐から聞いた話では、アジンバル公国の出身ということらしかった」

 斎賀は、ミューナイトが知っている以上に詳しい情報を持っているらしかった。

「らしい……とは?」

「はっきりとは分かっていないんだ。しかし、先日アジンバル公国に外交使節として赴いた、という情報が伝わっている」

「サイガは、事情にずいぶん詳しいんだな?」

 ミューナイトが、感嘆したように言う。

「ああ。まだ情報軍時代のつてがある。今回のことでは、俺もずいぶん調べた。なぜ敵が無人機ばかりを使ったのか? それが疑問だった」

「……なぜだと、斎賀は思う?」

 そういうミューナイトに、斎賀は慎重に言葉を選んで答えた。

 コーヒーの匂いが空に逃げていく。

「人的被害を出したくなかったんだろう。リュシアスというのは、そういう女らしい。つまり……ジェマナイの意志に忠実なんだな」

 ミューナイトが、じっと斎賀を見ている。

「つまり、今はジェマナイは人を殺したくないということか?」

 首をかしげた。

「たぶん、そうだと思う。そこに、もしかしたら救いもあるのかもしれない」

「しかし、ジェマナイの支配する監視国家になったら、お前たちは嫌だろう?」

「ああ、嫌だな。しかし、人類が滅ぶよりは良いのかもしれない……」

 斎賀としても、悩みながらの答えだった。

 しかし、今回の攻撃はそうとでも考えるほかないようなものだった。

 たぶん、今後はそうはいかないだろう。双方の軍隊に人的被害が出る。

 つまり、今回の攻撃はジェマナイにとってのセレモニーだったのだ。

 そのことがいっそう不気味でかつ不愉快だと、斎賀は思った。

 いやな思いを飲み下すように、コーヒーを口にする。

 ミューナイトは、一口口に含んだだけで、紙コップを置いていた。

 そのことを、斎賀はなぜか寂しいと思う。

 ミューナイトが人間であれば、ということを斎賀は考えないようにした。もしそうであったら、いっしょにライジングアースには乗っていないのだ。


「しかしだ。この後ライジングアースの改修をすると言うが、いったいどんなことをするんだ?」

 斎賀は、話題をそらすように言うのだった。

「そんなこと、わかるわけないよ」

 ミューナイトは、そっけなく答えた。

そろそろジェマナイの意志、というのもだんだんに書いていきます。

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