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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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42/96

42.貴族の血(2)

場面は変わってアルスレーテです。

 アルスレーテは首都としての機能こそ失わなかったものの、完全な復興には数年かかるはずだった。

 ジェマナイの攻撃は成功だったのである。

 国会議事堂は爆破され、ホテルで緊急の議会が開かれていた。

 国会議員のうち、11名が死亡していた。


 空軍の施設は、半分ほどが破壊されたが、残り半分は残った。

 それはジェマナイの情報が不足していたのか、わざと手加減したのか分からなかった。

 もちろん、空軍が果敢に防戦した、ということはある。

 しかし、ジェマナイの目的は軍への攻撃というよりも、都市破壊だったように思われた。


 斎賀とミューナイトは休暇を申請したが却下された。

 毎日が、ライジングアースでの被害復興に駆り出されている。

 そんなある日、斎賀とミューナイトとは半日の休憩を言い渡された。

 空軍の宿舎で待機していろ、というのである。

 その理由を斎賀は聞いたが、ボワテ大佐は答えなかった。

 ただ、「追って呼び出す。理由はそのときに分かる」……とだけ言った。


 ──


 斎賀とミューナイトとは、ひっそりと静まりかえったブリーフィング・ルームへと入っていった。

 照明が落とされ、うすぐらい。

 なにかのフィルムを見ていたものらしかった。


 その場には、斎賀の見知らない空軍士官が何人もいた。

 情報軍から転属してから、まだ間もないのである。

 斎賀知っているのは、ボワテ大佐とクワメ・オバデレ准将くらいだった。

 しかも、そこに思いがけない人物がいたのである。


 あっと思った。

 週刊誌やスマホでその顔を知っていた。

 英王室の忘れ形見の一人である、アルフレッド・ウィンザー19歳が、そこにいた。


 アルフレッド・ウィンザーはオバデレ准将と何か話し合っているようだった。

 ひそひそ声なので、斎賀には聞こえない。

(英王室の忘れ形見がなぜ……政治には参加していないはずだが?)

 斎賀はいぶかる。

 ミューナイトは斎賀の隣で沈黙していた。

 しかし、その胸裏にはなにかが去来しているようにも見える……

 斎賀は、そっとミューナイトのほうを見やった。

 緊張の様子はない。

 ただ、何かが不満、といった感情を斎賀は読み取った。


 室内に照明が灯される。

 そのとき、斎賀は思いがけずアルフレッド・ウィンザーと視線があった。

 こちらから反らすわけにもいかない……

 そのまま十数秒、斎賀とアルフレッド・ウィンザーは見つめあっていた。


 アルフレッド・ウィンザーは、今から10年前に2人の弟とともに、統合戦線に亡命してきた。

 イギリスでは第四次世界大戦後の混乱で王制が廃止され、共和国となっていたのである。

 父親であるリチャード・ウィンザー1世は、共和派によって殺害されていた。

 母親は行方不明である。


 議論が進んでいく……

 イギリス王室の復権、といったキーワードが出たが、斎賀には今ひとつ会話の内容が分からない。

 大半は政治の話で、多数派がどう、といった言葉は彼にも分かった。


 統合戦線にもヨーロッパやアメリカからの亡命者はいる。

 その多くが平和的な目的で、政治亡命はまれだった。

 イギリス以外の王制の国も、一応の体裁を維持している。

 ジェマナイの攻撃で、その国土のほとんどは廃墟と化していたが……


 斎賀はひとつの疑念を持った。

 アフルレッド・ウィンザーがこの戦争……とくにライジングアースに興味を持っているのではないか、という。

 そして、その予感はたしかにあたっていた。


 斎賀は、オバデレ准将に声をかけられる。

「サイガ中尉。こちらはアフルレッド・ウィンザーだ。どうも、君も知っているようだね」

「はい……写真では何度か。王子、初めして。シンイチ・サイガと申します。ライジングアースの、コパイロットをしています。こちらは、パイロットのミューナイト」

 と、立ち上がって型通りの挨拶をする。

 ミューナイトはやはり黙ったままだ。

 アルフレッドは席についたままで、軽く会釈をした。

「実は、こちらの王子がどうしても君たちに会いたいということだった。それで……無理を言ってこちらの施設に来てもらった。ご足労をかけた、ということになる」

 と、オバデレ准将。

 ……王子はようやく口を開いた。

「初めまして、サイガ中尉。わたしはアルフレッド・ウィンザー。英王室の王子、ということになっていますが、亡命者の身です。今現在、祖国は共和国となっており、わたしの居場所はありません。ですが……その祖国もジェマナイの脅威にさらされている。それを、わたしはどうにかしたいのです。元王子の身として……」

 それはよどみのない言葉だった。

 19歳にしては、すこし大人びている。というか、やはりという気が斎賀はした。

 王子は、政治的な目的をもってこの場に臨席しているのである。


「どうにか、と言ってもわたしに何ができますか?」

 斎賀は尋ねる。これも型通りだ。

「あなたがたには、ライジングアースがあります。強大な武器が」

「それで……」

「ジェマナイに勝ってほしいのです」

 王子がきっぱりと言う。

 斎賀は驚いた。

「そのことを王子がわざわざ?」

「わたしは現在王子ではありません。しかし……」

 ややためらいながら、王子は言った。

「王制を復活させたいと?」

「それは理想です。政治は理想通りにはいきません。わたしは、ただ祖国をなんとかしたいのです」

「それは、素晴らしいお考えです。……ですが」

 斎賀は戸惑う。

 しかし、

「ですが、はありません。ジェマナイに勝つことは、あなたの義務です。あなたには、人類を救う義務がある」

「わたしはそんな大した人間では……」

 斎賀は言葉につまった。

「力をもつ者には義務があります。かつての父と同じです。あなたがたは、力を持っている」

 アルフレッドは、顔の前で手を組んで、祈るような表情をする。

 その微細な表情の変化を、斎賀は見逃さなかった。

 この王子は、なにかを心のなかに持っている。

「そうなのかもしれません。しかし、このミューナイトは……」

「ネオスです。そして、敵もネオスです。わたしは敵の名前を知っています。リュシアスという統合政体ロシア・アジア共栄圏の統合軍戦略・戦術長官です。恐ろしい……仮面の女」

「そこまでご存じとは……政治に明るくていらっしゃるのですね?」

 斎賀は言わなくてもいいことを言った。

 予想通り、王子は険しい表情をする。

 ミューナイトはやはり黙っていた。

「この情報は、オバデレ准将からのものです」

「やはり?」

「そうです。今のわたしには情報を得るすべすらない……無力なのです」

 アルフレッドは考え深げに答えた。

 その様子は、19歳の青年そのままの悩める姿だと、斎賀には思えた。

 しかし、こうも考えるのだった──王子の言葉には、祈りと命令との区別がない、と。


「微力ながら……お力添えします」

 斎賀に言えたのは、そんな言葉だけだった。

 アルフレッドが深く礼をする。日本式だ……

 そこまで、と斎賀は思った。

 アルフレッドは、人類の行く末のことを考えているのかもしれなかった。

 そして、ミューナイトは最後まで口を開かないままだった。

またキーパーソンが出てきました。

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