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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第三部

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41.貴族の血(1)

現在のネパールにあたるアジンバル公国での話。

 リュシアスは、カトマンズの空港に降り立った。

 6年ぶりに呼吸する空気である。

 空が近い。

 それは、この国がたしかに高地にあることを示していた。

 しかし、それだけではない。

 戦火から遠い国なのである。

 それが……リュシアスにとっては苦かった、二重の意味で。


 アジンバル公国は、名目上の独立を保ってはいるが、ジェマナイとの関係が深い。

 今から33年前に起こった第四次世界大戦でも、当時民主国家だったネパールは無傷だった。

 そして、北欧諸国からの亡命者によって、国の人口は爆発的に増大した。

 公王が立ち、ネパールはアジンバル公国となった。


 リュシアスは、12歳にして、この国の宰相であるドニエスタル侯爵の側近となった。

 リュシアスは果断な内政改革を断行するドニエスタル侯爵の右腕となり、いずれは国政にも参画するかと思われた……

 しかし、リュシアスの考えていたことは違った。

 この、世界を支配する「ジェマナイ」という統合意識体に魅入られたのである。

 リュシアスはトムスクに向かった……


 それからの経歴は謎に満ちている。

 ネオスとしてロシア連邦の統括軍という部局に入隊したが、14歳で一佐、15歳で三将となった。

 軍入隊以来7年間、リュシアスはずっと一線で活躍しつづけている。

 そして、今は統合政体ロシア・アジア共栄圏統合軍の戦略・戦術長官である。


 何年前からだろうか……仮面をつけるようになったのは。

 当時のネオスは人間とは異なる風貌を持つものも多かったため、容姿を気にしたのではないか、と言われたが、実際にはリュシアスは美しい素顔をもっていた。仮面はそれが理由ではあるまい。

 素性の謎もあいまって、リュシアスは軍内で異様な存在感を誇っていた。

 リュシアスの顔色一つで、首が飛ぶ、とも言われた。

 それは、文字通りの意味においてである……


 カトマンズの大通りには、整然とした高層ビルが立ち並んでいた。

 アジンバル公国の人口は、現在550万人を数える。

 数の点では、ジェマナイよりも上である。

 現在、この国は科学力の向上と経済的な繁栄を目指している。

 軍拡も著しく、北欧由来の戦闘機グリペンネオなどを所有している。

 ジェマナイからは、ちかごろビッグマン3機を貸与されたばかりだ。


 ハヌマン・ドーカに入るのも、6年ぶりだった。

 この宮殿内には、アジンバル公国の実質的な支配者であるドニエスタル侯爵が住んでいる。

 国内の議会は、民主派が約20名、改革派が約100名で、改革派が圧倒的に多い。

 ドニエスタル侯爵は、そのなかでも急先鋒である。


 ドニエスタル侯爵は、厳しい視線をやわらかに細めながら、リュシアスを迎えた。

「よく来たな、リュシアス。6年ぶりか……」

 リュシアスは拝礼する。

 この国の中では、公のほうが位が上である。


「その仮面はなんのためだ?」

「心のうちを見せないためでございます、侯爵」

「美しい顔を隠すのか……。部下たちは、さぞかし残念がっていることだろう」

「いいえ。むしろ、わたしの冷たい視線を見ずにすんで、ほっとしているかと」

「皮肉を言う」


 ドニエスタル侯爵の現在の側近が、拝礼して去る。

 謁見室のなかには、侯爵とリュシアスだけが残された。

 これから、政治的な話が始まる。


「侯爵はいまだに、人間は滅びると思われていらっしゃるのですか? これからはネオスの時代だと……」

「うむ。人はその理性を機械に託すべきときがきた。いや……機械とも言えぬか、ネオスは」

「ネオスは機械です」

 リュシアスは冷たく答えた。

 自らの本質を恥じてでもいる、といった話しぶりである。

 ドニエスタル侯爵は、その眼光を怪しく光らせた。


 この国には、今1000人の貴族がいる。

 その半数は、もともとの土地の有権者。

 そして、残りの半数は、もともとは科学者や技術者だった者たちだ。

 権威がそれを要請した。

 国は急激に軍事に舵を切り始めている。


「では、ジェマナイとの軍事協力にも迷いはないと?」

「血を流さずば、なるまい。今、世界は統合戦線の一強だ。強国は叩かれねばならない」

「共栄圏がありますでしょう?」

「共栄圏は国ではない。というより、国はすべてなくさなければならないのだ。わがアジンバルも含めて」

「公は、ご自身の力を失うことにためらいはないと?」

「ふふ……それよな。それについては、もう少し詳しく話さずばなるまい」

 油断のない瞳を、ドニエスタル侯爵は光らせた。

 公はなにも変わっていない、とリュシアスは思った。

 彼女はジェマナイの外交官もかねていたが、侯爵の気質は、彼女が公の秘書をしていた時代と同じだ。

 つねに合理と冷酷を併せ持つ。

 自国民の犠牲をなんとも思っていないのだ。いや、むしろ人類の犠牲を、といったところか?


「ところで、ジェマナイから貸与したビッグマン3機については順調ですか?」

 リュシアスは、これからのジェマナイの作戦にアジンバル公国も協力してもらうつもりでいた。

「それがだ、パイロットの選考が難航している。わが国にはネオスが少ないからな……」

「数の問題でしょう? 優秀なネオスは多い」

「お前のようにな?」

 ドニエスタル侯爵は笑った。リュシアスは笑わない。

「先日のアルスレーテ戦では、敗戦したそうだな?」

 侯爵が話題を変える。

「敗戦はしておりません。作戦は成功しました」

「しかし、ジェマナイのビッグマンは破壊されたと聞いている」」

「少破です。パイロットは生還しました」

「そうか……」

 ドニエスタル侯爵は口調を落とした。

 リュシアスが無愛想なのは以前からだったが、それにしてもすこし変わった……と思った。ふと、指先の宝石に手のひらを当てる。


 重い扉の開く音がして、侯爵の側近が再び広間に入ってきた。

 ドニエスタル侯爵自身も、リュシアスも時間に追われる身だった。

ドニエスタル侯爵も物語の裏で動きます。

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