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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第二部

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40/97

40.アルスレーテ空爆(6)

戦闘終了です。

 ──苦々しい戦況だった。

 無人機群は、アルスレーテの市街に圧倒的な破壊を加えている。

 都市機能の回復には、しばらくの時間がかかるだろう。


(にもかかわらず……司令官である自分自身が被弾してしまった)

 と、セラフィアは胸のなかに呟く。

 無線通信の回線を開いて、味方のスホーイ群に告げた。

「作戦はこれで終了とする。即時撤退せよ。繰り返す、作戦はこれで終了とする。即時撤退せよ」

 その撤退の引き金になったのが、自分のミスだということを、セラフィアは痛いほど思った。


 戦いの前には、敵の実力を測りたい、という自信があった。

 自分は損害を受けずに帰投できる、との思いもあった。

 しかし、現実には敵ビッグマンが出てきて、自分の機体は左足(左尾翼)を破壊されてしまった。


 プライムローズを人型形態に変形させた。

 セラフィアは、大量のAIかく乱チャフをまいて、機体を高度2万フィートまで上昇させる。

 プライムローズは、人型形態でもVTOL機なみの機動性がある。

 左尾翼を失っての飛行形態での飛行はできないが、人型なら、相手なら逃れられる隙はある。

 セラフィアはミサイルの残弾をすべて撃ちつくした。

 これ以上の攻撃は無用だった……


「繰り返す。Su‐77はすべて撤退せよ。無人機群も帰投させる」


 ──


(ちっ、逃げられたか。ミューナイト、対ミサイル用の防御を!)

(やっている! どならないでくれ!)

 斎賀の愚痴に対して、ミューナイトも感情的に答えた。

 ヌール・ジュマのイングレスαを救ったとは言え、チーム・ンデゲは6機が失われた。

 チーム・アマリの現状は分からなかった。


 敵の編隊が撤退していく。

 潔い行動だった。

 アルスレーテが空爆にさらされていた時間は50分。

 ライジングアースの起動時間は43分だった。


 斎賀とミューナイトは、ライジングアースをアルスレーテ北空港に帰還させる。

 コックピット・ハッチを開けて外に出た斎賀は、空を見上げた。

「何しているの、サイガ? 早く出てよ……」

「分かってる。しかし」

 斎賀は思っていた。

 この空をさっきまで敵が覆っていたのだ。


 警戒アラートはまだ鳴っていたが、ライジングアースもまたミサイルを全弾撃ち尽くしていた。

 第二次攻撃があるとしたら、まもなくだろう。

 それまでの間に武装を補填しなくてはならない。


 イングレスαが1機、また1機と着陸してくる。

 ライジングアースはトーイングカーによってけん引されていた。

 横たわった状態で、格納庫に収納され、斎賀とミューナイトはライジングアースを降りる。

 

 ミューナイトは小指をさすっていた。

(怪我をしたのか?)と、斎賀は心配する。

 ただ、なんと声をかけていいのか分からない。

 ただ、「お疲れ」と言った。

 ミューナイトがこちらを振り向いて、斎賀の顔を見上げる。

「サイガも。次、来るかな?」

「分からない。たぶん……もうないだろう。アルスレーテは十分破壊しつくされた」

「そうだな。上空から見たらわかる。駅もビルもめちゃめちゃだ」

「これが、奴らの目的なんだろう。俺たちに恐怖を与えるということが……」

 ミューナイトはうなずいた。

 斎賀は、もの思わし気に格納庫を見やった。

 整備班が総出で、ライジングアースの機体にとりついて作業をしている。

 災害出動もまもなくだろう。……いや、戦後処理か。


「俺たちは街を守れなかった。というより、俺たちが敵を引き寄せた。犠牲者の数はどれくらいだろう?」

 斎賀は、ただ淡々と話す。

 その様子がなんとなく怖い、とミューナイトは思った。

 が、ゆっくりしている暇はない。

 斎賀はブリーフィング・ルームで急いで食事を取って、また出動だろう。自分も。


「なあ、ミューナイト。ビッグマン1機動かすのに、どれくらいの金がかかるか知っているか?」

「いや、知らない。どれくらいなんだ?」

「巡洋艦1隻動かすのと同じくらいの費用だそうだ。俺も、上層部が漏らすのをこっそりと聞いた」

「うん。それで……」

「だから、敵のビッグマンもそうそうこちらに攻めてはこない。しかし、今回は来た」

 ミューナイトは無言で斎賀を見つめている。

 また1機、イングレスαが着陸した。味方のイングレスαは何機残ったのだろう……情報が混乱していて、ミューナイトも把握していない。

 しかし、斎賀はヘッドアップ・ディスプレイで確認していた。

 チーム・チーム・ンデゲは7機、チーム・アマリでは3機のイングレスαが失われた。

 それから、アルスレーテ南空港から支援してきた、エル・グレコが13機、撃墜された。

 今回の攻撃で、アルスレーテは非常に防御態勢が弱いということが露呈した。

 きっと、ダルエスサラームから何機かのイングレスαとエル・グレコが回されるだろう……

 そうしたことを、斎賀は元情報軍の感受性で分析していた。


(これからは、ビッグマン同士の戦闘がメインになるだろう。だが、俺たちは複数のビッグマンを相手に戦えるのか?)

 斎賀は、理性的にそんな計算をする。

 それが、ミューナイトにも静かに伝わる。(サイガはもう今後のことを考えているのだ……)


 斎賀は、ムルマンスクで戦闘したアリューシャンとアコーディオも鹵獲出来ていれば、と思った。

 統合戦線側のロボがライジングアース1機では、少なすぎるのだ……

(俺が過労死することはかまわないが……)

 その先を、斎賀は考えなかった。


 ──


 ブリーフィング・ルームには、次々に被害状況が報告されてきていた。

 そのなかで、パイロットたちは黙々と食事を取っている。


 斎賀のそばに、シエスタが近づいてきた。

 沈痛な面持ちをしている。

 シエスタは、まだチーム・アマリに参加して間もない。

(自分は……)という矜持があった。(味方を守れる)と。

 シエスタは、イングレス部隊のことは言わず、ミューナイトを気遣う発言をした。


「サイガ……。お前のパートナーはどうしている? また出動なんだろう?」

「ああ。たぶんな。……あいつは大丈夫だ。ドリンクだけ飲んで作戦室に行った」

 そして、斎賀は一呼吸おいてから続ける。

 食べている弁当のパンくずが、唇の端についていた。

 それをスポーツドリンクで流し込みながら、

「最優先にすべきは、アルスレーテ中央駅の復旧だそうだ。ライジングアースが役に立つ」

「人を守る武器になるんだな?」

「これまでもそうだ」

 斎賀は決然として言った。

 その目が厳しかった。

「たしかに。お前は、ヌール・ジュマ大尉を救ってくれた。ありがとう」

 シエスタはそう言った。

 戦死者のことは、一言も口に出さなかった。


 統合戦線アフリカ機構の大統領メイサ・ヤハンは、ただちに統合政体ロシア・アジア共栄圏に対して抗議声明を出したが、返答はなかった。

 夜の帳が落ちる。アルスレーテの空は、まだ煙の匂いをまとっていた。


アルスレーテ空爆はこれで幕。第二部終了です。次からは第三部になります。

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